せっかく用意した遺言書が無駄に!?知らないと無効になる書き方のルール

遺言書は、自分が亡くなった時、大切な誰かに想いを伝え財産を引き継いでもらうために重要なものです。遺言書を法律上で有効なものとするためには、いくつかの注意点があります。これを知らないと、せっかくの遺言書が無効になってしまうのです。


町田富子さん(仮名、60歳)は、市役所の相談会に来られました。相談内容は、母親(波田和香子)が亡くなり、富子さんの子(町田敏子)に財産を渡したいという遺言書が出てきたので確認して欲しいというものでした。

遺言書の内容は次の通りです。

「自筆証書遺言」を有効にするための5つの要件

この遺言書は、自分で書いた「自筆証書遺言」でした。この自筆証書遺言を有効にするための要件は、5つあります。

(1)遺言者が全文を自書する。
※ただし、財産等の目録は、パソコン等で作成しても良いことになりました。
※通帳のコピーや不動産の登記事項証明書などを使用することもできます。
(2)作成した日付を自書する。
(3)氏名を自書する。
(4)印鑑を押す。
(5)訂正には、訂正箇所を指示して署名し訂正場所に印を押す。

以上5点です。これは法律で決められていることです。では、先ほどの遺言書に照らし合わせていきましょう。

(1)遺言者が全文を自書する。→OK
(2)作成した日付を自書する。→NG(日付なし)
(3)氏名を自書する。→OK
(4)印鑑を押す。→OK
(5)訂正には、訂正箇所を指示して署名し訂正場所に印を押す。→OK(訂正箇所なし)

いかがでしょうか。

(2)の作成した日付がないため、残念ながらこれでは自筆証書遺言として法律上の要件を満たしていません。

言葉遣いにも注意。「渡す」という言葉を使ってはいけない

また、他にも気になる言葉があります。「孫の町田敏子に渡してください。」の、「渡す」という言葉です。

遺言書は、相続人に対して財産を渡したいときは「相続させる」と記載し、相続人でない者に財産を渡したい場合は「遺贈する」と記載します。「渡す」という言葉では、だれが孫に財産を渡すのか、誰かが相続したあとで渡すのか、いろんな意味に解釈できるので疑義が生じます。

この言葉を使用したからと言って、遺言書の効力がないという訳ではありません。しかし、金融機関や法務局での手続きが上手く進まないことや、言葉の意味をめぐって他の相続人と争いになることがあります。

効力のある遺言書の一例は?

それでは、どのように記載をしたら良かったのでしょうか?

これで法律上の要件を満たし、なおかつ疑義のない遺言書となります。

「遺言執行者」を指定するとどんなメリットがある?

遺言書には、もう1つ大切なことがあります。

法律上、遺言書が有効な場合には、預貯金や不動産の名義変更を行っていくことになります。この手続きをする者を指名しておくということです。

遺言書の内容を実現するため、相続人への連絡、各種手続きをする者を「遺言執行者」といいます。この遺言執行者は、遺言書で指定をしておくことができます。ただし、未成年及び破産者は執行者に就任することができませんので注意が必要です。

遺言執行者の指定がなかった場合、金融機関や法務局で相続手続きのため、名義変更をする際に相続人全員の同意を求められることがあります。遺言書を書く理由は様々ですが、特定の誰かに財産を渡す、相続人ではない者に財産を渡すというような内容であれば、他の相続人の中には良い気がしない人も出てくるでしょう。同意が得られない場合には、相続手続きが進まなくなることがあります。

遺言者が死亡した後でも、家庭裁判所へ執行者の選任を申立てることはできますが、執行者が決まるまで時間がかかります。

「遺言執行者」を追加した遺言書の一例

このような理由で、遺言書には執行者を指定するようにしましょう。それでは、今回の遺言書に執行者を指定する言葉を追加してみましょう。

ここまでの遺言書にすることが必要です。

完成した遺言書はどこに保管すればよい?

では、完成した自筆証書遺言をどこに保管しておくと良いのでしょうか。引き出しの中、タンスの奥、仏壇の中等々、本人しか知らず大事に保管してしまい亡くなった後に遺言書が発見されないことがあります。想いを込めて書いた遺言書も見つからなければ無いものと同じです。

そういったケースが多くあったこともあり、2020年7月より法律の改正により、法務局で自筆証書遺言の保管ができるようになりました。今までの自筆証書遺言は、遺言書を見つけたとしてもすぐ金融機関等で使用できるものではなく、家庭裁判所での「検認」の申し立てという手続きが必要でした。

法務局での自筆証書遺言保管制度を使用すると、この「検認」という手続きは不要になります。

注意する3つの点

ただし、この制度も万能ではなく注意する点3つあります。

(1)自筆証書遺言を預けられる法務局が限られている
・遺言者の住所地を管轄する法務局
・遺言者の本籍地を管轄する法務局
・遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局
またすべての法務局が対応しているわけではなく特定の法務局だけです。

(2)内容は自己責任
法務局で保管される遺言書は、紛失・改ざんのリスクがなく検認も不要です。しかし法務局が遺言書の内容について助言をしてくれるわけではありません。遺言書が法律上の要件を満たしていなかったり、裁判で争うような遺言書の内容になっている可能性もあります。

(3)遺言者の死後に保管の事実は通知されない
遺言者が亡くなっても保管されているかどうかを法務局が相続人に知らせることはありません。遺言者が亡くなった後、相続人等が法務局に遺言書保管の有無等を確認することになります。なお、相続人の誰か1人がこのような手続きをとると法務局から自動的にほかの相続人に遺言書保管の事実が通知されます。

また、法務局が遺言者の死亡の事実を確認した場合に、あらかじめ遺言者が指定した1名に対して遺言書の保管の事実を知らせる死亡時通知というものがあります。ただし、これは事前に遺言者が希望する場合に限ります。

内容は専門家に相談するのが理想

自筆証書遺言は、ご自身で保管される場合と、法務局で保管する場合、どちらにしても遺言書の内容に関して助言してもらう機会はありません。要件は満たしているけれど実際手続きをすることができるのかは別問題なのです。

遺言書があったとしても自筆証書遺言だと財産を引き継ぐ方には手続き上、負担になることが多々あります。

遺言書に想いや願いを記載し、財産を引き継いでほしいと願うならば、専門家に相談しながら公正証書遺言で作成することをお勧めします。遺言者の想い・願いを聞きながら、いっしょに考えてくれる専門家に相談しましょう。そうすれば引き継ぐ方の負担もきっと軽くなることでしょう。

最後に、今回のように「すべての財産を」と記載するのであれば、どこにどのような財産をお持ちなのかを書き記しておくようにしてください。使用していない銀行口座を解約するなど、財産の整理もしておきましょう。

行政書士:藤井利江子

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