【F1第9戦無線レビュー(2)】「1周だけモード2だ」独走状態のフェルスタッペンが最速ラップを記録

 2021年F1第9戦オーストリアGPのレース後半、マックス・フェルスタッペンが独走を続ける一方で追う立場のルイス・ハミルトンはマシンにダメージを負った。背後には僚友バルテリ・ボッタスやランド・ノリスが迫り、さらにその後方では入賞をかけてジョージ・ラッセルとフェルナンド・アロンソが争っていた。オーストリアGP後半の様子を無線とともに振り返る

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 ルイス・ハミルトンがフロアにダメージを負い、バルテリ・ボッタスには縁石に乗らないよう指示が飛んだ。そんなメルセデスのやり取りを聴いたからだろう、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)もこんな指示を受けた。

ジャンピエロ・ランビアーゼ:できるだけ白線の内側にいるんだ。縁石を避けろ

 一方レース中盤時点のハミルトンは、ますますマシンバランスの悪化に苦しんでいた。

ハミルトン:リヤをだいぶ失っている。これ以上速く走れない

 40周目、セルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)にアンダーカットを許したシャルル・ルクレール(フェラーリ)が猛追し、ターン4でインを刺す。しかしペレスも譲らず、立ち上がりでわずかに接触、ルクレールはアウト側にコースオフした。

ルクレール:あいつは僕のクルマを壊したんじゃないか?
マルコス・パドロス:大丈夫だ。問題ない

2021年F1第9戦オーストリアGP セルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)&シャルル・ルクレール(フェラーリ)

 これでペレスに5秒ペナルティが科される。さらに46周目のターン6の攻防で、アウト側のルクレールがまたも押し出されてしまう。

ルクレール:なんだ、あいつは! まただよ!
マルコス・パドロス:5秒ペナルティを受けている

 ペレスはこれで2度目の5秒ペナルティを受けることに。一方、前を行くボッタスにジリジリと差を広げられていた4番手ランド・ノリス(マクラーレン)を、エンジニアのウィル・ジョゼフが励ます。

ジョゼフ:ボッタスはハミルトンを抜くなと言われている。まだ行けるぞ

2021年F1第9戦オーストリアGP ランド・ノリス(マクラーレン)

 しかしそれからまもなく、ボッタスの担当エンジニア、リカルド・ムスコーニがこんな提案を出した。

ムスコーニ:ルイスはダメージを受けて胃る。予定のレースはできそうにない。戦略を見直そう

 さらにハミルトンとピーター・ボニントンの間でこんなやりとりが。

ハミルトン:このタイヤでこのまま続かない
ボノ:わかった。オプションで行こう

 そして50周目をすぎたタイミングで、ボッタスにこんな指示が飛ぶ。

ムスコーニ:ルイスと自由に戦っていいぞ

 52周目のターン1でボッタスに順位を譲ったハミルトンは、53周目のターン4であっという間にノリスにも抜かれる。直後にハミルトンはピットに向かった。

2021年F1第9戦オーストリアGP バルテリ・ボッタス(メルセデス)

ボノ:ボックス、ボックス
ハミルトン:どれぐらいダウンフォースを失ってる?
ボノ:ペレスにはフリーストップだ。白線に気をつけろ

2021年F1第9戦オーストリアGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 直前にピットインした角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)が白線をまたいだことで、2度目のペナルティを受けたばかりだった。この時点でハミルトンは5番手ペレスに30秒以上の差をつけており、4番手を維持してコース復帰した。

 ハミルトンのピットインを受けて、ノリスの担当エンジニア、ジョゼフは「もしかしたらボッタスも2回目のストップするかもしれない」と伝えた。

ジョゼフ:ハミルトンがピットインした。プランAだろう。ボッタスもそうかもしれない

 しかしノリスは、ブレーキの不調を訴える。

ノリス:ブレーキペダルが長くなっているんだけど
ジョゼフ:チェックする。ターン1で少し抑えればいいと思う

 ターン1はブレーキングを残しながら縁石に乗り上げ、ターンインしていく難しいコーナーだ。そこでガツンと踏みすぎるなということか。

 一方、2番手ボッタスに25秒以上の大差をつけ、完全独走態勢に入っていたフェルスタッペンは、60周目に2度目のピットイン。ファステストラップを狙いに行った。

フェルスタッペン:もうちょっと速いペースで行く?
ランビアーゼ:じゃあ1周だけモード2だ。すでに最速(ラップ)は持っているけどね。タイヤを使いすぎるなよ

2021年F1第9戦オーストリアGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)

 フェルスタッペンはすでにピットイン直前の58周目に、30周近く走ったハードタイヤで1分7秒835のファステストを記録していた。それなのでランビアーゼは、「あまりプッシュしする必要はない」と言ったわけだ。しかしこのやり取りの直後、フェルスタッペンは62周目に1分6秒200のとんでもない記録を叩き出した。直後にランビアーゼは、フェルスタッペンにこう伝えた。

ランビアーゼ:右リヤタイヤにカットがあった

 第2スティントを走ったタイヤに、切り傷が見つかった。もしそのまま走り続けていたら、第6戦アゼルバイジャンGPのようにバーストで勝利をフイにしていたかもしれなかった。ランビアーゼにしてみれば薄氷の勝利だったかもしれないが、フェルスタッペンはポール・トゥ・ウインにファステストのおまけもつけて、悠々とチェッカーを受けた。

ランビアーゼ:素晴らしいレースだった。ファステストも獲ったしね
フェルスタッペン:先週よりさらにいいクルマだった。どのタイヤでもよかった。ほとんど現実離れしていたよ。信じられない

 一方、ミディアムタイヤでQ3に進出し、8番グリッドからレーススタートをしたジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)は、終盤67周目にフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)にかわされ11位。ウィリアムズでのポイント獲得は、今回もならなかった。

ジェームズ・アーウィン:ジョージ、グッジョブ。P11だ。でも素晴らしいレースだった
ラッセル:すまない、みんな。できるだけのことはしたけど、アロンソが速かった

 そして7番グリッドスタートの角田も、12位完走に終わった。

マティア・スピニ:2回目の5秒ペナルティを受けたけど、順位は変わらない。ストロールはずっと後ろだからね
角田:わかった……。なんだったの?
スピニ:同じだ。白線を越えた

 2度目のペナルティに関しては、スピニはレース中にはあえて理由の説明は避けたのだろう。角田はさすがに、元気のない声だった。

2021年F1第9戦オーストリアGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

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