上場企業2220社 2021年3月期決算「女性役員比率」調査

 2021年3月期決算の上場企業2,220社の女性役員比率は7.4%で、前年(6.0%)より1.4ポイント上昇した。2,220社の役員総数は2万4,777人(前年比1.3%減)で、前年(2万5,115人)より338人減少した。その一方で、女性役員数は1,835人(前年比20.8%増、前年1,518人)に増加した。上場企業では女性役員の登用が、少しずつ進んでいる。
 2,220社のうち、女性役員のいない上場企業は965社(前年1,140社)で、前年から175社減少(15.3%減)した。構成比は43.4%(前年51.3%)と7.9ポイント低下した。前年、女性役員数がゼロの1,140社のうち、2021年3月期に新たに女性役員が誕生したのは189社(構成比16.5%)だった。
 産業別の女性役員比率は、3年連続で全10産業が前年を上回った。最高は電気・ガス業11.0%(前年9.3%)、最低は不動産業6.2%(同5.3%)で、電気・ガス業と不動産業の女性役員比率の差は4.8ポイントだった。
 女性役員比率が50.0%以上の上場企業は、老人介護ホームの光ハイツ・ヴェラス(女性役員比率57.1%)、化粧品製造販売のシーボン(同55.5%)の2社で、前年と変化はなかった。
 女性役員の登用は国内だけでなく、海外の機関投資家も注目し、年々、上場企業の女性役員比率は高まっている。経団連は、2030年までに企業の役員の女性比率30%以上の目標を掲げており、今後の女性役員の登用具合を見ていくことが必要だ。

  • ※本調査は東京証券取引所など、すべての証券取引所に株式上場している企業のうち、2021年3月期決算(6月30日までに有価証券報告書を提出)の企業を対象に、各企業の有価証券報告書の役員状況に記載されている男性・女性の人数を集計、分析した。
     本調査の「役員」は、「会社法上の取締役、監査役および執行役など」と定義した。
     業種分類は証券コード協議会の定めに準じる。

女性役員ゼロは965社、初めて50%を割り込む

 上場企業2,220社の役員総数は2万4,777人で、このうち女性役員数は1,835人(前年比20.8%増、前年1,518人)だった。女性役員比率は7.4%で、前年の6.0%から1.4ポイント上昇した。
 女性役員ゼロは965社(同15.3%減、同1,140社)で、構成比は43.4%(前年51.3%)と調査を開始した2017年3月期以降、初めて40%台となった。
 女性役員比率が前年より上昇したのは567社(構成比25.5%、前年比11.8%増)。一方、低下は197社(同8.8%、同26.2%増)、前年と同比率は1,456社(構成比65.5%)だった。

女性役員

産業別 電気・ガス業と金融・保険業が初の10%台へ

 産業別の女性役員比率は、3年連続で全10産業で上昇した。
 女性役員比率の最高は、電気・ガス業の11.0%(前年9.3%)。次いで、金融・保険業10.0%(同8.7%)で、この2産業が初めて10%台に乗せた。
 このほか、水産・農林・鉱業9.7%(同7.6%)、小売業9.4%(同7.9%)、サービス業8.3%(同7.5%)と続く。
 電気・ガス業は、役員総数299人(前年311人)のうち、女性役員数は33人(同29人)、金融・保険業は同1,951人(同1,978人)のうち、同196人(同174人)に、それぞれ増えた。
 女性役員ゼロ比率は、不動産業が57.1%(28社、前年53.0%)と最も高く、唯一、50%を超えている。また、女性役員比率も6.2%(前年5.3%)で、10産業で最も低かった。
 以下、卸売業49.7%(同56.9%)、製造業46.6%(同55.4%)、運輸・情報通信業44.7%(同53.2%)、サービス業41.5%(同46.7%)の順。
 女性役員ゼロ比率は、最低が電気・ガス業の10.0%(同15.0%)。女性役員ゼロは20社のうち、2社(同3社)にとどまり、女性役員数は33人(同29人)に増えた。業務上、公共性が高く、他産業に比べ女性役員の登用が進んでいる。

女性役員

業種別 最高は石油・石炭製品の15.0%、6業種で1割を超える

 細分類33業種のうち、保険業を除く32業種(構成比96.9%)で女性役員比率が上昇した。
 女性役員比率の最高は、石油・石炭製品の15.0%(前年10.9%)。石油・石炭製品6社の役員総数73人(同73人)のうち、女性役員数は11人(同8人)と増加した。
 次いで、水産・農林業13.1%(役員総数61人、女性8人、前年11.2%)、保険業11.1%(同161人、同18人、同12.1%)、電気・ガス業11.0%(同299人、同33人、同9.3%)、銀行業10.5%(同1,153人、同122人、同9.3%)、医薬品10.4%(同441人、同46人、同9.0%)の順で、6業種で女性役員比率が10.0%を超えた。
 最低は倉庫・運輸関連業3.5%(同397人、同14人、同2.2%)。
 女性役員ゼロ比率の最高は、パルプ・紙の70.0%(14社、前年75.0%)。以下、ガラス・土石製品62.2%(28社、同66.6%)、倉庫・運輸関連業60.6%(20社、同75.7%)と続く。
 女性役員比率トップの石油・石炭製品は、女性役員ゼロ比率が16.6%(1社、同16.6%)。
 水産・農林業は、2019年3月期より3年連続で、全5社が1人以上の女性役員を登用している。

市場別 女性役員比率トップは東証1部の8.7%

 市場別の女性役員比率は、最高が東証1部の8.7%(前年7.0%)で、前年より1.7ポイント上昇した。女性役員数も前年1,223人(役員総数1万7,370人)から1,498人(同1万7,102人)に増加した。次いで、東証マザーズが6.6%(前年6.4%)、東証2部が4.5%(同3.6%)、JASDAQが4.1%(同3.6%)の順。最低は地方上場の3.8%(同3.5%)だった。
 女性役員ゼロ比率では、地方上場が70.5%(48社、前年73.5%)で最も高かった。次いで、JASDAQが66.9%(同247社、同71.0%)、東証2部が63.8%(同194社、同69.7%)の順。一方、女性役員比率が最高の東証1部は31.3%(前年41.1%)と最も低く、社数は448社と、前年の587社から139社減少した。
 機関投資家は、投資判断の一つとして女性役員の登用も重視している。そうした背景もあり、上場企業では年々、女性役員の登用が進んでいる要因になっているようだ。

女性役員

 政府は、女性が企業の意思決定に関わることで、多様な価値観を企業経営に反映し、こうした価値観を受容する組織はイノベーションが促進されるとの見解を示した。2013年4月、経済界に「役員(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役)に1人は女性を登用する」ことを要請した。
 調査を開始した2017年3月期の上場会社の女性役員は870人で、女性役員比率は3.2%だった。その後、女性役員の登用は緩やかに進み、4年後の2021年3月期の女性役員は1,835人に増え、女性役員比率は7.4%に上昇した。ただ、2021年3月期でも、女性役員の登用ゼロの上場企業は965社(前年1,140社)あり、全体では初めて43.4%と50%を下回ったとはいえ出遅れ感は否めない。
 「ESG」(環境・社会・企業統治)投資では、女性役員の登用も重視されている。海外の機関投資家が取締役に女性を登用するように促し、女性役員がいない場合、社長選任に反対する動きも出始めている。ただ、社外役員にとどまるケースも多く、単なる役員数での判断はできない。
 女性役員の新たな視点や柔軟な発想が、コロナ禍からアフターコロナに向け大きな効果を発揮できるように周囲の支援も欠かせないだろう。

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