ニッサン、フォーミュラEドライバーのパフォーマンス向上を目指し脳機能研究プログラムを開始

 7月14日、日産自動車は現在参戦しているABBフォーミュラEのドライバーふたりを対象として、脳機能および脳構造の研究をもとにトレーニングを開発する『ブレイン・トゥ・パフォーマンス』という革新的なプログラムを開始したと発表した。

 今季のABBフォーミュラEにセバスチャン・ブエミとオリバー・ローランドのふたりを擁し参戦しているニッサン。そのふたりを対象に、『ブレイン・トゥ・パフォーマンス』と名付けられた脳機能を研究し、パフォーマンスアップを目指すプログラムが行われることになった。

 このプログラムは、高精度な脳の撮像データを解析することで、高いパフォーマンスを発揮するプロドライバーの脳機能を、解剖学的な見地から明らかにすることを目的とする。ドライビングやレースに関連する脳機能を高めるために、オーダーメイドで最適なトレーニングを開発する。

 まずは第一段階として、フォーミュラEドライバーの脳機能を詳細に分析、テストし、レーシングドライバーではない平均的なドライバーのグループと比較する。そのために、プログラムに参加するドライバーが、最先端のドライビングシミュレーターでさまざまなタスクをこなす際の脳活動をモニターし、記録。その結果に基づき、脳を電気的に刺激する独自のドライバートレーニングプログラムを開発し、ドライバーのパフォーマンスを向上させることを目指す。

 主要な研究領域の概要は下記のとおりだ。

1.ニッサンのフォーミュラEドライバーと一般的なドライバーの脳機能の比較と違いの観測。
──ドライバーのさまざまな脳活動のデータを集積することで、電気信号が脳に与える影響を観測。
2.脳を電気的に刺激することで、プロドライバーの脳を強化し、サーキットでのパフォーマンスを向上させる可能性。
──脳の通常時の活動を把握し、脳を電気的に刺激するオーダーメイドのトレーニングプログラムを開始する。結果をモニターし、フィードバック。
3.ブレイン・コンピュータ・インターフェース・トレーニングを活用した一般ドライバーの運転技術向上の可能性。長期的には、トップレベルのドライバーが体感するワクワク感や集中力の持続に焦点を当て、ニッサンの未来のEV開発へ反映することを検討。
──ドライビングエクスペリエンスを向上させる生体信号の理解を深め、直感的でワクワクするようなEVの開発に役立てることを検討する。

 このプログラムは、脳の分析とトレーニングの分野における第一人者で、人とニッサン車の関係をより良いものにするための研究を続けているルチアン・ギョルゲによって推進される。ギョルゲはルーマニア出身で、1998年に来日。神戸大学大学院を修了し日産自動車に入社して以降も研究を続ける理学博士だ。

「私たちの脳は驚くほど強力だ。私たちがそのことを意識することはないが、脳はクルマを運転する瞬間ごとに多くの重要な機能を働かせている。高度な訓練と経験を積んだニッサンのフォーミュラEドライバーは、常により速いラップタイムを求めて、強いプレッシャーのなか、高速で脳機能を働かせている」とギョルゲ。

「ニッサンの『ブレイン・トゥ・パフォーマンス』プログラムでは、脳の電気信号がどのようにドライバーの行動を可能にしているのかを明らかにする予定だ。そして可能であれば、オーダーメイドの脳トレーニングによって、彼らのパフォーマンスをさらに向上させたいと考えている。将来的にこの最先端の研究が、平均的なドライバーの運転技術を向上させたり、市販EVの開発にも役立つかもしれない。そう期待している」

 また、ニッサンのグローバル・モータースポーツ・ダイレクターを務めるトマソ・ヴォルペは「ニッサンには、『他がやらぬことを、やる』という精神がある。今回の画期的なプログラムはこれまでなかったもので、レーシングドライバーの脳機能を理解することで、サーキットでのパフォーマンスさらに向上させることを目指している」とコメントした。

「高度な脳機能分析とトレーニングによって、ドライバーのパフォーマンスを向上させることができたら何が起こるのか。フォーミュラEのレースではコンマ1秒が勝敗を分ける。ニッサンの最先端の研究チームが、すでに高いパフォーマンスを発揮しているブエミとローランドの脳機能をどのように向上させられるか、期待している」

プログラムを進める脳の分析とトレーニングの分野における第一人者、ルチアン・ギョルゲ
オリバー・ローランド

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