組織委顧問・山本博氏が日本の“性善説”に警鐘! 五輪貴族は「好き勝手やって帰っていく」

早くもやらかしまくっているバッハ会長(ロイター)

無事に乗り切れるのか。東京五輪開幕まで10日を切った。新型コロナウイルスの感染拡大で国民には不安が広がり、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(67)の「大事なのは中国人」の失言が世間の猛反発を招いた。そんな中、アーチェリー男子個人の五輪2大会メダリストで組織委顧問を務める山本博氏(58=日体大教)が取材に応じ、海外メディアや五輪ファミリーの“暴走”を警戒。期待と不安が入り交じる本番への思いを激白した。

――1年延期となった五輪がいよいよ開幕を迎える。率直な心境は

山本氏(以下山本)首都圏を中心にほとんどの会場での無観客開催が決まって、とりあえずホッとしました。選手にはいろんな意見があると思いますけど、これで間違いなくどの競技も完結できるでしょうね。過去の写真を見てみると第1回、第2回でも観客はいますから、無観客は五輪史上初めてだと思うんですよ。中止に追い込まれなくて本当によかった。ただし、残念なことに選手の中から感染者は出るでしょう。

――無観客は以前から提言していた

山本 判断が遅すぎましたよね。私は昨秋から口にしてきましたが、自分の力のなさに悲しくなります。

――安心安全な大会に向けた対応は十分か

山本 大会ボランティアらへのワクチン接種に関して、丸川(珠代)五輪相がとんでもないことを言っていましたね(編集注・「1回目の接種で一次的な免疫を」と発言)。私は弘前大で免疫について学んできましたし、指導いただいた中路(重之)教授に確認したけれども、安全だと言えるのは2回目の接種から2週間。ここまでは用心しないといけないと。こうしたことを踏まえても、あの言葉はあり得ませんね。日本政府は現状においても安全を確保する準備を全くしていないと思います。

――海外メディアは感染対策のルールを守ってくれるのか

山本 守らないものと考えていたほうがいいでしょう。「GPSで行動管理」という話も聞きますが、みんな携帯(電話)は2台持ちで1台はホテルに置きっぱなし、電波を出してそこから動いていないことにして、もう1台の携帯を持って市中を動き回ることだってあり得ますよ。大会を取材できるADカードを剥奪されたら市中取材に専念すればいいわけで、新聞社、通信社、テレビ局のような組織に属している人だけでなく、フリーだって入国しますから。

――日本人の性善説は通用しない

山本 過去の開会式で日本はIOCのルールに従い、カメラを持ち込んではいけないと言われたら持ち込まず、チームで1台と言われたら1台だけと何でも守ってきたけど、他の国はそうでもない。国のあり方や法制は多種多様ですからね。ワクチンを2回打ったことにして証明書だけを出すケース、入国後の定期的な検査がいい加減になるケースもあり、市中感染を広げてもおかしくないですよ。

――IOCへの不信感も浮き彫りになった

山本(IOC役員や委員を含む)「五輪ファミリー」は会場で試合を観戦することになるでしょうね。それで愛国心があるから、たとえば自国の選手が出場すれば、きっと国旗を出す。その光景が映ったときはすごい反感を買うんじゃないかなと。日本人の気持ちを逆なでしないように行動してほしいのですが、そういうことは頭にないと思いますね。好き勝手やって帰っていくんでしょう。その後は日本のこと、東京のことはお構いなし。次は北京でどう楽しむか、もっといい接待をしてくれるんじゃないかとか、気持ちはそっちを向いていたりして。

――組織委や政府といった日本サイドに求められるものは

山本 どこまで国民の理解を得られるような対応をするかに尽きますね。ルールを守らず、明らかに安全な大会を妨害する人に対して厳格に向き合うことが大事だと思います。五輪は世界にいろんなことが発信されますから、特に“NOが言えない”と揶揄(やゆ)される日本がルールに関しては厳格であるところを伝えてほしいです。

――五輪本番には期待と不安が入り交じる
山本 コロナに関する何かしらの事象は起きると思います。クラスター発生も感染が確認されてから4日、5日の時差があるので、大会後半で感染者が急増するとややこしいことが起きてくるかもしれません。とはいえ、本番は一人でも多くの選手に納得のいくプレーをしてもらいたいです。

☆やまもと・ひろし 1962年10月31日生まれ。横浜市出身。中学1年からアーチェリーを始め、学生時代はインターハイ3連覇、インカレ4連覇。日体大在学中の84年にロサンゼルス五輪で銅メダル、2004年アテネ五輪で銀メダルを獲得するなど五輪5大会に出場。アテネでの20年ぶり五輪メダル獲得は「中年の星」として注目を集めた。ニックネームは「山本先生」。現在は現役選手として活動しつつ、日体大教授、東京都体育協会会長、東京五輪・パラリンピック組織委員会顧問など多方面で活躍中。

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