25年前のオリ守護神が仰天した中嶋監督 サインに首を振った時の“頑固ぶり”

オリックス・中嶋聡監督【写真:荒川祐史】

中嶋聡監督とバッテリーを組んだ鈴木平氏が語る当時の思い出

1996年を最後にリーグ優勝と日本一から遠ざかっているオリックスが好調だ。交流戦で優勝した勢いそのままに、首位を争っている。1996年はイチロー氏や田口壮氏らを擁した黄金期。当時ブルペンを支え、巨人との日本シリーズで胴上げ投手にもなった鈴木平氏が、今シーズンの強さの理由を分析した。

強いオリックスを知る一人として、今シーズンは期待を持ってシーズンを見守っている。静岡県磐田市で治療院を開いている鈴木平氏は1995年から5年間、オリックスの中継ぎとしてフル回転した。ヤクルトからトレード加入した1年目は50試合に登板して防御率1.83の活躍でリーグ優勝に大きく貢献。翌1996年は守護神を務めて55試合登板で19セーブをマーク、日本シリーズでは胴上げ投手となった。

「若い選手が伸び伸びとやっている」。鈴木氏はオリックスが今季好調の理由をこう語る。投手では絶対的エースの山本由伸投手だけではなく、宮城大弥投手や田嶋大樹投手が成長。打者では宗佑磨外野手や紅林弘太郎内野手が試合を重ねるごとに、存在感を増している。プロ6年目、30歳の杉本裕太郎外野手も才能を開花させた。

鈴木氏は若手が力を発揮できるのは、中嶋聡監督の手腕が何よりも大きいと力を込める。思い出すのはオリックスでバッテリーを組んでいた頃だ。通常、投手が捕手のサインに首を振ると、捕手は別のサインを出す。しかし、現役時代の中嶋監督はサインを変えずに、自らが首を振ることがあったという。鈴木氏は「捕手が首を振るなんて考えられないですよね。サインを変えないから、こっちが投げるしかない」と笑顔で回想する。そして、こう続けた。

「中嶋さんは投手の話を聞いて、考えを尊重してくれる。でも、芯がぶれない。今シーズンの選手起用を見ていると、選手を育てるために我慢して使う覚悟が見える。強いチームを作るには、多少結果が出なくても我慢しないといけない」

ヤクルト、オリックスで活躍した鈴木平氏【写真:間淳】

深夜1時に室内練習場でバットを振るイチロー氏を“目撃”

オリックスは昨季、2年連続で最下位に沈んだ。最近はBクラスが“定位置”で、2000年以降はAクラス入りが2度(2008年と2014年の2位)しかない。指揮官としてはとにかく結果がほしいはずだが、中嶋監督は信念を持ち、選手を信じ、じっと我慢していると鈴木氏は感じている。そして、今のオリックスを黄金期と重ね合わせる。

リーグ優勝した1995年、鈴木氏は25歳、中嶋監督は26歳のシーズンだった。鈴木氏は「若手の活躍はチームを勢いづける。調子の上がらない時期があっても我慢強く起用してもらうと、その選手だけではなく、他の選手も監督の覚悟を感じてチームに結束が生まれる」と語る。

当時の先発ローテーションは、ほぼ全員が20代。守護神の平井正史氏はプロ2年目の20歳で、最多セーブのタイトルを獲得した。打者では、ともにプロ4年目のイチロー氏や田口壮氏が躍動した。

イチロー氏とは同じ寮生活で、鮮明に残っている記憶がある。ある日ナイター後に外食して午前1時頃に寮へ戻ると、寮に隣接する室内練習場でイチロー氏が打撃練習をしていた。その日の試合で3安打を放っても、深夜までバットを振っていたのだった。

25年ぶりVの“懸念材料”は約1か月の中断期間と指摘する

もう1つ、鈴木氏が今シーズンのオリックスで注目しているのが中嶋監督のコメントだ。「負けた時に選手を名指ししていないはず。誰のエラーや投球で負けたかは、本人が一番よく分かっている。中嶋さんが現役の頃の仰木さんや山田さんもそうだった」。リーグ連覇を達成した1995、96年にチームを指揮した仰木彬監督は敗戦後のインタビューで、特定の選手の名前を口にすることはなかったという。

当時の山田久志投手コーチは、失点した中継ぎ投手に「マウンドに送り出すタイミングが一つ遅かった。申し訳ない」と謝罪した。鈴木氏は「中嶋さんは勝てるチームの首脳陣を目の当たりにしてきた。特に山田さんはお互い秋田県出身で同じラインなので影響を受けているはず。どれだけ気持ちよく選手にプレーさせるかが、チームの勝敗に大きく関わる」と述べる。

中嶋監督の忍耐強さや信念、人心掌握もあって、オリックスは25年ぶりのリーグ優勝に手が届く好位置にいる。このまま頂点に立つことができるのか。鈴木氏が唯一の不安材料に挙げたのが、東京五輪による変則日程。7月15日からの約1か月の中断はベテランが体を休める期間となり、毎年上位争いをしているチームは立て直しにあてることができると指摘する。

鈴木氏は「今のオリックスのように若い選手が多く、勢いのあるチームは休まない方がいい。このままの調子で最後まで駆け抜けてほしいが、中断の影響が出ないか心配」と読む。懸念は杞憂に終わるのか。オリックス最後の胴上げ投手は、25年ぶりとなる歓喜の瞬間を心待ちにしている。(間淳 / Jun Aida)

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