【MLB】大谷翔平、怒涛の追い上げで球場に広がった“熱量” 現地記者が球宴で感じたスターの素質

ホームランダービーに出場したエンゼルス・大谷翔平【写真:Getty Images】

2年ぶり開催のオールスター、球場内の華やかさに圧倒

エンゼルス大谷翔平投手が12日(日本時間13日)、米コロラド州デンバーで行われたMLB球宴のホームランダービーに、日本人選手として初出場した。ファン・ソト(ナショナルズ)との対戦は再延長のサドンデスにもつれ込む大熱戦となり、大谷は敗れたものの、超満員の球場には大谷への期待感が充満していたという。Full-Count編集部でエンゼルスをカバーする盆子原浩二氏が、その様子をレポートしてくれた。

2年ぶりに行われるオールスターゲームは、本当に華やかだなというのが第一印象です。ワールドシリーズも華やかですが、どうしても敵と味方に分かれます。ましてアメリカは完全なフランチャイズ制ですから、ビジターのチームのTシャツを来て球場に行くというのは非常に度胸がいります。大谷選手にとっても、普段ここはアウェーになりますよね。本拠地としているロッキーズはナ・リーグのチームですし。

でも球宴はまさにお祭りです。30球団のファンがいるわけですから。特に今年は、大谷選手のユニホームを着たファンをよく見かけました。全体にエンゼルスのユニホームを着たファンが多かったですね。

大谷選手には華やかな舞台が本当に似合います。これまで日本人には、喜怒哀楽を隠すというか、ちょっと引くのが「日本人らしい」という面があったと思います。はしゃぎすぎないというか。でも大谷選手はデッドボールが当たれば『痛い』と表に出しますし、嬉しさも全面に表現する。2020年代の、新時代のスターにはこういう面が必要なんだと思います。

今回はコロナの影響もあり、記者会見がファンの皆さんも見られる屋外で行われました。ナ・リーグからはドジャースのロバーツ監督と明日先発するシャーザー、ア・リーグからはレイズのキャッシュ監督と大谷選手が出てきました。外でやっているのでいつもより人が多くて、これも良かった。過去になかった感じでした。

クアーズ・フィールドにも大谷の応援パネルを掲げたファンの姿が【写真:AP】

大谷の敗北が決まった瞬間、球場内に一瞬の“静寂”が

そんな中で行われたホームランダービーは、本当に名勝負でした。再延長でソト選手が3本打ち、大谷選手が初球を打ち損じて敗戦が決まった時、一瞬の“静寂”があった気がしました。それほど、大谷選手に勝ってほしいという期待値があったと思います。スタンドからも「大谷コール」「MVPコール」が響いていました。

大谷選手は最初、打球が全然上がりませんでした。ただ一旦コツをつかむと、どんどんサク越えしていく。本人は必死だったんじゃないですか。それに途中からぐんぐんと、お客さんが乗っていった。凡打が続いていた時には「簡単に負けちゃうのかな……」とも思ったんです。休憩をとる前までは。でもあの追い上げで、どんどん熱気を帯びていきました。大谷選手の凄さを改めて感じてもらえたのではと思います。ファンも『いいものを見せてもらった』と思っているんじゃないでしょうか。

表情にも出ていましたけど、本当に疲れたでしょうね。外で打撃練習をしたのは開幕戦以来だと言っていましたし、あれだけ連続してフルスイングするわけですから。それでも、歯を食いしばって追いかけて行った。臨時の記者席が右翼にあり、私の両隣に座った記者も、始まる前から「大谷が優勝するよ」と言ってくれていました。負けはしましたけど、彼らも大谷選手の力を感じてくれたと思います。

あすはいよいよオールスターゲームです。リーグで一番ホームランを打っている選手が、あすの先発投手なんですよ! ほかにも球宴の先発投手が、ホームランダービーに出ているという見方もできるでしょうし、「1番・DH」の選手がマウンドに上がり、投げるわけです。これはまさに離れ業ですよ。こんな選手はいません。

オールスターゲームが始まった1933年、二刀流のベーブ・ルースはもう晩年でした。二刀流をしていたのはその10年前の話です。レッドソックスからヤンキースに移籍してからはほとんど投げていない。それを大谷選手は、両方全盛期にやるわけです。彼も言っていましたけど、ルースは野球を知らない人も、聞いたことはある人物でしょう。その偉業を現実に見せられるわけです。

そういえば、ホームランダービーの途中で、チームメートのトラウト選手や、この春まで共にプレーしていたプホルス選手(現ドジャース)から電話がかかってきていましたね。「リラックスしろ」ということだったようですけど、アメリカ人はこういう時に茶目っ気が出ますね。私は大谷選手が「来年はトラウトが出てくれ」って言えばいいのにと思って見ていました。2人は今やエンゼルスの両雄ですけど、トラウトならやりそうだなと。ユーモアのある、子どもがそのまま大きくなったような男ですよ。19歳の時から見ていますが、30になっても全然変わりませんね。(Full-Count編集部)

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