『全裸監督』は「笑ってはいけない」シリーズなのか!? シーズン2で生じた“変化”を考える

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「宇宙からエロが降る」

『全裸監督』シーズン2の第1話「宇宙からエロが降る」のワンシーン、山田孝之演ずる村西とおるは、銀行の融資係に山奥にある巨大なパラボラアンテナ施設の前に連れて行かれる。それを見た村西は、一気に自らの夢想の世界に入り込む。身体は天に向かって浮かび上がって行き、宇宙にたどり着く。いつの間にか白ブリーフ1枚になり、人工衛星内部の無重力空間を、泳ぐように進んでいき、窓から青い地球を見下ろす。無重力空間には無数のエロビデオが浮遊していて、コックピットのモニターには様々なセックスシーンが映し出されている。

シーズン1よりもかなり太った山田孝之は、ヒキガエルのようなフォルムで非常にコミカルだ。そのシーンが素晴らしくて、私は一気に心を掴まれた。

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しかし、その後8つのエピソードの鑑賞を進めるうちに、私は「ワケがわからない……」と思わずつぶやいていた。何を描いたドラマなのか、さっぱりわからなかったのだ。すべて見終えた時、私はこう理解することにした。「このドラマは、ダウンタウンの“絶対に笑ってはいけない”シリーズだ」と。

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玉山鉄二に「最も身体を張って頑張ったで賞」を

第1話の冒頭は、村西とおるが女性記者にインタビューされているシーンから始まる。村西に卑猥な言葉を浴びせられている女性記者が、よく見ると水川あさみであることに驚いた。こんなふうに作品中、“ちょい役”で大物俳優、タレントがちょくちょく登場する。まるでダウンタウンの「笑ってはいけない」シリーズのように。視聴者は「次に誰がどんな役で出てくるか」という興味でもドラマを楽しめるだろう。

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そもそもこの作品は、山田孝之が体重を増やしブリーフ1枚で、口調も村西とおるになりきる、その演技のインパクトで世間の興味を鷲掴みにした。シーズン2の公開前は、芸能活動を休止していた西内まりやがAV女優役で登場しヌードを披露するのではないか、という噂が世間の耳目を集めた。もともとケレン味ある宣伝戦略が特徴であり魅力である作品ではある。ただシーズン2では、その度合いがかなり強くなっている。「笑ってはいけない」シリーズが年々そうなっていくように。ちなみにシーズン2の「最も身体を張って頑張ったで賞」は、村西とおるの片腕である川田研二役を演じた玉山鉄二だ。

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この作品の原作は言うまでもなく、村西とおるの人生を綴った評伝である。ドラマの冒頭ではっきりと文字で「Based on a true story」と謳われる。しかしドラマ版『全裸監督』は、原作本に出てくるキャラクターやエピソードをバラバラにして組み直し、エンターテインメント性の強い作品を作り出す努力がされていて、原作本とドラマの内容は大きく異なる。

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具体的には、村西とおると敵対する反社会性力や悪徳刑事を登場させることによって、両者の対立を軸によりわかりやすくスリリングな物語を作ろうとしているところ。シーズン1では敵対勢力の得体が知れない分だけ、まだリアリティーや緊張感を持って両者の戦いを見ることができた。

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しかしシーズン2になって、村西とおると反社会勢力や悪徳刑事の間には、奪い合う利権など存在せず、争う理由は希薄で、敵対勢力は物語をスリリングに見せかけるためだけに登場させたらしいことに気づき始めると、途端に彼らのリアリティーが喪失し、心の機微は理解できなくなり、行動には合点がいかなくなる。登場人物の心理や行動が納得できない物語は苦痛である。よって、私は「ワケわかんない……」とこぼしながら鑑賞することになった。

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“すぐれた脚本”の難しさ

場当たり的な脚本であるがために、演出も統一感を欠く。シーズン1では、ヤクザの親分を非常に猟奇的に描き、ノワール作品を指向しているのかと思いきや、シーズン2の衛星事業を牛耳る実業家(この設定の時点でリアリティーを欠く)は、韓流ドラマのコメディのように漫画チックに描かれている。

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最も納得ができなかったのが黒木香の描き方だ。現実世界で黒木はビルから飛び降り、自殺未遂事件(とされている事故)を起こす。全裸監督のドラマの中でも、この事故が描かれている。そしてその理由があたかも、村西とおるの愛情が他の女優に移ったことのように単純に描かれている。

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全盛期、村西とおるは都内一等地の瀟洒な洋館に、たくさんの女優、スタッフと共に住んでいた。彼はほとんどの女優と関係を持ち、ハーレムの王として暮らしていたという。そうしたカルト集団の狂気と熱気が、原作が描く最も魅力的で興味深い部分であるのに、単純にフラれたから自殺しましたなんて描かれると、興ざめさせられる。黒木香の自殺未遂の真の理由はわからぬが、紊乱者として世に出ることのプレッシャー、そのような人生を選んだ内面を思えば、彼女が内面の病理を抱えていた可能性を想像することは難しくないはずだ。そんな黒木香の単純な描き方を見たとき、原作の最も大切な魂のような部分まで捨ててしまったのではないかと感じた。

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芸術は一部分だけが素晴らしければそれで良いのだと言う。もしそうであるならば、山田孝之を筆頭に、森田望智ら俳優たちの演技は鬼気迫る。冒頭で書いたように素晴らしいシーンもある。何より『全裸監督』は熱気がほとばしっている。それは関わった者全員の熱気だろう。

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ただ、そうした良い部分を見ると余計に、カネがあれば素晴らしい俳優を使えるし、素晴らしいシーンも撮れる。しかし脚本はいくらカネをかけても、必ず良いものが手に入るとは限らないんだという当たり前のことに気づかされる。

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文:椎名基樹

『全裸監督』シーズン2はNetflixで独占配信中

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