エーザイとバイオジェンのアルツハイマー薬、米一部主要病院が不使用決定

 米医薬品大手バイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマー病治療薬をめぐり、一部の米主要医療機関が使用しない方針を示したとロイターが報じた。また、保険適用しない姿勢を示した有力な医療保険会社も現れており、当初大きな期待を持って迎えられた「世界初のアルツハイマー病治療薬」の将来に暗雲が立ち込み始めた。

FDAの承認に対し、監査官の調査決定 承認自体への疑問深まる

 米医薬品大手バイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマー病治療薬「アデュヘルム(一般名アデュカヌマブ)」に関しては、すでに監督官庁の米食品医薬品局(FDA)が、病気の治療効果についての追加の臨床試験実施を条件に、患者への投与を承認している。つまり米国内では事実上、治療に活用可能で、保険会社の同意があれば保険適用も可能だ。

 しかし条件付き承認に関しては、それまでの審査過程とあまりにも方針が違うと当初より専門家から疑問の声が上がり、審査を担当した数人の研究者がFDAの役職を辞任したほか、今月9日には、FDAのウッドコック長官代行が承認過程におけるFDA担当者とバイオジェンとのやり取りなどについて、監査官による独立した調査を決めたと発表した。これを受けバイオジェンの株価が急落するなど、「アデュヘルム」に対する風向きが一気に変わっている。しかし、条件付き承認の措置については取り下げられておらず、現在でも患者に投与可能であることは変わらない。

 この状況に対して、医療機関または保険会社の一部は、使用に対して後ろ向きな姿勢を表明し始めた。例えば米国内の有力医療機関であるクリーブランド・クリニックとマウントサイナイ医大は「アデュヘルム」を使用しない方針を決定したと、ロイター通信の取材に答え、有力な医療保険会社のひとつであるブルークロス・ブルーシールドの一部地域のプランは、アデュヘルムの治療効果を示すエビデンスが不足しているとして、保険適用を行わないと表明している。

 FDA自身が承認過程における不透明さを認め調査を開始することで、少なくとも「アデュヘルム」への信頼は調査が終了するまで担保されないこととなった。承認取り下げにはなっていないものの、世界初と賞賛されたこの薬の将来には大きな疑問符がつけられたままとなっている。

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