「シートベルトせず」は誤情報、京産大生ら死傷事故めぐり 両親「息子の尊厳守って」

大政さん一家が九州旅行した時の写真。3人兄弟の長男、響生さん(右中央)は優しい性格だった=2017年10月、大分県由布市(父の裕志さん提供)

 京都市北区で4月に乗用車とトラックが衝突して京都産業大生2人が死亡した事故を巡り、インターネット上では「シートベルトをしていなかった」という事実と異なる情報が飛び交った。京都新聞社が配信する「ヤフーニュース」の読者コメント欄にも同様の書き込みが相次いだ。「どうか息子の尊厳を守って」。亡くなった大政響生(ひびき)さん(20)の両親は切実な思いで訴える。

 大政さんら亡くなった学生2人はともに後部座席に座り、シートベルトを着用していた。事故後、京都府警北署は後部座席のシートベルトの状況について「確認中」と説明していたため、本紙を含む報道各社は着用の有無に触れずに事故を報じた。ネットにあふれた誤情報は臆測に基づく書き込みから拡散したとみられる。

 事故の翌日、響生さんは京都市内の病院で、家族に見守られながら眠るように息を引き取った。死因は頭部損傷だった。「彼の人生が終わってしまうと思うとつらかった。でも息子の顔に目立った傷はなく、命は守りきれなかったけどシートベルトをしていて本当に良かったと思います」。父・裕志さん(47)=愛媛県伊予市=は複雑な思いを吐露する。

 「人の心に響く行動ができ、強く生きてほしい」と願って名前を付けた長男だった。幼少期から行動力があり、小学5年で東京に一人旅をし、中学2年でカナダに短期留学した。高校時代はボート部で、孤立気味だった部員に声を掛ける優しい性格だった。車好きが高じて京産大では自動車部に入った。葬儀には友人ら700人近くが参列し、別れを惜しんでくれた。

 事故の1カ月前、帰省した響生さんは「将来はお父さんの会社を継ぎたい」と葬祭業を営む裕志さんに語っていた。頼もしい、自慢の息子だった。それだけに、事故後にネット上で目にした、まるで事実のように語られる中傷にも似た投稿の数々に、怒りを覚えた。裕志さんは「なぜ、響生がひどいことを言われながら旅立たないといけないのか。本当に悔しい」と涙をこぼした。

■「事実誤認が広がれば、当事者を傷つけることも」

 ネットメディアに詳しい国際大の山口真一准教授の話 ネット上では他の書き込みに影響されて根拠なく事実と思い込む人が多い。今回の投稿は誹謗(ひぼう)中傷とまでは言えないが、事実誤認が広がれば、当事者を傷つけることがある。投稿者は情報の真偽を見極める姿勢を持つべきだ。

トラックと正面衝突して、乗っていた2人が死亡した乗用車(右)=4月14日、京都市北区
ヤフーニュースのコメント欄にあった書き込みのイメージ

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