倉敷意匠アチブランチ ~ 味わいある雑貨に出会える、倉敷意匠計画室の直営店

好きな雑貨は、生活を潤わせてくれます。

お気に入りの器でおうち時間がより楽しくなったり、かわいいふきんを使うことで苦手な家事にちょっと前向きになれたり。

筆者は雑貨が好きで、数年前まで雑貨も扱うメーカーで働いていました。
わたしにとって昔から憧れの雑貨ブランドの代表が、倉敷意匠計画室。

「倉敷意匠計画室」唯一の直営店、愛着のわく生活雑貨が並ぶ「倉敷意匠アチブランチ」を紹介します。

2021年7月現在、短縮営業をしています。
営業時間:午前11時~午後4時

本記事は特別に許可をいただいて撮影しています。

倉敷意匠アチブランチとは

倉敷意匠アチブランチは、生活雑貨メーカー「倉敷意匠計画室」「倉敷意匠分室」の、全国初で唯一の直営店です。

倉敷意匠計画室は倉敷市を拠点とし、全国各地の作家や町工場の職人とコラボレーションしながら、オリジナルアイテムを企画販売しています。

全国の雑貨屋などに卸販売をしているので、もしかしたら倉敷意匠計画室のアイテムだと知らずに商品を手に取ったことがあるかもしれません。

「倉敷意匠アチブランチ」は、衣食住のデザインマーケット「林源十郎商店」の本館1階にあります。

旧薬屋を改装し、「豊かな暮らし」を提案する林源十郎商店。

その顔といえる「倉敷意匠アチブランチ」は、歴史ある建物にしっくりなじむ落ち着いた佇まいです。

約3,000種の商品が並び、そのほとんどがオリジナル商品

店内は、以下の3つのスペースから成り立っています。

  • 「倉敷意匠計画室」「倉敷意匠分室」の両アイテムのほぼすべてを販売する常設スペース
  • 月替わりの展覧会を行なうギャラリースペース
  • 不定期ながら、多方面の作家やアーティストによる講座を開催するワークショップスペース

倉敷意匠計画室の商品の特徴

「倉敷意匠アチブランチ」の商品は、日本全国で作られた味わいのある生活雑貨や文具。

心地の良いもの・ユーモラスなものなど、センスの良いアイテムを多数作っています。

商品は、代表の田邉真輔(たなべ しんすけ)さんが企画。

筆者が倉敷意匠計画室を知ったのは、学生時代でした。

いくつかの雑誌で、憧れの人の「お気に入り雑貨」として紹介されていたのを覚えています。

使用者が愛おしそうに商品を語るようすが、印象的でした。

全国にたくさんファンがいる倉敷意匠計画室。

制作する人の想いに共感して愛着が湧く、長く愛用したい、語りたくなるアイテムがいくつもあります。

倉敷意匠計画室の商品の一部を紹介

具体的にどのようなアイテムがあるのでしょうか。一部を紹介しましょう。

銅版転写のお皿

トラネコボンボンの「よく使う普通の洋食器」シリーズ(税込1,760円~)

トラネコボンボンの「よく使う普通の洋食器」シリーズは、手に持ってみると少し重い、レストランで使われる形状の洋食器です。

業務で使われるということは、丈夫で扱いやすいということ。
あたたかみがあり野暮ったくなく、飽きが来ない形です。

現在市場に流通している模様の入ったお皿の多くは、お皿に釉薬(ゆうやく)をかけて焼いた後に、転写シートを貼り再度低温で焼成する方法で作られています。

トラネコボンボンの「よく使う普通の洋食器」シリーズや katakataの印判手皿には、「銅版転写」という技法が使われているのです。

特殊な和紙に顔料で絵柄を印刷し、手作業で水をつけて食器の素焼き生地に貼り付けて絵柄を写し、その後に釉薬をかけて焼くそう。

出せる色は限られますが、長く使っても絵柄が消えることがありません。

katakataの印判手皿(税込1,100円~)

銅版転写の特性により、よく見ると和紙がしわになった場所に色ムラが出ていたり、にじんでいたりしているのです。

田邉さんは「かすれたりにじんだりしている商品を嫌な人がたくさんいることも、知っています。けれど、銅版転写の手法を使うことで出るこのニュアンスが、わたしたちは好き」といいます。

ピシッとしすぎない銅版転写の雰囲気が、心地よく感じられました。

ミシン刺繍のバッグ

sennokoto/菅原しおんさんのリネンの刺繍ミニバッグ(税込2,035円)

ミシン刺繍(ししゅう)の作家によるバッグです。

もともと一点物で制作していた作品を、機械刺繍で再現しました。

機械刺繍は本来、プログラムを組むことで自動的に同じ絵柄を刺繍できます。
しかし上糸と下糸の太さを変え、糸調子をわざと狂わせているそう。

糸が引きつったり糸だまりができたりするのが、持ち味です。
少しずつ表情が違うので、ぜひ店頭で見比べてみてください。

ふつうの機械刺繍であれば、セッティングした後は放っていても完成します。

ですがこのシリーズは、あえて糸調子を狂わせているため、ときどき機械を止めて進行をチェックする余分な手間が発生するそうです。

田邉さんは、次のように魅力を教えてくれました。

「機械で作っても、均一でない仕上がりにする。それもある意味、職人の技術なんです。余分な手間が発生するけれど、その技術によって、普通にきれいに縫っているのとは違う味が出ます

タオルハンカチやお弁当包などもありました。

ガラ紡のタオル

ガラ紡とは、明治初期に日本で考案された紡績機です。

ゆっくり糸を紡ぐため、最新式の紡績機と比べると能率は100分の1以下だそうで、均一化された細い糸は引けません。

糸が太くて不規則にデコボコがあり、毛羽立っていてゆるい、ガラ紡で作られた糸。
手で紡いだ糸と、とても近いのです。

ガラ紡が主力だった時代にはデメリットだった、糸の不均一さ。
均一な糸が容易に手に入る現在は、逆に「ガラ紡の風合い」を魅力と感じる人もたくさんいます。

現在ガラ紡で糸を紡ぐ国内の工場はほとんど廃業し、倉敷意匠計画室と取引していた工場では糸が作れなくなったそうです。

そのため日本のガラ紡を導入したラオスの工場で糸を作り、糸を日本の会社で編んでタオルにしています。

吸水率が高く、肌当たりがやわらかいタオルです。

伝票や事務スタンプ

事務用磁器スタンプ(税込550円)と drop aroundの横長領収書(税込506円)

ユニークでかわいい商品がたくさんある雑貨店の商品紹介として領収書を取り上げるのは、あまり適切ではないかもしれません。

でもこういう地味なアイテムが存在することが、倉敷意匠計画室のひとつの魅力だと思うのです。

個人的な話ですが、筆者がフリーランスになったときに困ったことのひとつが、手書きで使う複写式の領収書でした。

自分にしっくりくる既存の領収書が、意外とみつからなかったのです。

ごく一般的な事務的なもの、過剰に装飾的なもの、ガーリーなもの。
どれも需要があるとは思うのですが、わたしはあまり好きになれませんでした。

ネット上の情報もたくさん調べて「これだ」と思ったのが、倉敷意匠計画室の領収書です。

過度な飾り気はなく、シンプルでわかりやすく、嫌なところがない。複写式で台紙付き。
筆者にとって、必要条件を満たした等身大かつ最良の領収書だったのです。

倉敷意匠には、形違いや英語表記/日本語表記、お会計表やお取り置き表など、いくつかの伝票が揃っています。

魚焼きグリル洗いのためのスポンジ(税込495円)

暮らしのなかで、ニッチでも必要で「好きでない商品を使うのは嫌だな」と感じる道具があるのではないでしょうか。

目立たない商品でも、「これなら使いたい」と思えるセンスの良いアイテムが入手できるのは、とてもありがたいと感じています。

倉敷意匠の魅力的な商品は、どのように生まれているのでしょうか。

代表の田邉さんに、倉敷意匠計画室と倉敷意匠アチブランチの成り立ちや想いを聞きました。

インタビュー

──倉敷意匠計画室と倉敷意匠アチブランチのあゆみを教えてください。

田邉(敬称略)──

1981年に、シルクスクリーン印刷工場として創業しました。

当時は別の会社からのOEM(他社ブランドの製品を製造)を受けて、Tシャツのプリントなどをしていました。
数年後には、自社のオリジナル布雑貨の卸販売を始めます。

当時は雑貨ブームで、求められていたのは売れているものを追いかけることでした。

国際展示会で発表して、反応がよかったためにシリーズを拡張したとします。
すると半年後に展示会で発表するころには、中国などで似せて製造した安価な商品がたくさん出回っているんです。

仕方がないことですが、「そうではないことをしたいな」と思いました。

何を作るか、どう売るか。
その2点において、嫌なことはやめてもいいのではないか、と。

カタログには制作背景をしっかり掲載するようにしました。

きちんと背景が伝わると、真似した商品とは全然違います。
意味に共感していただく、見つけていただくようなイメージですね。

今のイメージに近くなってきたのは、20年ほど前(2000年代)です。

しばらくは、商品企画と卸販売のみをしていました。

当然、それぞれのお店に置かれる商品はごく一部。
商品全体を見られる場所がないので、「倉敷意匠計画室がどんなものを作っているのか」全貌(ぜんぼう)を誰も知りません。

岡山に限らず駅前デパートなどからテナント出店を依頼されたことは何度もありましたが、興味を持てたものはひとつもなかったんです。

約10年前(2010年ごろ)に林源十郎商店さんに声をかけていただいたときは、どういう理由でどういう想いで施設を作るのかを聞いて、まずは見てみようと思いました。

建物を見たら、すごく良くて。ここなら、と思ったんです。

当時お客さまの多くは都市部のかたで、倉敷のかたにはほとんど名前も知られていない状態でした。

「この機会を逃したら一生地元に関わることがないのでは」と思ったこともあり、林源十郎商店に出店することにしました。
今年(2021年で)10年目を迎えます。

──商品を企画するときの基準はありますか?

田邉──

自分の好きなものです。
好きでも、すでに市場に行き渡っているものは避けますね。

町工場さんや作家さんの力を借りて作り、「どこで誰が作ったものなのか」をきちんと伝えています

──倉敷意匠計画室では何名が働いていますか?

田邉──

会社に7名、店舗に5名います。

──少人数ですね。

田邉──

規模が大きくなってしまうと、販売量を増やす必要があります。
そうすると、市場に受けるものを優先して作らなくてはなりません。

それは望んでいないので、「規模を大きくしてはいけない」と思っています

野田琺瑯のお弁当箱(税込3,960円)

──商品について、いくつか聞かせてください。

田邉──

野田琺瑯(のだほうろう)さんのお弁当箱はだいぶ前の商品ですが、今でも人気ですね。

ホーローは、金属の表面にガラス質の釉薬を焼き付けた素材です。

浴槽やシステムキッチンなど大きなホーロー製品を作っている会社は、国内にまだ何社かあります。

しかし、日用雑貨のような小さなホーロー製品を作っている会社は、野田琺瑯さんとあとわずかではないでしょうか。

国内では絶滅寸前といえます。

雑貨店で見かける鍋などのホーロー製品のほとんどが、中国や東南アジア製です。

野田琺瑯のれんげ(税込836円)

ホーローは、メリットもたくさんあるんですけど、落としたら割れてしまうし、錆が出てくることもある。
便利さでは、ステンレスには勝てません。

でも、このホーローの雰囲気が好きっていうかたがいます。
機能だけじゃないんですよね。

わたしたちは、好きな人に向けて作っています

職人さんの高齢化などが理由で、継承が難しくなっているものづくりの技術が多くあります。

メーカーさんに残ってほしい。

自分たちにできることは、わずかかもしれません。
それでも、好きだなと思う人が買いたい商品を作って、売れたら。

後藤照明さんのデスクライト(税込16,500円) ※在庫限りで販売終了

──作れなくなった商品もありますか?

田邉──

アルミのデスクライトは、そのひとつですね。

へら絞りという手法で作られていて、シェードも台座も、ろくろを使ってひとつひとつ手作業で形を整えているんです。

似たようなデスクライトは、全国チェーンの生活雑貨ブランドでも存在しています。
東南アジアでプレス製法で作っていて、ひとつあたりが7,000円程度と安いものです。

プレス製法では単価を安くできますが、型代がひとつ100万円ほどするので、大量に売れるものしか作れません。

金属加工の技術は、たとえば特定の人のために5個だけ作るといった、細やかな需要に応えることで磨かれてきました。
個別対応から生まれた技術なんです。

同じ形であれば、へら絞りでもプレスでも見た目はほとんど変わらないでしょう。
そして、うちのデスクライトは税込16,500円します。損得でいうと、うちの商品は損かもしれません。

でも、商品の魅力は損得だけではないんです。

この商品をいいなと思う人は、「商品を使うことがうれしい」といった、見た目だけではわからない背景にお金を払います。

倉敷意匠では紙物も多く作っていますが、製紙メーカーさんも統廃合が進んでいます。

たとえば、100種の紙を作っているメーカーと100種の紙を作っているメーカーが統合したとしましょう。
すると、新しい会社では50種が廃盤になったりする。

それは仕方がないけれど、わたしたちが好きな紙は、たいてい廃盤になるほうの50種に入っているんです。
その紙を欲しい人がいて買う人がいれば、なくならないかもしれません

窯元もどんどん減っています。
大変な仕事だし、子供には継がせられないという人が多いんですね。

大きな工場での大量生産が、悪いわけではありません。

あるファストファッションブランドの服は、大量に作って世界中に売ることで、数十年前から考えればとても高品質・高機能なものを低単価で買えるようになりました。
すごいことです。

けれど、大量生産のものばかりになると、世の中が画一化してしまいます。

わたしたちは、何か味があるもの・面白いものが好きなんですよね。

同じようなものを好きだと思う人のために、作っています。

倉敷意匠アチブランチでお気に入りを見つけよう

お話を聞いていると、作り手へのリスペクトと、生活への愛情が深く感じられます。

だからこそ、多くの人が田邉さんの「良いと思えること」に共感し、ファンを生み出しているのだと思いました。

生活雑貨は、ただなんとなく使うこともできます。

でも、「このアイテムは、こういうところが好き」と思いながら日々を過ごせたら。

手を拭く、料理を盛り付ける ―― 何気ない動作にも「このアイテムを使っているの好きだなあ」っていう気持ちがプラスされたら。

毎日は、ちょっとずつ、でも確かに豊かになるのではないでしょうか。

日々を彩る雑貨を見つけてください。

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