カーFMに謎の中国語放送 原因はスポラディックE層 5~8月に頻発 遠くの放送を反射

 「どこの放送だろう?」

 5月下旬、長崎県大村市内の幹線道路を自家用車で走っていた団体職員男性(43)は、カーラジオのFMに突然混信し始めた中国語らしき音声に首をかしげた。男性は「FMトランスミッター」を使い、スマートフォンで再生した音楽をFMラジオで聴いていた。

 無線接続したスマートフォンの音声信号を微弱なFM電波に変換して発信し、カーラジオで聴ける仕組み。地元FM局などと混信しない85~90㍋㌹の周波数に設定していたが、昼間に中国語の放送が混信して短時間ながら音楽が聞こえなくなることが頻発。トランスミッターの故障も疑ったが、電源を切っても異常は続いた。

 「以前はこんなことなかったのに、なぜ?」。男性は長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」に疑問を投稿。記者が取材を進めると、春から夏にかけて、上空で発生する自然現象「スポラディックE層」の影響の可能性が浮かび上がった。

カーラジオに中国語の放送が混信。「以前はこんなことがなかったのに、なぜ?」(写真はイメージ)

 情報通信研究機構(NICT、東京)によると、原因は上空100㌔辺りに発生する電離層の一種「スポラディックE層(通称・Eスポ)」と考えられる。

 電離層は通常、特定の波長(長波から短波)の電波を反射する。Eスポは局所的、突発的に発生する特殊な電離層で、密度が極度に高いため、短波よりも波長が短い超短波まで反射する。FMラジオは超短波の周波数帯を使用しており、Eスポが発生すると上空に突き抜けていた超短波が反射して、理論上届かない遠くの地上にも電波が届いてしまう。

 Eスポは日本付近で5月から8月にかけ増加し、夏至のころが最盛期。ほかに12月にも山がある。男性のケースは、FMトランスミッターが発信していた微弱な電波が、Eスポに反射し届いた海外の強力な電波にかき消されたとみられる。

 普段届かない声が聞こえる不思議な現象は、ラジオ愛好者にとって楽しい体験のよう。FM長崎は、約千㌔離れた埼玉のFM局と周波数(79.5㍋㌹)が同じ。Eスポの影響による混信に気付いた関東圏のリスナーが「受信した」と知らせてくるケースがある。

 アマチュア無線家にとっても、Eスポの影響で出力の低い小型無線機で遠距離交信が楽しめる可能性が高まるそうだ。日本アマチュア無線連盟長崎支部長の冨増清志さん(73)によると今月3、4日、愛好家が相互に遠距離交信を試みる全国規模の大会があり、長崎県では4日午前の数十分間、関東地区と通信ができた。「アマチュア無線の楽しみの一つ」と冨増さん。

 半面、防災行政無線などの業務用無線にとってEスポは「非常に厄介な存在」でもある。元海上保安庁職員で電波航法を担当していた冨増さんは、職場でトランシーバーや灯台監視システムの混信を経験。「自然現象だから防ぎようがなかった」と振り返る。

 身近なところではテレビ放送。アナログ放送時代は、Eスポなどの影響で混信することがあり「一部地域で画面が乱れています」とのテロップが流れた。現在は通信・放送のデジタル化に伴って混信対策が進んでいる。

 九州総合通信局(熊本)は、混信でFMラジオが聞きづらい場合の対策として、パソコンやスマホの配信サービス「radiko(ラジコ)」の利用を挙げている。(佐崎智章)

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