「いきなり団子」北海道を快走 熊本出身の夫妻が移動販売 地震で被災の故郷を思い

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山口斉さん(右)、千文さん夫妻がいきなり団子を販売しているキッチンカー=北海道幕別町(本人提供)

 “スイーツ王国”北海道で、熊本名物「いきなり団子」の黄色い移動販売車が快走中だ。益城町出身の山口斉さん(57)=北海道帯広市=が、妻で熊本市出身の千文さん(57)と昨年4月に始めたという。きっかけは熊本地震で実家を失った山口さんの故郷を応援したいとの思いだった。

 熊日の「SNSこちら編集局」(S編)が今年4月、熊本地震5年の節目に体験談などを募集したところ、山口さんから3枚の写真が届いた。2枚は地震で全壊した実家、もう一枚は一面の雪景色の中でいきなり団子ののぼりを立てた移動販売車の写真だった。

 山口さんは中学卒業後に自衛隊に入隊。ヘリコプター操縦士として雲仙・普賢岳の大火砕流や東日本大震災などの災害派遣にも従事し、2019年に退職後は最終勤務地の帯広市で暮らす。千文さんも元自衛官だ。

 山口さんは熊本地震でも出動した。生まれ育った益城町は、2度の震度7で甚大な被害を受けた。「上空から悲惨な状況を見て、涙が止まらなかった」。退職後に帰郷するはずの実家は全壊だった。

 帰郷を諦め、両親を北海道に呼び暮らし始めたが、「何か故郷に貢献したい」との思いがあった。そこで頭に浮かんだのが、北海道で九州物産展がある時には必ず買う、いきなり団子だった。

 「北海道で熊本名物を広めたら、『熊本へ行ってみたい』と思ってもらえるのでは」。同郷の千文さんと相談し、いきなり団子の移動販売を思い立った。

 昨年4月、軽トラックをキッチンカーに改造。店の名前は熊本弁で「こっちへおいで」という意味で「甘味処 きなっせ」にした。車体には“熊本の広告塔”として、大きないきなり団子の写真とくまモンのイラストを付けた。帯広市のスーパー駐車場などを巡回し、熊本市の専門店から仕入れたいきなり団子と自家製「おやき」(回転焼き)を販売している。

 サツマイモとあんを小麦粉の薄皮で包んだいきなり団子は熊本では誰でも知っている郷土菓子だが、北海道での知名度は低い。加えて拠点とする十勝地方は有名菓子が多い激戦地だ。それでも「初めて食べたけど、おいしかった」とリピーターになってくれる人も増えている。「競争相手がいないと思えば強み」と千文さん。

 熊本地震5年に合わせ、売り上げの一部を熊本城復興に寄付。「どんなに遠く離れていても故郷を思っている。いつの日か北海道中にいきなり団子を広めることができれば」と夫妻は夢を語った。(和田毅)

「甘味処 きなっせ」のFacebookは、https://www.facebook.com/kinasse1104/

いきなり団子を買いにキッチンカーに集まった人たち=北海道帯広市(本人提供)
雪中運動会に出店したいきなり団子のキッチンカー=2021年1月、北海道更別村(本人提供)
車体にくまモンが描かれたいきなり団子のキッチンカー(本人提供)