がん細胞が死ぬとき、遺されたがん細胞を免疫から守ることを発見 東大ら

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正常な細胞には寿命がある一方、がん細胞は突然変異により寿命がなくなり、延々と増殖を続けていく。しかし増殖していく過程で、がん細胞も死ぬことがある。東京大学と日本医療研究開発機構の研究グループは9日、がん細胞が死ぬときに放出する物質が、がん細胞を攻撃しようとする免疫の働きを抑え、がん細胞の増殖を促すことが判明したと発表した。この仕組みを逆手にとった、がん細胞を効果的に攻撃する薬や治療法の開発に期待したい。

今回の研究は、東京大学先端科学研究センターの半谷匠特任教授、柳井秀元特任准教授、東京大学大学院の小池和彦教授、森屋恭爾教授、東京大学アイソトープセンターの川村猛准教授、金沢大学の大島正伸教授、大島浩子准教授、及び児玉龍彦東京大学名誉教授のグループにより行なわれた。研究結果は、8日のNature Immunologyに掲載されている。

正常な細胞がダメージを受けたり死んだりしたときに、周りの細胞に危険を知らせる物質を放出することがある。このような物質のうち、周囲の免疫を活性化するものをアラーミン(危険信号分子)、またはDAMPS (ダメージ関連分子パターン)と呼ぶ。傷ついた細胞が出すこの物質は体を守るのに役立っている。

一方、がん細胞も増殖する過程で死ぬ細胞が存在するが、このときに放出される分子がどのような働きをしているかは明らかになっていなかった。

研究グループは、培養がん細胞に対して、細胞死を誘導した。すると死んだがん細胞の培養液には、細胞死により放出された物質が含まれているはずだ。この培養液の上澄みをマウスの免疫細胞の1つであるマクロファージに作用させると、様々な免疫に作用する物質(ケモカインなど)を誘導した。

このケモカインなどを誘導する物質を精製したところ、TCTPというタンパク質であることが判明。TCTPがマクロファージのトル受容体(自然免疫を誘導する受容体)に作用して免疫を誘導する。

次にTCTPを作れない大腸癌細胞を作成し、マウスに移植して通常の大腸癌細胞を移植したものと比較した。すると、TCTPを作れない大腸癌細胞の増殖する力が低下し、組織内のケモカインの量も大きく低下していた。つまりTCTPは腫瘍の中でもケモカインを誘導し、がん細胞が増殖できるような環境を作っていると考えられるという。

さらに TCTPがどのようにして働いているのかを調べた。TCTPがM-MDSC(単球系骨髄由来免疫抑制細胞)という細胞に働きかけて、腫瘍中にケモカインを放出させる。そのケモカインが、PMN-MDSC(好中球系骨髄由来免疫抑制細胞)を呼び寄せ増加させる。腫瘍中に増えたPMN-MD SCはT細胞やNK細胞など、本来はがん細胞を攻撃するはずの免疫細胞の働きを抑える。そのため、がん細胞は免疫からの攻撃を逃れて増床できるようになる。

このTCTPの生体内での働きを確認するため、胆がんマウスにTCTPの働きを抑える薬剤や抗TCTP抗体を投与した結果、胆がんマウスのがんが縮小した。さらに、近年がんの治療法として注目をされている「免疫のブレーキ」である免疫チェックポイントの働きを抑える抗体と一緒に抗TCTP抗体を用いたところ、がんの増殖をさらに効果的に抑えることができた。

免疫を制御することによるがん治療が近年注目されている。今回、がん細胞が死ぬときに出したTCTPが免疫を抑えて、残るがん細胞を助けていることは大きな発見といえるだろう。今後、この結果をもとに新たな治療法が開発され、がん治療に貢献していくことが期待される。