小林可夢偉組トヨタ7号車が乱戦を制し今季初優勝。8号車は再三のトラブルで脱落【WEC第3戦決勝レポート】

 7月18日、WEC世界耐久選手権第3戦『モンツァ6時間レース』の決勝がイタリア・ミラノ郊外に位置するモンツァ・サーキット(アウトドローモ・ナツィオナーレ・ディ・モンツァ)で行なわれ、トヨタGAZOO Racingの7号車トヨタGR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)が今季初優勝を飾った。

 2021年第3戦の舞台は、第2戦ポルティマオに続きWEC初開催となるイタリア・モンツァ。超高速サーキットを舞台にした戦いは、次戦に控えるル・マン24時間をも占うものとなる。

 また今回のイベントは決勝日のみ、グランドスタンドに限って観客の入場が許され、WECにとっては2020年2月のアメリカ戦以来となる有観客でのレースとなった。

 予選では、今季よりル・マン・ハイパーカー(LMH)規定の新型マシン『GR010ハイブリッド』を最高峰ハイパーカークラスに投入しているトヨタGAZOO Racingが7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)、8号車GR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/ブレンドン・ハートレー)の順でフロントロウを独占。

 これにアルピーヌ・エルフ・マットミュートの36号車アルピーヌA480・ギブソン(アンドレ・ネグラオ/ニコラ・ラピエール/マシュー・バキシビエール)、今戦より2台体制を採るグリッケンハウス・レーシングの708号車グリッケンハウス007 LMH(ピポ[ルイス・フェリペ]・デラーニ/グスタボ・メネゼス/オリビエ・プラ)、同709号車グリッケンハウス007 LMH(ロマン・デュマ/フランク・マイルー/リチャード・ウェストブルック)が続くというスターティンググリッドとなった。

■トヨタ8号車、トラブルで「ノー・パワー!」

 現地時間12時、晴れ/ドライ、気温29度/路温46度というコンディションのもと、2列縦隊で最終コーナー・パラボリカを回った36台のマシンがスタートを切る。

 7号車トヨタはコンウェイ、8号車はブエミ、36号車アルピーヌはネグラオ、708はデラーニ、709はウェストブルックがスタートからステアリングを握っている。GTEアマクラスではDステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMR(星野敏/藤井誠暢/アンドリュー・ワトソン)で藤井がスタートを担当した。

 スタート直後の第1シケインでは36号車アルピーヌがいったん8号車トヨタの前に出るが、第2シケインまでにブエミが抜き返す。その後方ではグリッケンハウスの2台が順位を入れ替え、709号車が708号車の前に出た。

 トヨタの2台は、アルピーヌとグリッケンハウスに対して1周あたりコンマ5秒程度ラップタイムが良く、差はじりじりと広がっていく。開始30分過ぎに導入されたFCY(フルコースイエロー)のタイミングで各車がピットイン。2回目のピット作業を前にした1時間20分経過時点ではトヨタ2台の差は約9秒。8号車の19秒うしろに36号車アルピーヌ、さらに5秒うしろに709号車という状況となった。

序盤はノントラブルで走行を続けたグリッケンハウス・レーシングの709号車グリッケンハウス007 LMH

 ハートレーへと交代し2度目のピットを終えてコースに戻った8号車だったが、直後にスロー走行に転じる。ハートレーからは「ノー・パワー!」との無線。ゆっくりとコースを1周しピットに戻った8号車は、ガレージに入れられた。

 一度はコースに戻った8号車だったが、今度は1コーナーをほとんど減速せずに直進すると、またもスロー走行に。8号車は再度ガレージへと入れられると、前部のカウルが外されフロントアクスル周辺の修復作業に入った。左フロントまわりのパーツを交換し、10周以上おくれてハートレーがコースに戻る。

 2時間が経過し、トップ7号車と2番手36号車の差は42秒、そこから30秒うしろに709号車が続くというトップ3の展開に。7号車はロペス、709号車はマイルーへと2度目のピットでドライバー交代を済ませている。気温は31度、路面温度は52度にまで上昇した。

 2時間経過直後、GTE車両のタイヤバーストに伴い導入されたセーフティカーで、いったんギャップが縮まる形に。

 2時間30分が過ぎた頃、8号車が今度は燃料プレッシャーの問題から三度スロー走行に。ガレージに入れられた後、数分ですぐにコースに戻されるが、問題は完全な解決に至っていないようで、残りのレースは通常より短いスティントを刻む見通しとなる。

決勝中、度重なるトラブルに見舞われたトヨタの8号車GR010ハイブリッド

 2番手をゆく36号車アルピーヌはシケインを直進する場面が見られるなか、背後の709号車マイルーがギャップを詰めていく。一方で序盤の修復で遅れていたグリッケンハウスの708号車は、3時間経過を前にまたしてもガレージに入れられている。

 レース折り返しとなる3時間経過時点でトップは7号車トヨタ、23秒差で36号車アルピーヌ、そこから1秒後方に709号車グリッケンハウスという接戦模様。チームとして前戦まで2連勝を飾っているトヨタも、油断できない展開が続く。

■可夢偉がコース脇にマシンを止める

 4時間目に入り、アルピーヌとグリッケンハウスによる2番手争いが接近するなか、36号車はラピエールへ、709号車はデュマへ、7号車は可夢偉へと交代。3時間30分経過を前に8号車トヨタはまたしてもガレージに入れられ、燃料系パーツの交換に入った。

 トップを走る可夢偉の背後には、わずか13秒という差で36号車アルピーヌのラピエールが続く。ラピエールの約10秒後方では709号車グリッケンハウスもデュマの手により順調に周回を重ねていった。4時間経過を前に、36号車は5回目のピットへと向かう。

 そして4時間が経過した直後、順調にレースを運んでいたトップの7号車トヨタにアクシデントが。突如スローダウンすると、可夢偉はアスカリシケイン手前のコース脇にマシンを止めた。どうやらエラー・メッセージが表示されたようで、システムをオフ/オンした可夢偉は、しばらくして再び動き出す。

 これでトップに立った709号車は、次の周にピットへ。この間に可夢偉が首位を奪い返すと、今度はここまでトラブルフリーだった709号車がルーティン作業後にガレージへと入れられてしまう。グリッケンハウスは2台が同時にガレージで修復を受けることとなった。

 4時間11分、7号車可夢偉がピットへ。右リヤタイヤのパンクがあったようで、タイヤも交換する。この間に36号車ラピエールがトップに立ち、7号車トヨタは47秒差で続くこととなった。なおこの直後、修復を終えた8号車が中嶋一貴の手によりコースへと戻っている。

 4時間37分、36号車が6回目のピットへ向かい、バキシビエールが再びコクピットへ。トップ可夢偉から36号車までは約50秒となる。

 可夢偉は4時間58分経過時点で36号車との差を約64秒に広げ、5時間ちょうどのところで6回目のピットイン、コンウェイへと交代する。この間に36号車が首位に立ち、14秒差で7号車コンウェイが追う展開となった。

トヨタ7号車とトップ争いを繰り広げたアルピーヌA480・ギブソン

 これで36号車アルピーヌがあと1回、ほぼフルサービスに相当するピットが必要なのに対し、7号車トヨタは燃料スプラッシュが1回必要という状況に。

 残り50分、2台のギャップは10秒程度。そこからコンウェイは差を詰めていくが、残り40分となった1コーナーでブレーキロックによりエスケープロードを直進してしまう。直後に36号車が最後のピットへと向かい、7号車がトップへ。36号車は燃料補給のみでコースへと戻り、7号車コンウェイからバキシビエールまでの差は約56秒となる。

 残り35分、デブリ回収のためこのレース2度目のFCYが導入される。ここで7号車は燃料スプラッシュのためのピットへと向かうと、合わせてバイブレーションが報告されていた右フロントタイヤも交換、首位をキープしたままコースへと戻り、FCY解除を迎えた。

 FCY中にピットインできたおかげで50秒というマージンを手にした7号車コンウェイだったが、最後のピット作業の際、装着する前に準備していたタイヤがピット作業エリアのラインを超えていたかどうかが審議の対象に。しかしこれは警告を受けるのみで済み、コンウェイはリードを保ったままトップチェッカー。7号車の3人が今季初優勝を挙げた。

 2位には60秒差で36号車アルピーヌが入り、途中ガレージインもあった709号車グリッケンハウスがクラス3位/総合4位。トヨタ8号車は修復後も走行を続け、43周おくれの総合33位でフィニッシュしている。グリッケンハウスの708号車はリタイアとなった。

 チームとしては開幕3連勝を飾ったトヨタだが、レース中に多くのトラブルに見舞われたことで、次戦ル・マンに向けて課題を残す結果ともなった。

総合表彰台の様子。3位にはLMP2クラス優勝のユナイテッド・オートスポーツUSA22号車陣営が立った。

■LMP2ではユナイテッド22号車が今季2勝目

 LMP2クラスでは、オープニングラップでユナイテッド・オートスポーツUSAの22号車オレカ07・ギブソン(フィル・ハンソン/ファビオ・シェーラー/フィリペ・アルバカーキ)を駆るハンソンが、PPスタートのチームWRT31号車オレカのロビン・フラインスを1周目にパスしてトップに浮上。

 その後はセーフティカーのタイミング等での有利・不利もありながら、22号車がクラスをリードし、31号車らが追う展開となった。2時間経過時点では31号車のフェルディナンド・ハプスブルクがトップに立つが、セーフティカー・ピリオドが終わると22号車アルバカーキが再びトップに。

 そこからは22号車がリードを保ち、開幕戦スパ以来となる今季2勝目を飾った。2位にはチームWRTの31号車オレカ、3位にはレーシングチーム・ネーデルランドの29号車オレカが続いている。

LMP2クラスを制したユナイテッド・オートスポーツUSAの22号車オレカ。総合でも3位に入っている。

■LMGTEプロ:6時間にわたって続いた接近戦を92号車ポルシェが制す

 ポルシェ2台、フェラーリ2台によって争われるLMGTEプロクラスは、ポルシェGTチームの92号車ポルシェ911 RSR-19(ケビン・エストーレ/ニール・ジャニ)がクラスポールからスタート。

 このクラスではもはやおなじみとなった超・接近戦は序盤から続き、92号車ポルシェとAFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evo(アレッサンドロ・ピエル・グイディ/ジェームス・カラド)が、長時間にわたりテール・トゥ・ノーズのトップ争いを繰り広げる展開となった。

 そんななか、91号車ポルシェは目前でスピンしたLMGTEアマクラスの車両と軽く接触した影響で、序盤にして右フロントに傷を負っての戦いを強いられる。

 51号車フェラーリは2時間過ぎに激しいトラフィックのなか、1コーナーで92号車ポルシェから首位を奪うが、3時間を前にした3度目の同時ピットで92号車が素早い作業により再逆転。後半戦も92号車を先頭に秒差の争いとなった。

僅差のバトルを繰り広げた92号車ポルシェ911 RSR-19

 5時間目に入ると、91号車ポルシェのジャンマリア・ブルーニと、52号車フェラーリのミゲル・モリーナの3番手争いも激化する。

 残り1時間を前にしたピット作業を終えるといったんはトップ2台の差が広がるものの、ラスト10分ではまたもコンマ差に接近。しかし残り2分で51号車のピエル・グイディがスプラッシュのためのピットへ向かい、勝負あり。92号車が開幕戦に続き今季2勝目を挙げた。

 2位に51号車フェラーリ、3位にバトルを制した91号車ポルシェが入っている。

クラス2位に入ったAFコルセの51号車フェラーリ488 GTE Evo

■星野・藤井組アストンマーティンが激闘の末LMGTEアマクラス3位に

 LMGTEアマクラスでは、クラスPPからスタートしたTFスポーツ33号車アストンマーティン・バンテージAMRのベン・キーティングが序盤のレースを支配。その背後では、予選での車両規定違反により最後列スタートとなっていたAFコルセ83号車(フランソワ・ペロード/ニクラス・ニールセン/アレッシオ・ロベラ)が快走を見せ、開始9分時点で3番手にまで浮上する。

 また、クラス10番手からスタートを担当したDステーション・レーシング777号車の藤井も21分経過時点で4番手にまで順位を上げてきていた。

 2時間が経過した直後、快調にトップを走行していた33号車キーティングの左フロントタイヤが突如バースト。ボディワークにもダメージを負い、修復のため戦列を離れることとなった。

 3時間を過ぎ、各車が3回目のピットを終えた段階でのトップはAFコルセ83号車。これに777号車アストンマーティンのワトソンが続く。4時間を過ぎ、その背後ではチーム・プロジェクト1の56号車ポルシェ911 RSR-19のマッテオ・カイローリとアストンマーティン・レーシング98号車アストンマーティン・バンテージAMRのアウグスト・ファーフスの3番手争いもコンマ差で展開される。

 ファーフスは5時間目終盤にカイローリ攻略に成功し、3番手に浮上。残り1時間を切って2番手の777号車は藤井へとバトンタッチする。

 トップの83号車から藤井までは約40秒のギャップがある一方、藤井の背後には98号車のファーフスが最終盤に迫り、アストンマーティン同士のバトルとなる。残り2分、2台は裏ストレートから最終パラボリカを並走。そのまま1コーナーへと向かうが、ここではなんとか藤井がポジションを死守する。

 2台はテール・トゥ・ノーズで最終ラップへ。ここで1コーナー立ち上がりからまたも並走状態へ持ち込んだファーフスがターン4進入までに藤井をオーバーテイクし、クラス2位をもぎとった。最後に順位は落としたものの、Dステーションは参戦3レース目にして3位表彰台を獲得している。

クラス3位となったDステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMR
LMGTEアマクラスを制したAFコルセ83号車のフェラーリ488 GTE Evo

 WECの次戦第4戦は伝統のル・マン24時間レース。8月21〜22日、フランス・サルト県ル・マンに位置する、ル・マン24時間サーキット(サルト・サーキット)で決勝レースが行なわれる。

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