【三浦愛の突撃ドライビング取材/第4回 後編】山本尚貴選手のアドバイスに納得の連続

 2021年もスーパーフォーミュラのピットリポーターを務めるほか、レーシングドライバーとしてスーパー耐久をはじめとしたさまざまなカテゴリーに参戦中の三浦愛さん。今シーズン、オートスポーツwebでは、三浦さんの目線で気になるスーパーフォーミュラドライバーに突撃取材を敢行し、同じドライバー目線で気になることをぐいぐい質問していく企画『三浦愛の突撃ドライビング取材』がスタートしました。

 第4回はTCS NAKAJIMA RACINGの山本尚貴選手に突撃取材したのですが、予想以上にインタビューが盛り上がり、連載初の後編に突入です。

 前編に続き、三浦さんと山本選手のドライバーズトーク後編をお楽しみください!

2021スーパーフォーミュラ第1戦富士 山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)

【三浦さんの悩みごと“セットアップ”について、山本選手はどう答える?】

三浦:私がドライビングで悩んでいることなのですけど……クルマが決まっているとは限らない状況の中、オーバーステアのクルマは比較的乗れるのですけど、アンダーステアのクルマをねじ伏せて走るようなドライビングがなかなかできないのです。だから、どうしてもアンダーステアに悩まされるとすごくタイムを落としてしまいます。そういうアンダーステアのクルマをどう操るかというか、コツみたいなのって、あるのでしょうか?

山本:それは僕も聞いてみたいですよね。僕もアンダーステアよりはオーバーステアのクルマを好むので。オーバーステアだったら、ブレーキとアクセル、ハンドルも使えるからいいのですけど、アンダーステアのクルマってハンドルを切っても曲がらないものなので、僕もどうしたらいいのかというのは……あまりネタがないですね。逆にこの取材でほかの選手に聞いてもらって、良い話があったら後で教えてください(笑)

三浦:あ、わかりました(苦笑)

山本:やはり、ドライバーとして引き出しを多く持っている選手がレースで強いのは間違いないと思います。常に良いクルマばかりに乗れるわけじゃないですから、アンダーステアのクルマでも、コースに出たら自分の力でなんとかしないといけません。そうなったら、コックピットの中でできる最大限のことをやるというか……今だとブレーキバランスもすごく重要になると思います。リアに振ることによって、リアタイヤの内圧を上げて、オーバーステアっぽくしてみたりすることによって、アンダーを消すこともできたりします。その逆もありで、オーバーだったらフロントタイヤの内圧を上げてアンダーにしちゃうとか……。使えるものは有効活用するというのは、ドライバーにとって大事な要素だと思いますね。

『アンダーだからダメだ』って、それも諦めるのではなくて、『アンダーだからどうしよう?』というふうに、最後は(アイディアを)捻った者勝ちだと思うのですよね。それもコースに出てしまったら、それしかできないですけど、僕たち(SF)の場合はセッティングできるアイテムがいっぱいあるので、コース上に出るまでも勝負ですよね。絶対にコースの中で一番速く走るためのクルマを作るために、エンジニアさんといろいろなことをシミュレーションして『たぶん、このコーナーはこういう数値になるから、こっちのコーナーはちょっとダメになりそうだよね』とか、頭の中でいろいろな計算をして、シミュレーションをします。スーパーフォーミュラとかスーパーGTまでいくと、コース上に出てからも大事だけど、それまでの駆け引きというか、頭脳戦も大事なのかなと思いますね。

三浦:なるほど。そうなのですね……ありがとうございます! セットアップの話を聞きたかったので……。

山本:セットアップって難しいですよね。今年もレース出ていますよね?

三浦:そうですね! 今年はスーパー耐久しかフル参戦できていなくて、スポット参戦のカテゴリーもあるのですけど、いつも“チョイ乗り”が多くて、レースウィークに初めてそのクルマに乗るということが多いです。その中で私のコメントがうまくないからなのか『決まった!』という感じにはならないのですよね。

山本:常に同じサーキットで走れるのだったらまだしも、サーキットが変わって、そのクルマに少ししか乗れないとなると……まず、どれがクルマの本当の姿なのかわからないですよね。1回でもそのクルマの良い時を知っていれば、それに近づけるためひねることは比較的簡単だと思うけど、もともとのクルマがどういう素性なのかがわからないと、どういうふうに直しにかかっていいのかわからないですよね。そうなると、もう少し走れるといいですよね。

三浦:そうですよね。ちなみに、山本選手は現在スーパーGTとスーパーフォーミュラに参戦されていますけど、それ以外の時に(サーキットを)走ったりするのですか?

山本:僕はあまりしないですね。ほかの選手はスクールの講師をやったりとか、それこそレーシングカートに乗りに行ったりとかしていますけど、僕はあまりしていないです。昨年、緊急事態宣言が出た時は3ヵ月とはいえ、家の中にずっといて、レースに行かないといけなかったので、そこは自分も少し不安でした。だから、目を慣らしたいという思いがあって、その時はレーシングカートに乗ったりはしていました。

今はレースとレースの間がそんなに長いわけではないですし、オフシーズンもテストばかりなので、乗る時間はけっこう多いです。あまりカートとかほかの車両に乗らなくても済んでいます。あとはシミュレーターですよね。

同じドライバーとして、気になるポイントをぐいぐい突っ込む三浦愛さん

【サーキット以外での練習方法は?】

三浦:シミュレーターはけっこう乗られるのですか?

山本:そうですね。メーカーやチームによってはシミュレーターの施設を持っているところもあるので、まったく同じではないとしても、感覚を養ったりとか、セッティングの方向性を見つけるという部分では十分に役立つと思います。

そういうのも、今はテストも制限されて、なかなか実走できる時間が限られているなかで、時間とアイディアをひねって、いかに自分の肥やしにできるかというのは、やっぱり考えた者勝ちだと思います。なので、シミュレーターはけっこう有効的かもしれませんね。三浦さんはあまりシミュレーターはやらないのですか?

三浦:自宅にはないので、どこかに行って乗るのですけど、モノによって(得られる感覚が)全然違うので、何を信じたらいいかわからないですよね。なので、KZのカートによく乗っています。

山本:すごいですね。でもカートで使う筋肉って、全然違いませんか? カートに乗って疲れないからといって、四輪でも大丈夫かと言ったら、そうじゃないですよね。

三浦:やはり、そうなのですね!

山本:乗る時間がないって、ドライバーとしては不安になるのはすごくわかるのですけど、あまり関連性の少ないカテゴリーに乗っても、あまりプラスにならないと思っています。速度域もタイヤも車両も全然違いますからね。本当に期間が空いちゃった時は目を慣らすためには良いかもしれないけど、他のクルマに乗って自分の感覚がズレてしまうことも懸念しています。スーパーGTとスーパーフォーミュラに参戦しているのであれば、そのふたつの車両以外は極力乗らないようにしている部分はあります。そういう人もいていいのかなと思います。

三浦:そういう考え方もあるのですね。私は『できることは何でもやりなさい』と教わってきたのですが、何が自分に必要で何が必要ないのかという見極めが自分の中でうまくできていないのですよ。

山本:わかります。だから僕もこれが正解かもしれないと思って、いろいろ手当たりしだいにやるのだけど、全部やったから良いわけではないし、その中には合うもの、合わないものがあります。

だから正解がないですよね。おそらく、僕は引退するまで良い意味で正解を見つけられないのだろうなと思います。もし正解をみつけたら、その時点でモチベーションがなくなる気がしています。

三浦:たしかにそうなのかもしれないですね……。

山本:常に今の自分が完璧じゃないと思うから、次の年も挑戦をしてタイトルを獲りたいと思うわけであって、そこで正解を見つけた時が、たぶん引退の時なのかなと思います。そう考えると、まだまだ先にしたいし、先だなと思っていますね。

三浦:なるほど、深い話ですね……。

山本:でも僕もあったのですよ。伊沢さんとか塚越さんは鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)に行きながらF4に出ていた時期があったのですよね。みんながやっているから僕も同じことをしたかったのですけど、その当時の担当の人に『君はSRSしかないのだから、これにかけろ!』と言われたのが、けっこう強烈に残っています。

たしかに、たくさん乗れる機会があるのはプラスになるかもしれないけど、SRSしかないと言われたら、この中で結果を残すために全てを注ぎ込めば良いので、余計なことを考えなくて済むんですよ。たしかにそうだなと思いました。

今はいろいろなツールがあるし、情報関係もSNSがあるから、みんながあれこれやっているから『自分もやらないと』という気持ちに陥りやすいけど、結局人によって合う合わないはあると思うし、みんなやっているからといって、全部が自分に当てはまるわけではないです。

それこそ、さっきの三浦さんのお話のように、クルマに少ししか乗れないという状況になったら、その少ししかない中で結果を残さないといけないし、結果を残すのがプロとしての使命だと思うから……『これしかない!』となったら、その条件下でどれだけ頑張れるか、力を注げるか、というのは大事だと思います。

良くも悪くも周りに流されずに自分を持つ。でも、時にはプライドを曲げてでも周りの声を聞き入れる柔軟さを身につけることができたら、それが一番強い人だと思います。

三浦:ありがとうございます! すごく勉強になりましたし、山本選手にインタビューできて本当に良かったです(大泣)

山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)にインタビューする三浦愛さん

【中嶋監督に早く勝利をプレゼントしたい】

三浦:最後にお決まりの質問になるのですが……先ほど伊沢さんのお話も聞きましたが、改めて山本選手の師匠みたいな人はいますか?

山本:中嶋悟さんもそうですし、高橋国光さんもそうですし……育ててもらった方はたくさんいるのですけど、誰か一人に限定しろと言われると、やはり伊沢拓也さんは先ほどの話しでも出てきましたけど先輩であり師匠であることは変わりないです。あと今でいうと、中嶋さんですよね。

2010年に当時のフォーミュラ・ニッポンでデビューさせてもらった恩師でもあります。ただ、残念ながらその年はまったくと言っていいほど結果を残せなくて、翌年移籍することになりました。それから3回タイトルを獲って今年古巣に戻ってきたので、当時できなかった恩返しを中嶋さんにはしたいなと思っているし、このチームに恩返しをしたいですね。

三浦:けっこうレースウィークは中嶋監督とコミュニケーションをとられたりしますか?

山本:そうですね。当時はすごい怖かったのですけど、今はけっこう優しいです。だけど、当然予選になったりレースになったりすると、他の人では察知しないような鋭い視点だったりとか、ドライバーだから気づくことがあるので、そこはさすがだなと思います。それは10年経っても変わらないですし、もっと言ったら、F1の時から変わらない情熱でここまでチームを引っ張ってきていると思うので、だからかこそ結果で返したいなという思いは、レース毎にどんどん強くなっていっています。

【インタビューを終えて/三浦愛さんの感想】

「さすが、スーパーフォーミュラで3回もシリーズタイトルを獲る選手だなと、このインタビューで感じました。ドライバーとして、速さだけじゃなくて、いろいろなことを見て、周りのことも考えて活動されているんだなということを強く感じました」「結果を出すためにがむしゃらにやるのじゃなくて、自分の中で優先順位を決めて、正解かどうかわからないけど、今必要なものをきちんとチョイスしてやっていらっしゃいます。そこは私も見習いたいです」「最初に聞きたいなと思っていた以上のことが返ってきて、びっくりしましたし、改めて山本選手は素晴らしい方ですね! ありがとうございました!」

 次回もスーパーフォーミュラに参戦するトップドライバーに、突撃インタビューを予定。今度は誰に、どんな質問をするのか……お楽しみに!

【プロフィール】三浦愛(みうら あい)
1989年生まれ。カートで実績を重ね、フォーミュラチャレンジ、全日本F3選手権などに参戦。2014年には全日本F3Nクラスで日本人女性初優勝を飾った。2021年はスーパー耐久に参戦しつつ、スーパーフォーミュラではテレビ中継の現場解説を務める。
三浦愛 公式HP

三浦愛さんの突撃取材、次回もお楽しみに!

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