年間倒産は7,000件前後の見込み、新型コロナの影響強まる

 東京商工リサーチ(TSR)は7月9日、官公庁の担当者向けに倒産状況の説明会を開催した。友田信男・常務取締役情報本部長が2021年上半期(1月~6月)の倒産概況を解説した。
 説明会は、新型コロナウイルス感染防止を考慮してWeb形式で開催した。

 説明の要旨は以下の通り。

 2021年上半期の倒産(負債1,000万円以上)は3,044件で、過去50年間でバブル末期に次ぐ2番目の低水準だった。
 年初の見通しでは、2021年の企業倒産は1万件、休廃業・解散は5万3,000件に達する予想だった。しかし、政府や自治体による給付金、助成金やゼロゼロ融資などの支援継続の効果で、倒産の抑制が続いている。現状では、年 間1万件には届かないだろう。ワクチンの接種状況など引き続き不透明な要素もあり、2020年の7,773件を下回る可能性もある。3月に終了予定だった政府系金融機関での「ゼロゼロ融資」など支援策の継続もあり、新たな見通しは、年間で7,000件前後を見込んでいる。
 2021年上半期の負債1億円未満の倒産は2,293件にのぼり、構成比では過去30年で最も高い75.3%となった。倒産は体力のない小・零細企業にシフトしている。
 産業別では、不動産業、運輸業で増加したが、それ以外の8産業で減少した。倒産の増加が懸念されていた飲食業、宿泊業を含むサービス業他も前年同期比で23.0%減少した。不動産業では、オフィス需要の減少やテナントの撤退などが影響した。運輸業は、バス・タクシーなどで増加しており、どちらもコロナ禍が背景にある可能性がある。
 また、前年同期比では減少となっているものの、建設業では減少率が縮小している。木材の値上がりなど、「ウッド・ショック」が今後どういった影響を与えるかも注視しておかなくてはならない。
 業種別では、飲食料品小売業が前年同期比46.6%の大幅減だった。大手スーパーだけでなく、地域の小さな食料品店などでも巣ごもり需要の恩恵を受けたことが、倒産の減少に寄与した。
 原因別では、『不況型』倒産が上半期としては過去30年で最高の85.7%を占めた。ここにきて、体力がなくなってきている企業が増えている。

官公庁向け説明会

‌倒産概況を説明する友田・TSR情報本部長

 破産が全体の9割近くを占めていることにも注目する必要がある。負債も小規模なものが多く、コロナ禍で深刻な影響をうけた小・零細企業が事業再建を諦めて破産する状況が透けて見える。事業再建の意思や可能性がある企業も、コロナ禍で減少している。
 他に特徴的なのは、特別清算の増加だ。グループの再編や、採算の取れない事業の債権償却、収益性の高い事業のみを別会社に移した後の元会社の清算など、全体的な流れとして増加傾向にある。これはコロナ禍での事業再構築のなかで、今後も増えるのではないか。
 近年、倒産企業の負債額は年商と同じくらいの規模であることが多かった。しかし、ここにきて負債額と年商のアンバランスが目立つようになってきた。過剰債務とまでは言えないかもしれないが、年商規模と比べて負債が少しずつ増えてきているというのは、注目している点だ。
 売上の確保、過剰債務、サプライヤー(取引先)問題といった、中小企業にとっての三重苦も顕在化している。
 中小企業のほぼ半数は業績が落ち込んでいる状況下で、ゼロゼロ融資や納税猶予などの緊急避難的な支援が効果をみせている。しかし、コロナ禍が長引くなかで、支援の種類も緊急的な赤字補填から本業支援へと変化している。融資などで一時は一息ついた企業も、業績が回復しなければ過剰債務に陥る。3社に1社が過剰債務といえる状況で、規模が小さい企業ほど、一時は資金繰りの助けになった支援(借入)が、返済開始のタイミングではむしろ負担になってくる。
 負債1,000万円未満の倒産は、2年ぶりに前年同期を下回り、コロナ関連支援の効果があったのは確かだ。ただし、本業回復に繋がらない一時凌ぎでは、今後が厳しい。
 現時点ではリスケ(返済猶予)なども弾力的に運用されているが、いつまでも返済猶予できるわけではない。
 また、(金融機関や信用保証協会の)審査体制が平時に戻り、コロナ禍当初のような資金調達が難しくなってきている。今、支援で生き延びている企業への対応が、今後どうなっていくのか。「伴走支援型特別保証」や「資本性劣後ローン」などの動きもあるが、業績悪化が深刻な企業はこういった支援を受けることは難しい。場合によっては、手元資金の枯渇が現実味を帯びてきている。

 全国でワクチン接種が進みつつあり、東京五輪・パラリンピックも目前となっているが、東京の緊急事態宣言の発令に加え、無観客開催も決定された。ここにきて、景気の刺激策としてのオリンピックの効果が不透明になっている。
 緊急事態宣言は、飲食業の業績回復を困難にするうえ、飲食業に納品している卸売業者や製造業者まで苦しくなる。特に、東京は大消費地なので、緊急事態宣言が出ると影響は全国に広がり、地域外の生産者まで影響を受ける。東京の企業だけ見るのではなく、視野を広げる必要がある。また、移動の自粛によって、宿泊業や運輸業にも影響が出る可能性がある。
 新型コロナ関連倒産は、2021年1月以降、月100件超えが続いている。全体の倒産が減少している反面、新型コロナの影響は強まっており、倒産全体に占める割合は25.0%にのぼる。
 上場企業は、6月の時点で前年より3カ月早く早期・希望退職が1万人を超えた。秋口以降も、業績次第では早期・希望退職が増加する可能性が高い。これは、秋以降の中小企業の雇用の問題にもかかわってくる。大企業の業績が厳しいなら、中小企業では当然もっと厳しいということだ。
 コロナ禍で資本金を1億円以下に減資した企業も997社にのぼる。税制上の優遇措置や財務体質の改善など目的は様々だが、大企業においてもコロナ禍の影響は小さくなかった。
 コロナの影響は現状にとどまらず、これから本番を迎える可能性もある。今後は息切れ倒産という形で、夏以降、倒産件数は緩やかに増加していくだろう。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年7月13日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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