知的障害者のワクチン接種 不安抱え 方法模索 佐世保の福祉施設

福祉施設の職員(左)に支えられながら通所する知的障害者。ワクチン接種でも付き添いなどの支援が求められる=佐世保市竹辺町

 新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、徐々に対象者が広がっている。各自治体は公共施設などでの集団接種と、医療機関での個別接種を基本とするが、知的障害者には慣れない環境への適応が困難なケースもある。長崎県佐世保市では知的障害者の作業所でクラスター(感染者集団)が発生した経緯があり、福祉関係者は不安を抱えながら適切な方法を模索している。
 6月上旬。最重度の知的障害者を含む約80人が利用する福祉施設を運営する「佐世保市手をつなぐ育成会」の山下順子理事長(71)は、市内の集団接種会場に足を運んだ。受け付け、予診、注射などの場所が別々に設けられ、場内を転々としなければならない。
 「ここに連れてくるのは無理だな…」。頭に浮かんだのは、接種を控える知的障害者の長女(49)や福祉施設の利用者たち。自閉症などの発達障害を併せ持つ人もいる。「慣れない場所はストレスを感じやすい。パニックになれば拒否するかもしれない」。個別接種も医療機関は指定され、普段と異なる環境が想定される。見えない“ハードル”を感じた。
 施設の利用者が感染して入院すれば、治療だけでなく、生活支援も不可欠となる。「医療従事者に迷惑を掛けないだろうか」。ワクチンはそんな心配を和らげる「希望」だった。
 偶然にも個別接種を担当する医療機関のリストに育成会の嘱託医が入っていた。6月末ごろ、わらにもすがる思いで相談。インフルエンザワクチンと同じように医師が福祉施設を訪問し、接種してもらえるようになった。胸をなで下ろし、ふと思った。「ほかの施設は大丈夫だろうか」
 佐世保市によると、市内の医療機関は約200カ所あり、6割に当たる約120カ所で個別接種ができる。医師が出向く訪問接種の調整は「福祉施設と医療機関に任せている」。県内では人口が多い自治体で同様の対応が目立つ。
 同市では昨年12月、知的障害者が通う作業所で市内初のクラスターが発生。経営する社会福祉法人「むすび会」の吉木利徳理事長(64)は、嘱託医による訪問接種は「最も理想的」とする。ただ、同法人では重度の障害者は比較的少ないため、要請する予定はない。
 職員は接種の予約作業などで協力するが、最終的に受けるかどうかは施設の利用者が決める。ワクチンの正確な情報提供に努める中で「十分な判断材料を渡せているだろうかという懸念が常にある」という。
 県によると、知的障害者が持つ療育手帳の所有者は県内に約1万6千人。福祉施設の事業者はそれぞれの事情に合った接種の方法を模索している。吉木理事長は、接種会場を運営する行政に対して「(障害者に)付き添いをする支援者の活動が制限されないよう配慮をお願いしたい」と求めている。


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