金融庁も注意喚起、レバレッジ型ETFは長期投資には向かないワケ。今後は取り扱いが変わる可能性も?

投資を始めたいけれどどの銘柄を買っていいかわからない。そのような悩みを抱える投資初心者の方は少なくないのではないでしょうか。個別銘柄が選べない方でも手軽に取引ができる商品の一つに、日経平均のような株価指数に連動するETF(上場投資信託)があります。

この指数連動型ETFには日経平均やTOPIXなど日本の指数だけではなく、NYダウやS&P500など、海外の指数に連動するETFもあり、これらに投資をすれば簡単にいわゆるインデックス投資ができます。またETFは取引所に上場しているため、個別株式と同様の取引時間中に取引ができ、1口単位で取引できるものもあるため、少額から投資を始められる点も始めやすいポイントです。

加えて、指数連動型のETFを応用した商品で、指数の値動きの倍の値動きをするレバレッジ型のETFや、指数の値動きと逆の値動きをするインバース型のETFなどもあります。しかし、これらの商品は、投資初心者にとってはわかりにくく誤解を生んでしまう可能性があるとして、取り扱いに警戒する動きも出てきています。

今回はこの指数連動型ETFとレバレッジ型ETFが市場に与えている影響や注意点について見ていきましょう。


日経平均連動型ETFの分配金捻出売りが波乱要因に

ETFの特徴の一つに、投資信託と同様に分配金が出されるETFがあります。決算期間中に発生した利子や配当などの収益のうち、信託報酬などETFの運用にかかる費用を差し引いた額が投資家に分配されるのです。

株式指数に連動するETFの場合、この分配金を捻出するには保有する株式資産を売却して資金を作る必要があります。また指数連動型ETFの場合、普段の値動きが指数の値動きから乖離させないように運用する必要があるため、分配金のための資金を捻出するための株式売却タイミングは必然的に決算日に集中してしまします。

7月1週目は日経平均やTOPIXに連動するETFの決算日が集中し、分配金捻出による売り需要が多くあったため、需給面で相場に影響を及ぼしました。今回の分配金捻出の売りは、7月8日、9日の両日で合わせて約8,000億円分にも上ったと言われています。

この需給面の悪化と、ちょうど世界経済の回復懸念による株安も相まって、7月9日の日経平均は一時27,500円台を割り込み、前週比で1,300円以上の下落となる場面もありました。9日は大引けにかけて需給回復を先取りした買いが入り、翌週に入ると前週の下げ幅をほとんど回復する相場展開となりましたが、相場は短期間で乱高下となりました。

このように、相場におけるETFの影響力は高まってきており、注意する必要があるほか、使い方によっては需給のゆがみを狙い利益を出すタイミングにもなりえるのです。

レバレッジ型ETFは個人投資家に人気!一方で減価には注意

続いては、指数に連動するETFと同様の性質をもち、リスクは高くなるものの値動きが大きいため人気があるレバレッジ型のETFについて見ていきましょう。

急激な相場下落時には逆張りを好む個人投資家がリバウンドを狙って日経平均の値動きの2倍変動があるレバレッジ型ETFを積極的に買い入れる場面もあるなど、活用される場面も広がってきています。一方で、特徴としては短期取引には向いているものの、長期投資には向いていないと言われています。これはどういうことでしょうか。

レバレッジ型のETFは対象の指数の値動きのレバレッジ倍の値動きを1日で達成するように運用されています。例えば指数が+1%動いた場合、レバレッジ型ETFは+2%変動します。しかし運用期間が長くなり、特に上下に動く相場ほど、指数の動きに対し、レバレッジETFのパフォーマンスがレバレッジの比率通りの結果とはならなくなってきます。

簡単な例を使って見てみましょう。指数が1日目に20%下落、2日目に25%上昇したパターンについて考えます。指数の値動きを考えると、2日間の変動の結果、2日目の終値は基準日と変わらずになります。一方で指数の倍の値動き、つまり1日目は40%下落、2日目は50%上昇したパターンを見てみると、変動の結果、2日目の終値は基準日から10%下落となっています。これはあくまで一つの例ですが、2日以上の値動きが起こると、パフォーマンスにずれが出てくるイメージは湧くのではないでしょうか。

実際に年初からの日経平均株価の値動きと、日経平均の倍の値動きをするレバレッジ型ETF、日経平均が1%下落すると2%上昇するダブルインバース型ETFの3つの値動きを見て見ると、顕著な違いが見て取れます。7月1週目までのパフォーマンスを見ると、日経平均は年初来+2.5%であるのに対し、レバレッジ型ETFは+4.4%、ダブルインバース型ETFは-16,2%となっています。

レバレッジ型ETFの期待されるリターンは日経平均のリターンの倍の約+5%に対し、+4.4%と10%ほどアンダーパフォームしています。ダブルインバース型に至っては上昇の時間が長かった相場ではあったものの、期待されるマイナスは5%ほどであるのに対し、実際はそれを大きく下回る約16%の下落となっています。

約半年の値動きでこれだけ違いが見られることを踏まえても、長期的な上昇・あるいは下落を見越してレバレッジ・インバース型のETFに投資をすることは、あまり効果的でないことがわかります。

東証・金融庁も対応を検討、今後は取り扱いが変わってくる可能性も?

上記の通り、長期では思うようなパフォーマンスが期待できないレバレッジ型のETFですが、主な活用が長期投資と考えられるNISA口座でレバレッジ型のETFを購入する投資家が一定数存在するなど、誤った使い方がされているケースも見受けられます。

このような事態を踏まえ、東証・金融庁も対策を打ち始めました。東証はこのようなリスクの高いレバレッジ型の商品をETFの分類から外す方針を固めました。また金融庁も投資家に向けてコメントを公表、さらに内閣府令の一部を改正し、該当商品の広告・説明義務を強化、レバレッジ型ETFの信用取引にかかる委託保証金を従来の約定代金の30%の基準から引き上げを検討するなど、具体的な誤認防止策の実施へと動いています。

今後は、業界として特に初心者が使い方を間違えないようにする取り組みが増えてくるかもしれません。

適切な使い方を見つければうまく活用できる

レバレッジ型のETFは長期で用いるには適切ではなく、誤った売買を行うと思わぬ損失につながる可能性があります。一方で、短期でうまく活用できれば利益につながる可能性もあり、またインバース型の商品であれば買いのポジションに対して急落時のヘッジにも使うことができます。

確かに、指数に連動するタイプのETFは比較的なじみがある日経平均やTOPIXが投資対象ですから、日本経済の先行きに投資しているとも取れます。個別銘柄を選べない人にとってはイメージしやすい、入りやすい商品であることも事実です。

どんな商品でも、適切な使い方は存在します。今後進むことが予想されるリスクの高いETFから投資家を守る取り組みは、ETFの認知度の向上、ならびにETFを正しく使いこなせる投資家が増えるきっかけにもなるのではないでしょうか。

<文・Finatextホールディングス アナリスト 菅原良介>

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