tricoter+(トリコテ) ~ 物語のある作品だけを集めた、知る人ぞ知るこだわりの雑貨店

福山市の郊外、赤坂町の住宅街にひっそりと佇む、小さな雑貨店があります。ここがお店だと気づいていないかたも多いかもしれません。

しかし一歩中に入ると、全国から選りすぐって集められた、ステキな物語を持つ作品がずらりと並んでいます。

広島市内や四国などからも熱心なファンが通うという、雑貨店tricoter(トリコテ)。

なぜこのお店にこんなにも惹きつけられてしまうのか、その秘密を探ってきました。

住宅地にひっそりと佇む雑貨店tricoter+(トリコテ)

一見普通のお宅のような外観なので、知らない限りここがお店だと気づく人はいません。

「3回目でようやく見つけたわ~」というお客さんも多いのだとか。

かろうじて目印になるのが、木の看板です。看板が出ているときは営業中。休みのときには「お休みです」の看板が出ます。

「でも、ときどき看板を出し忘れちゃうんですよね。カーテンが開いているときは営業していますので、見るだけでもぜひどうぞ」と、オーナーの佐藤さん。

お店の名前の「tricoter」は、フランス語で「編む」という意味です。

お客さんと作家さんとお店とで、いろいろな物語を紡いでいくようにと、名付けられました。

小さな「+」をよく見ると、ちょこんと矢印がついています。

実はこれ、プラスではなくて羅針盤。お店の思いや方向性を見失わないように、との意味が込められています。

お店のロゴのツバメは、作家さんにデザインしてもらったそう。

羅針盤をくわえて「お客さんを素敵な作品へと導くよ」と言っているのかもしれませんね。

物語のあるこだわりの作品が並ぶ

お店の中には、ていねいに愛情をたっぷりと注いで作られた作品が並んでいます。

少し店内を見ていきましょう。

▼さまざまな木の自然の色をそのまま使った素朴なブローチはcotreeさんの作品です。

画像右側にある星型ブローチの縫い目も、一つひとつ削った木を埋め込んで表現されています。なんと手の込んだ作品でしょう。

▼ma bille(マビーユ)さんのやさしい風合いのアクセサリーに使われているのは、1920年代から1960年代にかけて作られた希少なヴィンテージビーズです。

▼温かみのある表情がたまらない、羊毛フェルトはtao.taoさんの作品。

▼inniuさんの布を染めて一つひとつ作った花のアクセサリーは、同じものがありません。

▼上段はadmiさんのあたたかみのあるイラストのハンカチやバンダナ。

中段は版画工房みのむしさんの紙雑貨です。

▼色も素材もさまざまな革でできた、がま口やポーチなどはがまぐちスタジオY&Mさんの作品。好みのものを選ぶ楽しみがあります。

スペインタイルの技法と日本の材料とで作られた創作タイル。

巴誉(tomoyo)さんの作品は最近とても人気が高くなっており、2023年6月に開催した個展では、大きな作品からどんどん売れていったそうです。

本物の花と見まごう、立体刺繍はcoRteさんの作品。

▼ブローチや小さな額絵はatelier Tu-zuさん。見るほどにじわじわと面白さが伝わってきます。

ワイヤーだけで、こんなにも表情豊かなカエルたちが生み出されるとは。W・Rasenさんの手は魔法のようです。

どの作品にも、作家さんの思いと物語が込められています。

物語とともにお迎えしたあとは、一緒に新しい物語を紡いでいきたくなる、そんな作品ばかりです。

毎月企画されるイベントには常連さんが通う

ほぼ毎月、tricoterではイベントが開かれています。

一人の作家さんの作品を集めたり、ひとつのテーマで集められた何人かの作家さんの作品が並んだりと、さまざまです。

2023年8月のイベントは、アクセサリー材料専門店chiel(シエル)さんの「パーツ蚤の市」。

「シエルさんの作品を買うために働いているの!」と、数日置きに訪れるファンも多いのだそうです。

2023年8月のイベント「パーツ蚤の市」

  • 日程:2023年7月29日(土)~8月20日(日)
  • 営業時間:午前10時30分~午後5時30分
  • お休み:8月8日、9日、15日、16日
  • 場所:tricoter+

イベント時には店内の半分~3分の2ぐらいがイベントの作品、残りが常設の作品となります。

すでにシエルさんの手でネックレスやイヤリングなどに仕上がったものも並んでいますが、自分で好きなパーツを選んで組み合わせるのも楽しいですね。

どれを見てもため息がでてしまう、繊細な作り。

圧巻は、100色の和の色に染められた「ラクトビーズ」です。

模様の入ったビーズは、染める前に一つずつマスキングをしてから染めているそうです。

あまりにもたくさんのパーツがあるので、迷いに迷ってしまいます。

「シエルさんはおよそ4,000種類のパーツを作っているんですよ」

何時間もかけて選んだパーツで、自分だけのアクセサリーを作るのはこの上ない楽しみですね。

材料を買って帰って自分で組み合わせる人もいますが、佐藤さんに組み立てをお願いし、後日できあがったアクセサリーを受け取りに来ることも可能です。

「こんなふうに仕上がりましたよ!」とお客さまに見てもらっている佐藤さん

9月のイベントでは、cotreeさんの木工作品が並ぶ予定です。

2023年9月のイベント

  • 日程:2023年9月7日(木)~18日(月)
  • 営業時間:午前10時30分~午後5時30分
  • 場所:tricoter+

tricoter+オーナーの佐藤真一(さとう しんいち)さんに、お店を開いた経緯やこだわりなどをインタビューしました。

tricoter+オーナー・佐藤真一(さとう しんいち)さんにインタビュー

tricoterオーナーの佐藤真一さんにお話を聞きました。

インタビューは2021年7月の初回取材時に行った内容を掲載しています。

こだわりの雑貨店ができるまで

──雑貨店をひらくことにしたのはなぜですか?

佐藤(敬称略)──

若いころから雑貨が好きで、かわいい雑貨屋さんに一人でぶらりと入ったり、いろいろなものを見て歩いたりしていました。

ハーブも一時期は畑を使って60種類くらい栽培していたこともあるんです。

基本的にそういう、ハーブや雑貨がずっと好きでした。

結局、雑貨屋がやりたかった、ということなんでしょうね。

──街からだいぶ離れた場所ですよね。

佐藤──

実は店を始める前に、東京の先生について勉強したんです。

その先生にも、福山なら広島で2番目に大きな都市だし、街中でやれば十分に儲かるだろうといわれたんですけど。

さっと店に入ってさっと買って、というような店ではなく、本当に作家さんのものを求めてきてくれる人に、大切に作品を持って帰ってもらえる店、落ち着いてじっくりと作品を見てもらえる店にしたかったんです。

ちょうどこの土地を持っていたので、ここなら店の建物も好きに作れると思って。

普通の声の大きさで端から端まで届くように、店の中の作品に一通り目が通るように、この大きさで作ったんです。

日常から離れて、作品の世界に浸れるこの店の空気を気に入って、長居してくれるお客さんは多いんですよ。

東京の先生には、「商売的には回転をどんどん上げていけ」っていわれるんですけどね。

僕、落第生なんです(笑)

──店づくりから手をかけられたとブログで拝見しました。

佐藤──

梁と柱は自分で塗りました。

壁も自分でやるって言い張って、ペンキだけ買ってきたんですが、ペンキ屋さんが見るに見かねて一緒に塗ってくれました。

お店で必要な机とか、ちょっとしたワイヤーのスタンドなんかは自分で作ります。

でも、1個作ったら達成感で終わってしまう。

手を抜かずに一つひとつ全部作る作家さんのすごさを、改めて思い知らされますね。

お店のドアノブや窓の取っ手には、小さなラテン語の刻印があり、お店からのささやかなメッセージが記されています。

お店の立ち上げから関わってくれたアクセサリー作家さんに頼んで、刻印してもらいました。

窓にも小さな札が貼り付けてあって、他愛ないメッセージが刻んであります。

誰も気がつかないんですけど(笑)

こだわりの雑貨店が目指すもの

──このお店のお客さんは、ここを目当てにわざわざ来られるかたばかり?

佐藤──

そうですね。市内はもちろんですが、岡山や広島、四国、割と広い範囲から来ていただいています。

一番遠いかたは、金沢から来られました。

なんかのついでなのかと思ったら、そうでもなさそうでしたね。

そうやってわざわざ来てくれたお客さんをガッカリさせたくないので、常にいい作家さんを探して、ここでしか手に入らない、いいものを置くようにしています。

──どうやって、作家さんを探すのですか?

佐藤──

全国で開かれるイベントに行ったり、工房にお邪魔したりですね。

いいものを見つけたら声をかけてお願いするという感じで。

そうやって見つけた作家さんの作品のなかには、常設ではなじまないものもあるんです。

たとえば、金属で作った版画の原版を使ってブローチなんかを作る、すごく珍しい作家さんがいます。

とても繊細な絵で描かれていて、版画をどんどん刷ればずっと効率よく儲かるのに、現版のほうを加工しちゃう変わった作家さんです。

このかたの作品は金属なので、どんどん変色していってしまう。

変化の過程も手元で楽しんでもらいたいので、こういう作家さんの作品は、期間限定のイベントで置くようにしています。

──それで毎月のようにイベントがあるのですね!

佐藤──

やはりお客さんも、前に来たときとまったく同じものしかないと楽しめないし、僕も楽しめていないお客さんを見るのは嫌だし。

そうやって毎月イベントをやっていると、毎月模様替えをするので、掃除もできます(笑)

7割ぐらいは常連さんというか、定期で来られる固定客さんなんです。

そんなお客さんに、「うわぁ前と全然違う!」っていわれると、「よしっ!」ってなりますね。

──お店のオープン前から11年間続いているブログについて、教えてください。

佐藤──

ブログで、新しい作品の入荷や次のイベントのお知らせなどをしています。

毎日書いているのですごい量になりました。

他にもFacebookとInstagramもやっています。

「Instagramを見た」と、新しいお客さんもときどきこられますよ。うれしいですね。

tricoter+には、物語のある作品がある

知る人ぞ知る、こだわりの雑貨店tricoterには、物語のある作品が集まっています。

毎月特色のあるイベントを仕掛け、全国の作家さんの作品をお客さんの元へ届けてくれる雑貨店です。

お客さんと作家さん、そしてお店とで編み上げる物語を一緒に楽しんでみませんか。

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