東京五輪開幕直前、関連データを分析してわかった無観客開催でも期待できる景気へのマインド効果

7月12日から東京都に4度目の緊急事態宣言が発出されています。飲食業界・旅行業界を中心に5,000億円程度のマイナスの影響が出ると見込まれます。東京オリンピックはほとんどの会場で無観客での開催です。

コロナ禍になる前は、オリンピック観戦にきた一般の外国人が、飲食、宿泊、観光などをすることで、4,000億円程度の経済波及効果を見込む向きもありましたが、一般の外国人の来日がないのでインバウンド需要はほとんどない状況です。

コロナ禍という厳しい状況下で、緊急事態宣言によるマイナスとインバウンド需要喪失のダブルパンチを受ける飲食業界・旅行業界では、オリンピックの経済効果という言葉を出すと、「そんなものはない」として反発する人も多いでしょう。スタジアムなどの建設は経済効果が大きいものですが、去年までに終了していて、現在その効果は過去のものという感覚でしょう。

しかし、世界中のトップクラスのアスリートが一堂に集い、全力で競うオリンピックは、人々の気持ちを前向きにします。スポーツの力のマインドに与えるプラス効果は大きいものがあると思います。コロナ禍で、アスリートの活躍に勇気づけられる人も多いのではないでしょうか。


新型コロナウイルス先行き判断DIは改善傾向

マインド面へのプラス効果はあるものの、オリンピックで感染が拡大するのでは、という不安の声もあります。6月の景気ウォッチャー調査でも「ワクチンの効果次第の面があるが、東京オリンピックの開催によって感染力の強い新たな変異株がまん延することを懸念している」といったコメントがありました。

景気ウォッチャー調査での新型コロナウイルスに関するコメント数は直近のピークだった昨年11月の990人から、6月は647人と概ね3分の2に減少しています。また、新型コロナウイルスに関するコメントをした景気ウォッチャーの回答をもとに、新型コロナウイルス先行き判断DIをつくると、6月では53.5と3~5月の40台を上回り、良くなるという回答の割合が多いことを意味する50超に転じました。昨年11月の33.2から20ポイント改善しています。新型コロナウイルスの影響で景気の先行きが悪くなると見る人が減ってきている、と考えられます。

もちろん、欧米に比べてワクチン接種が遅れてスタートしたことで、オリンピックの運営に当たるボランティアなどでワクチン未接種の方も多く、オリンピックをきっかけにした感染再拡大への懸念は残ります。適切な対応でそうした事態を回避してほしいものです。

ワクチン接種加速の動きがDI改善に寄与か

6月の景気ウォッチャー調査を基にした「ワクチン」関連先行き判断DIは61.8と良くなるという意見が多く、分岐点の50を大きく上回っています。これまでの日本のワクチン接種加速の動きが評価されていることを示していると思われます。

NHKのHPに掲載されている日本の新型コロナウイルスのワクチン接種回数(100人あたり)は、2カ月前の5月13日のデータでは、3.95回にすぎず、米国の78.68回に比べかなり少ない状況でした。7月13日のデータでは、47.67回まで増えました。米国の99.91回に比べ、直近2カ月間でおよそ倍のペースでワクチン接種が加速したことがわかります。

民間エコノミストの予測を集計した7月のESPフォーキャスト調査では、景気の腰折れリスクとして「五輪の再延期・中止」を挙げる人がいなくなりました。また、「新型コロナウイルス感染状況」を挙げる人が29人と初めて30人を割り込みました。エコノミストの見方として、感染再拡大にならないようにしっかり対応し、無事オリンピックをやり遂げることができるとみるのが、コンセンサスであると言えそうです。

6月の「オリンピック」先行き判断指数DIは52.9と景気分岐点の50を超えてきました。回答数は2020年1月と今年5月の152人を大幅に上回る291人と過去最高を更新しました。全回答者1,820名の約6分の1がオリンピックに言及したことになります。オリンピックへの関心が高まってきたことが窺える数字でしょう。

日本の金メダル獲得数が日経平均株価に影響?

家電量販店ではテレビなどの販売増加が期待され、東京オリンピック開催の恩恵を受ける業種のひとつと言えるでしょう。また、外食は厳しいものの、テレビ観戦をするなか、デリバリーにはある程度期待が持てると思われます。さらに、活躍した選手が好きなモノ、愛用するモノへの需要増が期待されます。北京オリンピックで体操の内村選手が好きだと言った準チョコレート菓子などがこれまでの例として挙げられるでしょう。

前回2016年のリオオリンピックで日本は金メダルを12個獲得し、ランキングは第6位でした。ランキング10位までの国の金メダル数と当時の世界経済に占める名目GDPのシェアの相関係数は0.868と強い相関があることがわかります。選手育成などにお金をかけられる国が強いともいえるし、金メダルを獲るとその国の人々が元気になって、景気が良くなるともいえ、相乗効果が生み出されたようです。なお、メダル総数と名目GDPシェアの相関関数は0.885でした。

日本の金メダル数が2ケタに達した大会は、東京(1964年)、メキシコ(1968年)、ミュンヘン(1972年)、ロサンゼルス(1984年)、アテネ(2004年)、リオ(2016年)の6大会です。このうち、建設投資の反動でオリンピック開催月の10月が景気の山となった1964年の東京大会を除き、日本の金メダル獲得数が2ケタに達した5大会では、日経平均株価は大会期間中にすべてで、2~6%程度上昇しました。

ちなみにモントリオール(1976年)以降、金メダルが10個に到達しなかった大会は、1大会を除いてすべて大会期間中に下落しています。唯一の例外は2012年のロンドンです。金メダルは7個と少なかったのですが、銀・銅を含めたメダル数が38と当時で史上最多となりマインドに大きくプラスに働いたと考えらます。

山下JOC会長は今大会の金メダル獲得目標を過去最高の16個(東京、アテネ)を上回る30個としています。日本選手の活躍が期待されるところです。

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