中国、ウイグル族収容疑惑の「レベル4施設」に迫った 観光客でにぎわう自治区の街を出て記者が見たものとは

ASPIが収容施設とする監視塔などを備えた建物=5月、中国新疆ウイグル自治区アルトゥシュ(共同)

 新型コロナウイルスで海外へ行けなくなった中国人旅行客はこぞって新疆ウイグル自治区を訪れ〝異文化情緒〟を楽しむそうだ。少数民族ウイグル族がかつて暴動を起こした自治区の街は観光客でにぎわい、創建100周年を迎えた共産党は内外に「安定」を誇る。だが、へき地には厳重管理の「収容施設」が点在している。連絡が絶たれ、離散した家族もある。徹底した社会管理の下、抑圧される人々の声は中国で一切伝えられていない。(共同通信=鮎川佳苗)

 ▽「最高レベルの管理」

 今年4~5月、自治区を3年ぶりに訪れた。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が「最も厳しいレベル4管理の収容施設」とみる場所を探すためだ。自治区西部の都市カシュガルから約20キロのアルトゥシュ。砂地に囲まれた道を車で走ると、高い塀や鉄条網、監視塔を備えた建物が見えてきた。中国語で勾留施設を意味する「看守所」の看板もあった。ここに違いない。

 約8キロ西にも鉄条網と監視塔のある建物が確認できた。付近では工事中の一帯があり、ASPIはレベル4施設を建設中とみている。辺りに人影はまばらだ。

監視塔などを備えた建物=5月、アルトゥシュ(共同)

 南部ホータン郊外でもレベル4とされる建物を探し当てた。治安当局者が警備し、記者の車が通ると白い光が瞬いた。車両を自動で撮影し記録しているのだろうか。カシュガル地区ヤルカンドでレベル4施設を目指した際は、当局は記者が乗った車を取り締まり、乗り換えた車も不審な車にぶつけられた。

 これら施設の内部の様子はうかがい知れない。ASPIは約380の収容施設が自治区にあり、2017年以降、レベル4のような厳重管理の建物が増えたと分析する。だが中国はそうした報告はデマだと反発。「正当なテロ予防」目的で職業技能教育のセンターを設置し訓練を実施してきたが、既に終了したと主張する。施設数や収容人数は明らかにしていない。

 「語学や技能訓練のセンターがあるんでしょ?」。尋ねてみたが、ホータンの20代ウイグル族男性は「ないよ、聞いたこともない。施設に入った人も周りにいない」。当局が宣伝した「センター」を知らないとすれば、それも妙だ。

 ▽連絡さえ取れない

 滞在中は終始、徒歩や車による当局者の尾行がついた。記者が話しかけた住民に後から内容を確認したり、走行中のタクシー運転手に電話をして行き先を問い詰めたりするので、ウイグル族の住民はおびえてしまう。ホータンでは投宿した途端に警官が部屋へ来た。恐らく録音録画をしながら、来訪目的を問いただされた。容疑者になった気分だ。

記者を尾行する男(右)=5月、カシュガル(共同)

 先方に迷惑を掛けないよう、監視をかいくぐって行きたい場所があった。16年にトルコへ渡ったアイナさん(31)=仮名=の家族がいるはずの、ホータンのとある地区だ。しかし、何とか尾行を振り切った末の訪問は失敗だった。「登録のない者は滞在してはならない」。伝統的な家屋の並ぶ地区で家を探していると、すぐに当局者を名乗る男性が現れた。自治区の住民管理法規を根拠に立ち去れという。威嚇するように不審な車が集まり、直後から再び尾行が始まった。

 トルコにいるアイナさんはもう4年、ホータンにいるはずの夫や子どもと連絡すら取れない。16年に夫はアイナさんと一緒にトルコに渡り、その後、子どもたちの旅券手続きをしてトルコに連れ出すために単身で一時帰国。しかし「トルコ訪問と妻への送金」を理由に「再教育施設」へ収容された。遠戚によるとその後、懲役15年を言い渡されたとの情報がある。「戻ってくれないと私が捕まる」と父から連絡を受けてトルコから帰国した弟も安否不明。弟と、ホータンにいる母も収監された可能性があるという。

 アイナさんの家族はどんな状況にあるのか。自治区では「反テロ」「分裂主義」摘発が強められている。年2万~4万人台だった刑事事件の起訴数は、地元検察によると17年に約21万人に急増した。国家分裂を防ぐとの名の下、国外との接点や、宗教行為を理由とする拘束が起きていると指摘される。

 ▽薄れるイスラム文化

 「ラマダン?何それ」。カシュガルで20代のウイグル族男性に聞き返され、ちょっとびっくりした。イスラム教徒だという。もしかしたら中国語が通じなかっただけかもしれない。滞在した時期はイスラム教で最も神聖な月ラマダンだった。

 「昼に断食して、夜に食事ができる…」と言い足してやっと通じたが、彼は「そんな習慣はもうやらない。皆忘れていっているよ」と肩をすくめた。それよりも家に遊びに来ないかと、とてもフレンドリーだ。おじゃましたかったが行けば彼は間違いなく当局に聴取されると思い、あきらめた。

訓練のため広場に集まった警察官ら(奥)=5月、カシュガル(共同)

 ホータンではモスク跡が商業広場と駐車場になっていた。イスラム式建築物に「愛党愛国」の幕。ウイグル語が併記されていない店の看板が多い。カシュガルは観光地整備が進む。3年前には見た覚えのない案内板や撮影スポットがあった。近くの警察官によると19~20年にできたそうだ。ウイグル族の店や住居が集まる旧市街地はモスクが減り、バーや飲食店が増えていた。

 中国外交筋は「安定した自治区へ愛国者が遊びに行く。米国の中傷のおかげ。米は人権を口実に中国を攻撃するが、人権とは経済発展だ」と皮肉を交えて現状を誇る。5月上旬の5連休、カシュガルは観光客で混み合った。ガイド業の30代ウイグル族男性は、砂漠でのテント泊や車で郊外へ足を伸ばすのが人気だと教えてくれた。彼は漢族と同じ装飾品を着け、流ちょうな中国語を話す。イスラム教徒だが「若い世代は宗教への見方はそれぞれ」とお酒も飲む。「でも豚は食べない」そうだ。

イスラム式建築物に掲げられた「愛党愛国」の看板=4月、ホータン(共同)

 ▽桁違いの社会管理

 歴史情緒にあふれ、魅力あるシルクロードの各都市。コロナ対策を口実に厳しい住民管理が行き渡る。「誰とどこへ行くのか。目的は」。ヤルカンド駅では日の出前、全到着客を並ばせて詳細に聴取していた。街に装甲車が走り、銃を持つ治安当局者の姿も。給油の際、テロ対策でガソリンスタンドに運転手以外は入れない。ホータンの高速道路は砂漠の真ん中の検問所で、全乗客を下車させて身元を登録していた。

銃を肩に掛けた警察官の前を通り、通学する子どもたち=4月、カシュガル地区ヤルカンド(共同)

 「自治区外と桁違いに厳しい」と驚いてみせたら、ウイグル族の男性は「安全のためだ」と弱々しく笑った。抑圧の強い社会をどう感じているのか。「欧米だけじゃなく日本でも、新疆の状況を心配する声がありますよ」。カシュガルで40代ウイグル族男性に投げ掛けてみると、「米国も中国も…国家というものは好きじゃない」とだけつぶやいた。

 約40年自治区に暮らす漢族は解説する。「民族問題がある辺境の地は特殊な場所なんだ。(国家分裂に関わる)事件の取り締まりは近年かなり厳しい」。監視の徹底ぶりを説き、自治区を離れたら自分の連絡先を消すよう記者に警告した。

 以前親しくなったウイグル族の男性に今回連絡したかったが、迷った末、やめた。どんな迷惑が掛かるか分からない。当局の圧力で妻が3人目の堕胎を余儀なくされたと言っていた彼と家族は今、どうしているだろう。

カシュガルで、観光客らでにぎわう名所の旧市街地=5月(共同)

© 一般社団法人共同通信社