【サンデー美術館】 No.279 「小村雪岱スタイル展より」

▲見立寒山拾得(部分)  小村雪岱 1930年代 絹本・墨画

 画中の二人は、どうやら「細面で全てが整った」下谷の芸者福子と、料亭「宇佐美」の女中で「瓜実形の美人」お琴のようである。評判の二人が、額をつき合わせ何かを企んでいる。おそらくは、お琴が福子にせがんで落葉に何か書いてもらっているのである。筆先をじっと覗き込む眼差し、祈るような可憐な手つき、ぎゅっと捩れた肢体。「ははぁん、恋文の代書だな」と思われた方、惜しい。殿方に直に想いを告げるような、そんなはしたない真似はしないのです。この葉っぱは七夕の短冊の代わり。元々、願い事とは葉に書きつけられるものだったようなのです。     

 というわけで、題名を「お琴の願い」としてもいいと思うのですが、雪岱はそんな野暮はいたしません。この二人を、怪異な風体と奇行で知られる、唐代の伝説上の詩僧、寒山と拾得に見立てています。     

 千年もの時を隔てた「二人組」のダブルイメージ。「願い事」の可憐さを際立たせる江戸前ならではの粋な趣向といえるでしょう。

     

山口県立美術館副館長 河野 通孝

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