第17回「「本気で好き」だから「もう逢わない」。」

レズっ娘クラブではお客様からキャストへのガチ恋は御法度です。告白すれば指名NG、さらにいき過ぎた行動に出られると、お店自体への出禁になることもあります。これはキャストにとっても、すごくつらいことです。 そうしてお互いが傷つく前に、みずからお店を"卒業"するお客様もいらっしゃいました。卒業とは、もうお逢いできないことを意味します。とても悲しい選択です。 でも、このまま好きという気持ちが大きくなっていくことも、耐えがたい。 そのお客様は、「ゆうに逢うのがつらくなった」と話してくれました。ほかのお客様と逢っているのを想像したくない、自分ではない人に宛てたブログを見るのもしんどい。そんな感じだったようです。独占欲と嫉妬、いろんな想いで困惑していたのでしょう。 * * * 「本気で好きになったから、もう逢うのは最後にしたい」 そう告げられたとき、私もショックでした。 最後だというその日は、特別な場所で長時間のお泊りコース。特別というのは、私がずっと行きたかったホテルを予約してくださったからです。 そこでいつものように本格的に交わるのではなく、ほとんどの時間を添い寝して過ごしました。 それが私たちの卒業式でした。 もう逢えないのかと思うとぐっと込み上げてくるものがあり、感極まるのを何度も食い止める。私にとっては、そしてきっとそのお客様にとっても、そんな時間でした。 こんなふうに最後の時間を過ごせたことを、私は感謝しています。 もし同じように本気の恋愛がつらくなっても、たいていのお客様は、私たちには何もいわないままお店を利用されなくなるだけだからです。自然消滅のようなものです。 お店を通してお逢いするので、私たちはお客様の連絡先も知りません。だからご利用がなくなれば、私たちはお客様の行く末を知ることができません。これはキャストを守るためのルールでもあるのですが、こうしたときはさみしさを感じずにはいられません。 それは、卒業の本当の理由がわからないということでもあります。 お客様がお店をご利用されなくなる理由は、さまざまです。 金銭的に厳しくなったり、環境が変わったり、パートナーができたり。 遠方への引っ越し、怪我、入院。 レズ風俗そのものをご利用しなくなることもあるでしょう。 ほかのキャストに乗り換えている、なんてこともありえます。 考えたところで、私たちにはどんな理由かわかるわけもないのです。 でも、卒業は、悲しいことばかりではありません。 私と逢わなくなっても、次の新しい生活がはじまります。それがお客様にとっていいことであれば、止める必要もありません。 実際、卒業式をしたお客様は、再び予約をして私に逢いにきてくださいました。再会した私たちはたしかに楽しい時間を過ごしました。 その日、彼女は「これで最後」とはいいませんでしたが、それっきり逢っていません。彼女の恋愛感情がその後どう変化したのか、または、変わっていないのか……。 これもまた、お客様ご本人にしかわからないことです。 そして、キャストもお店を卒業します。 私はキャストとして13年間、レズっ娘グループに所属していますが、これは結果としてそうなったという話です。このお仕事が好きで、楽しくて、気づいたらこれだけの時間が経っていました。キャストの卒業は、いつやってくるのかわかりません。お客様と同じく、私たちもさまざまな背景がある人間だからです。 悲しくなってしまいそうですが、こんなふうにも考えられませんか? 私たちは、このお店があったから出逢えたのです。 このお店がありつづけるから、逢いつづけることができるのです。 だから、ルールを守ってほどよい距離感を大事にしていきましょうね。そうしながら、非日常と日常の、両方の世界を行き来することができるようになれば、どちらかが卒業を決めるまで、私たちの時間は終わりません。 ……つづきは、また次の夜にここで逢ってお話しましょう。

ゆう:

永田カビ著『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)のモデルになった現役キャストで、2008年から在籍するベテラン中のベテラン。レズっ娘グループ全店の新人講習スタッフを兼任する。 https://tiara.ms/cast/cast.php?no=00025

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