懸垂式のパイオニアとして半世紀 湘南モノレールが全通50周年記念セレモニー アップダウン続く路線はジェットコースター!!【コラム】

50周年記念セレモニーの様子。須田駅長が大船行き記念列車に出発合図を送りました。

神奈川県鎌倉市の大船駅と藤沢市の湘南江の島駅を結ぶ、6.6キロの湘南モノレール江の島線が2021年7月2日に開業50周年を迎え、湘南江の島駅で記念セレモニーが開かれました。線路にぶら下がって走る懸垂式という珍しい形式のモノレールで、国内の営業路線は湘南と千葉都市モノレールだけ(広島のスカイレールを除く)。下部をさえぎる物が何もない、迫力いっぱいの風景が車窓に広がります。

関係者によるくす玉割り。江ノ電、藤沢市、藤沢商工会議所、新江ノ島水族館の代表らが開業50周年を祝いました。

本稿前半は、懸垂式モノレールのショーケースとしてメーカー主導で開業、そして40年余を経た2015年、地方のバス再生に実績を持つ、みちのりホールディングス(HD)傘下に入って再スタートするという、いささか変化に富む歩みを略史の形で回顧。後半は路線紹介に続き、公募で選ばれた50周年記念マークの発表、尾渡英生社長ら関係者によるくすだま割りをはじめとする、セレモニーの様子を報告します。

跨座式と懸垂式が覇権争い!?

【湘南モノレールあの日あの時】1971年の全線開業時の装飾列車。開業時から駅名は「湘南江の島」でしたが、行き先表示は「江の島」と簡略化されています。(画像:湘南モノレール)

湘南モノレールの歴史に関しては、同社ホームページに詳述されていますが、ここではポイントをエッセンス風にまとめました。

大船駅からモノレールに乗車すると、湘南町屋駅への接近時、おなじみの〝スリーダイヤマーク〟が眼下に見られます。三菱電機鎌倉製作所。鉄道電気品のトップメーカー・三菱電機の工場や研究施設があります(本稿には関係ありませんが、今回の〝事件〟は鉄道ファンの1人として非常に残念なこと。早期の信頼回復に期待しましょう)。

読者諸兄がモノレールと聞いて思い浮かべるのは、羽田空港とJR浜松町駅を結ぶ東京モノレール、関西圏の方は伊丹空港アクセスの大阪モノレールでしょうか。これらは跨座(こざ)式という線路にまたがって進む方式で、主に日立グループが開発を推進しました。対して、三菱グループが採用を働き掛けたのが懸垂式。線路をまたぐのか、それともぶら下がるのか、両陣営は激しい覇権争いを繰り広げていました(少々オーバーですが……)。

三菱グループ3社が出資

【湘南モノレールあの日あの時】開業当初の湘南モノレール。路線は単線ですが、沿線4駅で行き違いできるようになっています。(画像:湘南モノレール)

跨座式の東京モノレールに対し、懸垂式には営業路線がなく、実用性や耐久性などを証明しようと構想されたのが湘南モノレールです。湘南モノレールには、三菱グループから三菱重工業、三菱電機、三菱商事が出資しました。1970年3月7日に大船ー西鎌倉間4.7キロが先行開業。翌1971年7月2日に、全線で営業運転を始めました。

開業当初から現在と同じ、最高時速75キロで運転。列車は当初、2両編成でしたが、1975年に中間車を製作して3両編成に増結しました。路線には急カーブ区間も多く、車両間の行き来はできない構造になっています。

バス事業再生に実績持つみちのりHD傘下に

湘南モノレールは沿線住民や江の島・鎌倉観光客の移動手段に加え、懸垂式モノレールのショーケースとしての役割を持ち、株式の多くは三菱系3社が保有していました。しかし、2010年代に入ると三菱グループは懸垂式を普及させる役割は終わったと判断。その結果、2015年5月に株式がみちのりHDに譲渡され、再出発することになりました。

みちのりHDは岩手県の岩手県北バス、栃木県の関東自動車、茨城県の茨城交通などの再生を手掛け、福島県の福島交通では鉄道運営にも実績を持ちます。みちのりグループ入りした湘南モノレールは、もっと多くの人に利用してもらおうと情報発信を強化しました。

2015年以降の湘南モノレールは、イメージアップやサービスアップ施策を矢継ぎ早に打ち出します。車両は、新鋭5000系を相次いで投入し、全7編成を5000系に置き換え。新車は編成ごとに基調色を変え、鉄道ファンや沿線住民、特に子供たちにモノレールに乗る楽しみを演出しました。

サービス面では、2018年4月から関東私鉄系ICカード乗車券「PASMO」のネットワークに加入。懸案だった湘南江の島駅ビルのリニューアルにも取り組み、誰もが利用しやすいユニバーサルデザイン(UD)の公共交通機関として、地域のシンボルになっています。

湘南の〝ジェットコースター〟

大船駅に停車中の5000形車両。最近の鉄道車両らしく前面にはワイドなガラスが使用されています。

さて、本サイトをご覧の皆さんにもモノレールに乗車していただきましょう。始発は大船駅。JR大船駅とは2階フロアで連絡します。路線は鉄道でいえば全線単線。3両編成の列車がホームに滑り込んできます。

湘南といえば、皆さん何を思い浮かべるでしょうか。海や江ノ島、音楽好きの方なら加山雄三さんにサザン(オールスターズ。鉄道で「サザン」といえば、南海電気鉄道の和歌山特急ですね)かも。でも湘南モノレールの沿線に、そんなステレオタイプの湘南は全然ありません。

路線が走るのは、主に鎌倉市西部の起伏に富んだ丘陵地帯。湘南モノレールのホームページにある、「最高時速75キロ、まるでジェットコースター! 激しいアップダウンに、トンネル、カーブ、急勾配(こうばい)。アトラクション満載のコースをお楽しみいただけます」の表現は、あながち誇張とばかりはいえません。

鎌倉の森を走る登山電車

住宅街を行く大船駅の発車後。沿線の建物からは、どこか〝庶民派のモノレール〟の印象を受けます。

大船駅を発車後、列車は直ちに加速。眼下は一車線の道路で、東京都心のビル街を悠然と走る東京モノレールとは、かなり雰囲気が異なります。列車は右へ左へとカーブを切り続け、かなりのアップダウンが続きます。

「湘南の」の枕詞に続く風景は、普通なら「海」でしょうが、残念ながら湘南モノレール沿線に海はなし。特に湘南深沢駅からは上り勾配で森に突っ込み一瞬、登山電車に乗車している感覚にもとらわれます。沿線にはトンネルもあり、鎌倉山隧道(ずいどう。ご存じと思いますがトンネルのことです)は全長450メートル。終点の湘南江の島駅近くには、250メートルの片瀬隧道もあります。

ここで、最初に書き忘れた湘南モノレールの歴史を思い出しました。路線選定には多数の案があったそうですが、最終的には京浜急行電鉄が当時、所有・運営していた自動車専用有料道路・京浜急行線(現在は市道)の上空を利活用したそうです。鉄道とモノレール、形態は違っていても湘南モノレールと京急には、間接的な関係がありました。

森やトンネルを抜けると、いよいよ終点の湘南江の島。地形の関係で、駅ホームは駅ビル5階の高層にあり、1階に降りると目の前を江ノ電(江ノ島電鉄)が走ります。以上で大船から14分間の旅は終了。1キロ足らず先に江の島、そして湘南の海が広がります。

「これからも地域とともに歩むモノレールとして」

5602形に取り付けられた記念ヘッドマーク。ガラスドアを通した車内への掲出です。

最終章では、湘南江の島駅での50周年記念セレモニーの様子をリポートします。湘南モノレールのオフィシャルサポーター、DJ・HAGGYさんがMCを務めたセレモニーでお披露目されたのは50周年記念マーク。「50th」の文字と、モノレール車両、それに沿線の森や湘南の海、車窓に広がる富士山などをあしらった、神奈川県葉山町のデザイナー・朝川賢一さんの作品が応募157点から最優秀賞に選ばれました。これから1年間、列車ヘッドマークのほか、さまざまなイベントなどに使用されます。

デザイナーの朝川さん(前列中央)が尾渡社長(右端)から表彰状を受けました。朝川さんは、たまたま初めて乗車した湘南モノレールの駅ポスターで、記念マークの募集を知ったそうです。

尾渡社長は、「これからも皆さんに愛されるモノレールとして、次の50年に進みたい」と宣言。鈴木恒夫藤沢市長や藤沢商工会議所の増田隆之会頭らとともにくす玉を割った後、5階ホームに上がり、記念ヘッドマークを列車に掲出。須田忍駅長の出発合図で、記念列車は大船に向け発車しました。

湘南モノレールからは50周年記念として、「全線開通50周年記念入場券セット発売」、「記念スタンプ帳販売」、「鎌倉女子大学などと『モノレールしんじょのおやき』考案」、「記念オリジナルビール『イエローコメット』『パープルコメット』限定販売」の4件のニュースが発信されています。今後も話題豊富な湘南モノレールに注目しましょう。

文/写真:上里夏生

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