「ファミリーシップ制度」同性カップルの子も公認 全国の自治体で導入加速

ファミリーシップ制度への申請について話す同性カップルの直子さん(左)と百合さん(いずれも仮名)=福岡県古賀市

 LGBTQなどの性的少数者に対する自治体の制度が変わりつつある。同性カップルに婚姻相当の関係を公に認める同性パートナーシップ制度が広がり、さらに拡充した「ファミリーシップ制度」の導入に向けた動きも活発化している。パートナーが親として認められず、保育園に通う子どもの引き取りを断られるといった事例を受け、同性カップルの子も家族として公認できるようにした。性的少数者の抱える生きづらさに対する理解が進むにつれて、導入が加速しそうだ。(共同通信=石嶋大裕、小川美沙)

 ▽公営住宅で同居も

 ファミリー制度を全国で初めて導入したのは兵庫県明石市。同性カップルだけでなく、その子も公認する先進的な取り組みとして注目を浴びた。今年1月から始まった制度では、届け出を受けて市が証明書を交付。相続権や税金の控除を保障する法的効力はないが、原則として夫婦や親子しか入居が認められなかった市営住宅で同性カップルと子どもの同居が可能になる。ほかに医療機関で家族として病状の説明を受けたり、保育園や学校で子の送り迎えをしたりできるようにもなる。

 同性愛者には、過去に異性との間に子どもをもうけた人や、精子の提供を受けて出産する人がいる。全国100自治体以上に広がる従来のパートナー制度では、公認の対象に想定されていなかった。ファミリー制度は、そうした子どもたちの存在も包摂したといえる。

 ▽全国に波及

 明石市の導入後、徳島市が2月に、東京都足立区も4月に相次いで同様の制度を始めた。福岡県古賀市は既存のパートナー制度を改定して7月1日に導入。埼玉県鴻巣市も12月に始める。このほか、鳥取県境港市はパートナー制度を本年度内に導入し、将来的なファミリー制度への拡充を検討、香川県三豊市でも導入を検討している。

 古賀市の田辺一城市長はファミリー制度を始めた7月1日、「性的少数者の皆さんへの理解が促進され、どの地域でも生きやすい社会になればいい。そうした社会に向けて前進する一日になると信じている」と話した。

 ▽かけがえのない家族

 古賀市のファミリー制度開始を心待ちにしていたのは30代の同性カップル、直子さんと百合さん(いずれも仮名)。一緒に暮らす子どもは未就学児と小学生の計5人。「みんな、きょうだいになる?」。申請について尋ねると、子どもたちは「いいよ!」と即答。7月1日、直子さんと百合さんはファミリー制度第1号として申請し、田辺市長から家族全員の名が記された「宣誓書受領証」を手渡された。百合さんは「ずっと一緒に暮らしていて既に家族だと思っているが、こういう形で認められてうれしい」と顔をほころばせた。

福岡県古賀市役所で田辺一城市長(奥)から、ファミリーシップ宣誓書受領証を受け取る直子さんと百合さん=7月1日

 約4年前、直子さんが2人、百合さんが3人の子を連れて同居を始めた。それまで、それぞれの結婚生活で深い心の傷を負っていた。元夫が生活費をくれず食べ物に困るほど生活が困窮したこと、元夫の自殺未遂、性的DV(ドメスティックバイオレンス)被害…。「何度も死にたいと思った」と百合さん。幼なじみの2人はお互いを頼り、支え合ってきた。

 一緒に住み始めると、ふさぎがちだった子どもたちの表情もほぐれていった。にぎやかに食卓を囲み、時にけんかもする。ふすまは何度補修しても破られ、大きな穴が開いたまま。「みんな、子どもらしさが戻ってきた」と2人は顔を見合わせ苦笑いする。子どもたちの言葉遣いが悪い時、注意するのは直子さん、なだめ役は百合さんだ。保護者面談なども必ず2人で参加している。

 古賀市でもパートナー制度を導入していると知ったのは昨冬のこと。居間に子どもたちを集めて「ママたち、結婚してもいい?」と尋ねると、この時も「いいよ!」と全員が声をそろえて賛成してくれていた。今年3月に同制度の申請をしたが、子どもを含めた関係性の証明が必要だと感じていた。かけがえのない存在だからこそ、病気になった時、学校や園で何かあった時、家族として駆け付けたい。市がファミリー制度を導入予定だと聞き、すぐに申請を決めた。

 直子さんは「まだまだ同性カップルへの偏見は根強いと感じる。ファミリー制度の認知度を上げて、理解を広げる必要がある」と話す。

 ▽差別がきっかけ

 足立区では区議会本会議での差別発言をきっかけに導入の機運がかえって高まった。20年9月、白石正輝区議が「足立区にL(レズビアン)とG(ゲイ)が完全に広がってしまったら区民はいなくなる。法律に守られているという話になれば区は滅ぶ」と発言。同性愛者には子育てができないとの偏見があるとして批判の声が噴出し、謝罪に追い込まれた。

 これを受けて近藤弥生区長は「妊娠や子育ては、同性カップルにとっても選択肢の一つ。区として白石区議のような考えはしていないという姿勢を示したかった」と自ら指揮を執り、パートナー制度ではなく、最初からファミリー制度導入に踏み切った。

ファミリーシップ制度を導入した東京都足立区の近藤弥生区長

 導入の優先順位は、問題の発言以前は決して高くはなかったという。だが、区内の性的少数者への聞き取りで「(区議の発言後)住んでいるのが怖い」と話す人がおり、抱えている生きづらさに近藤区長は大きな衝撃を受けた。

 思いもよらず導入までの階段を上がったが、国会でいまだに白石区議のような発言があることにも気をもんでいる。

 18年に杉田水脈衆院議員が「(性的少数者)生産性がない」と月刊誌に寄稿して猛抗議を受けたはずの自民党。だが、今年5月の党会合ではまたもや簗和生元国土交通政務官の「生物学上、種の保存に背く」といった発言が飛び出した。

 近藤区長は「いわゆる『保守派』の考え方は何があっても変わらないかもしれない。でも、この制度を一歩に議論が深まり、少しずつ世論が変わってほしい」と話す。

 ▽もう諦めない

「こどまっぷ」の長村さと子代表(右)とパートナーの女性(長村さと子さん提供)

 子育てをする性的少数者を支援する団体「こどまっぷ」の長村さと子代表(38)は、自身も同性愛者でパートナーと区の制度を利用している。現在、妊娠中だ。「昔はレズビアンだったら子どもが産めないと諦める人が多かったが、若い世代では子どもを持ちたいという人が増え、制度のニーズは高まっている」と分析する。

 その上で「導入を広げつつ、証明書があれば、子どもが病気になったときに会社を早退できるようにするなど、民間企業も一緒になって利用できるサービスを増やしてほしい」と話した。

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