ドローンからワーケーション、御朱印、ジビエまで 鉄道各社とスタートアップ企業の協業あれこれ【コラム】

カルタの社名とマークをお披露目する、JR東日本スタートアップの柴田裕、リベラウェアの閔弘圭、カルタの高津徹、JR東日本コンサルタンツ栗田敏寿の4社長=写真左から=(画像:JR東日本)

鉄道業界では、相変わらずスタートアップ(ベンチャー)企業との協業が盛んです。「創業間もなく、事業内容に革新性がある」がスタートアップ企業の定義らしいのですが、いずれにしても〝重厚長大〟の鉄道と、生まれたてのスタートアップは真逆。鉄道事業者がそんな異業種と組むのは、新興企業の技術・研究成果を取り入れ、新しい企業価値を生み出そうとしているからです。

最近は鉄道事業者がスタートアップ企業に投資(出資)して、「アイディアはあるけどお金はない」という起業家の自立を、手助けする動きも目立っています。数ある「鉄道+スタートアップ」の事例から、本サイトをご覧の皆さんに興味を持っていただけそうな話題を集めてみました。

ドローンで鉄道施設を点検

駅の天井裏をドローン点検する際のイメージ(画像:JR東日本)

JR東日本スタートアップ、JR東日本コンサルタンツ、Liberaware(リベラウェア)の3社は2021年7月1日、小型ドローンによる施設点検を手掛けるための合弁新会社「CalTa(カルタ)」を設立しました。カルタは、JR東日本とともに、鉄道施設のドローン点検手法を確立。鉄道DX(デジタルトランスフォーメーション=ICT〈情報通信技術〉による社会変革)を推進します。

カルタを設立した3社のうち、リベラウェアが2016年に設立されたスタートアップ企業。非GPS型小型ドローンの開発や映像加工・編集サービスなどを手掛けます。非GPS型ドローンとは、GPSの電波が届かないトンネル内や駅舎の屋根裏でも自動的に飛行できるドローンのことです。

新会社のカルタはJR東日本の孫会社で、スタートアップ企業といえるかどうかは若干微妙ですが、社名の「Cal」はphysiCal(物理的空間)、「Ta」はdigiTal(デジタル)のこと。カルタはもちろん百人一首とかでおなじみのゲームと同音ですが、凡人の私には聞いただけでお手付きしそうな社名ですね。

ドローンの遠隔操作なら現場に急行できる

それはさておき、ドローンによる鉄道施設メンテナンスの有効性は、本サイトのニュースでも再々指摘されているところ。カルタはトンネルや橋りょう、人の立ち入りが難しい狭い駅舎空間などの画像を撮影し、点群データを取得。その上で、データから施設の補修が必要かどうかを判断します。

自然災害時などに有効なのが、ドローンの遠隔操作(自律飛行なので遠隔といえないかもしれませんが)。被災状況の素早く的確な把握で、早期復旧につながれば何よりと思います。

カルタは本社を東京都渋谷区のJR東日本本社内に置き、資本金5000万円。社長はJR東日本社員が兼任します。

阪急阪神HDはスタートアップに投資して自立を支援

鉄道から不動産、国際物流、ホテルまで広がる阪急阪神HDの事業領域。スタートアップ企業の活躍の場も大きそうです。(資料:阪急阪神HD)

前章に登場したJR東日本スタートアップは、スタートアップ企業の自立を資金面やノウハウ・人材面で支援するJR東日本の子会社ですが、同様の動きは鉄道業界に多くあります。阪急阪神ホールディングス(HD)とSBIインベストメントは、2021年4月にスタートアップ企業を投資対象とする、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンド「阪急阪神イノベーションパートナーズ(IP)投資事業有限責任組合」を設立しています。

SBIはインターネットを活用して銀行、証券、保険などのサービスを手掛ける金融グループ。CVCは、スタートアップ企業への直接投資を意味します。

阪急阪神IPの投資規模は30億円、運用期間は10年。ファンドはSBIインベストメントが運営します。主な投資領域は、DX、MaaS、ヘルスケア、シニア向けサービス、農業関連事業など。JR東日本に続いて、DXが登場しました。

JR西日本はニューノーマルのワーケーションを推進

続いてはJR西日本。管内に瀬戸内や南紀、北陸といった多くの観光地を抱える同社は、コロナ禍のニューノーマル(新しい常態)で新しい働き方として注目されるワーケーションの普及にスタートアップ企業と共同で取り組みます。JR西日本と協業するのは、「KabuK Style(カブクスタイル)」です。

スタートアップはどうしてローマ字社名なのかという素朴な疑問はさておき、カブクスタイルは全国のホテルなどに定額で滞在できる、サブスクリプションのサービス「HafH」(ハフ)を考案し、企業向けに提供します。

ワーケーションに挑戦する企業に割引きっぷを用意

西日本一円に渡る「JR西日本×住まい・ワーケーションサブスク」のサービスエリア(資料:JR西日本)

本サイトでも紹介しましたが、JR西日本、JR西日本イノベーションズ、カブクスタイルの3社は2021年4月1日から、ワーケーション利用を意識した企業向けプログラム「JR西日本×住まい・ワーケーションサブスク」を共同展開しています。

JR西日本は、ワーケーションにチャレンジするHafHの会員企業に、大阪―広島間、同―和歌山間、広島―福岡間といったJR西日本の山陽新幹線や在来線特急の割引きっぷを提供します。JR西日本やカブクスタイルは、ワーケーション誘致に力を入れる和歌山県白浜町や広島市でセミナーを開催し、普及に取り組んでいます。

おまけで、カブクスタイルの社名の由来。歌舞伎の語源になった「傾(かぶ)く」を表し、他人とちょっと違う自分らしさを表現するそうです。

東京メトロと京阪HDは社寺検索スタートアップとご利益旅

スタートアップと協業した「春の京阪・御朱印めぐり2021」のビジュアルイメージ(画像:京阪HD)

続いては、参加した人にご利益がありそうなスタートアップ企業との協業。神社やお寺、御朱印の検索サイト「ホトカミ」を運営するDO THE SAMURAI(ドゥ・ザ・サムライ)は2021年3月、東京メトロのオープンイノベーションプログラム「Tokyo Metro ACCELERATOR(東京メトロアクセラレーター)2020」で、応募93件から最終審査通過を通過した優秀3件の一つに選ばれました。

ドゥ・ザ・サムライは、これまでのスタートアップに比べると分かりやすい社名。日本人とともに、訪日外国人に日本文化を発信する企業の立ち位置が理解できます。

企業コンペに当たるアクセラレーター2020の発表資料には、「東京メトロとドゥ・ザ・サムライは、『ホトカミ』とメトロ24時間券を組み合わせ、社寺や御朱印ファンに向けて、外出機会を創出する共同施策を実施します」の記載があります。しかし、東京都への緊急事態宣言発出などを受けて未実施のようなので、ここではメトロより一足先、京阪ホールディングス(HD)がドゥ・ザ・サムライと2021年4~5月に実施した「春の御朱印めぐり2021」を披露します。

御朱印めぐりでは、大阪天満宮(大阪市)、伏見稲荷大社(京都市)、建部大社(大津市)など沿線12社寺を対象とし、京阪電車で訪れます。期間中、対象12社寺のうち6社寺以上の御朱印が写った写真付き参拝記録を「ホトカミ」に投稿すると、抽選で沿線加盟店で利用できる「おけいはんクーポン」をプレゼント。さらに、1カ所以上の参拝記録を投稿した人から抽選で、お気に入りの画像を表紙にあしらったオリジナルの御朱印帳を進呈しました。

奈良県のスタートアップがJR東日本の通販サイトでジビエ肉を販売

十津川村ではジビエが地域グルメとして親しまれます。村内にはイノシシ鍋のレストランもあります=イメージ=(画像:JR東日本)

最後はJR東日本に戻ってもう1題。同社は2020年10月の深澤祐二社長の会見で、オンラインツアーなどを手掛けるHuber.(ハバー)との協業を発表しました。ご紹介するのはその後の事業展開で、JR東日本はオンラインショッピングサイト・JRE MALLでハバーが企画したオンラインツアーを配信・販売しています。

最初の目的地は奈良県十津川村で、タイトルは「オンラインで旅する日本の秘境~生産者さんと巡る旅」。ジビエ鹿肉の生産者が十津川の魅力を伝え、JR東日本は十津川産の鹿肉をネット販売しました。

十津川村の生産者にとって、JR東日本のような大手有力企業に商品を扱ってもらうことは、大きな励みになったはず。社名のHubは日本語にもなっていて、物事の中心を示す「ハブ」です。人々の交流の中心になろうと命名したそうです。

ということで、鉄道好きでビジネスのアイディアを持った皆さん、是非スタートアップを起業して、大鉄道会社と対等に渡り合いましょう。でもその時は、分かりやすい社名でお願いしますね(笑)。

文:上里夏生

© 株式会社エキスプレス