ただ、“今を生きればいい“ イタリアのバカンスの過ごし方

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イタリア在住のイラストレーター・マンガ家のワダシノブさんが、
イタリアの暮らし・文化・人などの情報をお届け!
日本と比べて、長いイメージがあるイタリアのバカンス。
現地の人たちの過ごし方を教えてもらいました。


(イラスト:ワダシノブ)

イタリアの1年は9月にスタートして7月末に終わる。「8月は1年分の疲れから回復する休暇のためにある」とイタリアの人々は言う。その回復期間がVacanze(バカンツェ)だ。いつも陽気で楽しそうなイメージがあるイタリアの人々だけど、実はものすごく働き者で残業だって多い。元気に見える彼らだって疲れているのだ。

イタリア語のVacanzeはVacanza(休日)の複数形で、「一定期間の休暇」という意味がある。
この「一定期間」というのがくせ者で、週末どこかに行っただけでは休暇とカウントしない。日本出身の私は「2日も休暇がある!」と思うのに、イタリア人は「たったの2日は休暇ではない」と言うのだ。

最近では、全てが休みになるのはフェラゴスト(Ferragosto)と呼ばれる8月15日の前後の週だけで、あとは6月から9月にかけて調整しながら約2週間ずつ休暇をとる。

日本と違うのは、イタリアでは正社員でもアルバイトでも関係なく、みんなが最低でも2週間休むということ。「仕事が忙しくて休みが取れない!」なんてことが絶対にない。他の会社もみんな休みだから、1人だけ働いても意味がないのだ(まぁだから8月に困ることもいろいろあるんだけれど)。

会社だけでなく、飲食店や美容院も最低でも2週間は休みになる。人気のテレビの帯番組でさえ夏休みが2ヶ月はあって、その間は別の番組が流れるか、再放送になる。そのくらい休暇をとることは徹底している。

この2〜3週間の休暇で彼らが何をするかというと、答えは単純で「日常から離れて生活すること」だ。広辞苑によると、生活とは「生存して活動すること、生きながらえること」。つまり、休暇中はただ生きていればいいのだ。

(イラスト:ワダシノブ)

まず、日常から離れるために、イタリアの人たちは海や山、行きたかった街へと移動する。
移動先は豪華である必要はなく、アパートでも、キャンプでもいい。1週間単位で借りられる部屋を探し、そこで生活する。

「起きる。海か山、または街にブラブラと行ってダラダラ過ごす。夜になったら何か食べて寝る」これを最低でも1週間、できればそれ以上するのがイタリアの休暇だ。

いつもと違う景色の中で生活することが休暇の一番の目的なので、観光や美味しい食事は全てただのオプションで、家事すらもオプションにすぎない。「将来の役に立つこと、意味のあることをしなくては」なんて考えからはしっかり離れて、今のこと、どんなに先でも、今日1日のことだけを考えて生活する。
たったこれだけのことで、大げさかもしれないけど人生に色が戻ってくる。本当に魔法のようで、「だから、この人たちはこんなにバカンスを大事にするのか」と、目から鱗が落ちた。

最初はこの何もしない長い休暇が苦手で、「時間の無駄」とすら思っていた。
というのも、私にとって休暇は、子どもの頃の夏休みのイメージのままで。あの頃、何度も言われた「休みの間もきちんとしていないと休みが終わった後が大変だよ」という言葉に囚われていたのだ。
小学校で配られる「夏休みの宿題」に時間割と計画表があるのは、日本の夏休みは休暇ではなく、「休み明けのために規則正しく生活して、なんらかの学びを得るための期間」だからかもしれない。計画表なんて一度も守れたことがない私でも、「きちんとしないと後から困る」という考えだけは染み付いてしまった。

だから、休暇の間、ずっと誰かに頭の中で「後から困るよ」って言われている気がする。

でも、これはなんだかおかしい。もし、休み明けに以前のような日常に戻れないなら、休み前の日常に何か問題があるはず。もしくは休みが全然足りていないから、もっと休むべきなのだ。戻るのが嫌なら戻らなくていい。嫌なのはそれが自分にあっていない証拠だから。

いつかのために、準備ばかりするのをやめて、今を生きる。これがイタリアで知った休暇の意味なのかもしれない。もっと休みを。

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