なんて無力な「15の夜」尾崎豊は本当に自由になれたのだろうか?  2021年7月14日 FNS歌謡祭で蘇るロックンロールの初期衝動

ロックンロールの正しい聴き方

ロックンロールの正しい聴き方というのは、必然の偶然。ラジオから流れるその曲のワンフレーズに心かき乱され、思わずボリュームを上げるというシチュエーションだと思う。ボリュームを上げたその一瞬は、誰にも、何にも囚われない、自由を手に入れた瞬間だ。尾崎豊の「15の夜」も例外ではなかった。

中学生から高校生にかけて、深夜ラジオを聴くというのが、僕の日課になっていた。新しいロックンロールとの出会い。それだけを求めて、深夜1時からは、佐野元春がヘビロテされていた文化放送の『ミスDJリクエストパレード』。そして、3時からは『オールナイトニッポン』。

じゃあ、いつ寝てたんだと聞かれれば、学校の授業中である。そのおかげで、僕は現役の時、大学受験にすべて失敗している(笑)。

お気に入りは白井貴子のオールナイトニッポンと「尾崎豊コーナー」

閑話休題。その『オールナイトニッポン』の中でも火曜深夜の白井貴子がお気に入りだった。その中のワンコーナーに「尾崎豊コーナー」というものがあった。彼のデビュー直後、同じレコード会社の所縁ということで、プロモーションの意味も含め、そんなコーナーがあったのだと思う。

当時の尾崎は、1983年にファーストアルバム『十七歳の地図』をリリースしたものの、プレスされたのは、わずか2,000枚にも満たない枚数だった。そんな中、尾崎の今を伝え、曲を流すというシンプルな構成だったが、共感者としての彼女の熱の入れ方が十分に伝わってきた。尾崎豊ブレイク直前。真夜中の出来事である。

「今日、尾崎君が青山学院高校を退学しました!」

―― なんて、リアルな状況を話しながらOAされる「15の夜」は、また格別の意味があった。

自らの存在をも否定、尾崎豊「15の夜」に心惹かれた理由

 大人達は心捨てろ捨てろと言うが
 俺はいやなのさ
 退屈な授業が俺達の全てならば
 なんてちっぽけで
 なんて意味のない
 なんて無力な
 15の夜

ここではない何処かに行きたい心情、そして、周囲への反抗。これがロックンロールの初期衝動だとしても、自らの存在をも否定することからスタートしたのは僕にとって、尾崎豊が初めてだったと思う。そして、だからこそ心惹かれたのだと今になって改めて思う。

15歳の自分を振り返ってみると、ただひたすら音楽を聴き、自由の象徴であるロックンロールを追い求めていた。バイクを盗んだり、夜の校舎窓ガラス壊してまわったりしなかったが、年をごまかしてバイトばかりをやっていた。

レコードにつぎ込み、ファッションにのめり込み、憧れのロックスターと似たような服を着た。それは、なんてちっぽけな、なんて意味のない、なんて無力な自分の存在証明だっただろう。

そして、尾崎は『十七歳の地図』の中の名曲「はじまりさえ歌えない」でこんなことを歌っている。

 カラカラに乾いた喉  へたばるまで走るのかい  ひとりぼっちの汗は  誰も眼にもとまらない  蒸し暑い倉庫の中で 30分の休憩をとり  つめ込むだけのメシを食べて  届かない窓に手を伸ばしている

高校に入学し、16歳になっても、僕はアルバイトばかりをしていた。新宿の三越の脇にあったサーティワンアイスクリームでバイトしている時、二畳もない蒸し暑い控室で休憩をとった。その時の心情はまさに尾崎のこの歌にあった。

尾崎は「誰の眼にもとまらない」と歌う。誰の眼にもとまらないからこそ、自由になれるのだ。反抗は、誰かを越えるためにするもではない。ちっぽけな自分の存在を直視し、新たなスタートを踏み切るための決意表明だということを知った。

尾崎豊が最後まで向き合っていた自由の象徴

この後、尾崎豊は周知のようにカリスマと崇められスターダムをのし上がっていく。しかし、それからの彼の音楽を聴いていない。

 自由っていったいなんだい
 どうすりゃ自由になるかい
 自由っていったいなんだい
 君は思う様に生きているかい

こう「Scrambling Rock’n Roll」の中で歌っていた尾崎は本当に自由になれたのだろうか。晩年、創作活動に行き詰まり悩む尾崎は、今も活動を続ける大御所ロックバンドのリーダーに「どうすれば○○さんのようにロックンロールだけを続けられるんですか?」と悩みを打ち明けたことがあるという。

人づての話だから真偽は定かではない。もちろん、真実だとしても、そこでどんな会話があったのかというのも分からない。しかし、尾崎豊が最後まで自由の象徴であるロックンロールに向き合っていたことだけは確かだ。

※2017年9月4日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 本田隆

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