『子どもの脳を傷つける親たち』発売。子どもの健全な成長を阻む危険な行為とは?

19万件──。 これは、 2019年度に厚生労働省が報告した児童虐待相談件数。 その後、 新型コロナウイルスの蔓延とともに、 わたしたちの生活は一変した。 同省は2020年1月から7月分の速報値としてとりまとめた虐待相談件数の「動向」のなかで、 感染対策として行われた学校休業や外出自粛に伴って、 家庭のなかでの虐待のリスクが高まっていることを指摘している。 そのようななか、 福井大学子どものこころの発達研究センター教授で、 小児精神科医の友田明美氏は、 「ストレスやうつ症状を抱えた親子が、 ソーシャルディスタンスによって『公』の空間から隔絶されて長時間過ごすことは、 親子を危険な状況にさらしている」と警鐘を鳴らす。その友田氏は2017年に上梓した『子どもの脳を傷つける親たち』のなかで、 「 チャイルド・マルトリートメント(不適切な養育) 」によって、 子どもの脳が物理的にダメージを受けるという科学的エビデンスを紹介。 その内容は、 衝撃とともに多くのメディアに取り上げられた。 そして、 いまも親層・祖父母層だけでなく、 学校の先生や保健師さんなど、 子どもに接する人たちに読まれている。 本書のなかに繰り返し登場する「マルトリートメント(maltreatment)」とは、 mal(悪い)とtreatment(扱い)が組み合わさった単語で、 先に触れたように日本語では「不適切な養育」と訳される。 「虐待」とほぼ同義ですが、 加害意図の有無にかかわらず、 子どものこころと身体の健全な成長を阻む、 不適切なかかわりを指す。「虐待」と聞くと、 多くの人が「自分の子育てには関係のないこと」だと考えるはず。 しかし、 殴る蹴るといった暴力行為でなくても、 日常に潜むマルトリートメントによって子どもの脳とこころは確実に傷ついていく。 たとえば、 子どもの前で激しい夫婦げんかをしたり(面前DV)、 長時間叱り続けたり、 事あるごとにきょうだいや友達と比較したり──。 どこの家庭でも見られるこれらの行為が継続され、 頻度と強度を増したとき、 子どもの脳はこの苦しみを回避しようとするかのように、 自ら形を変えてしまうのだ。さらに重要なのはここから。 マルトリートメントによって、 子どもの脳機能に悪影響がおよんだとき、 生来的な要因で起こると考えられてきた学習意欲の低下や非行、 うつ病や摂食障害、 統合失調症などの病を引き起こす、 または悪化させる可能性を明らかになってきたのだ。

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