百鬼朱紀(sui sui)- 最後までアイドルでいたかったし、貫きたかった。アイドルになってめっちゃ良かったです!

アイドルオタクからアイドルになって見えた風景

──sui suiとして2年間活動されてきた百鬼さんがアイドルを目指したきっかけを教えてください。

百鬼:中学生の頃から熱狂的なアイドルファンをしていたんです。最初に好きになったのは、AKB48さんのまゆゆ(渡辺麻友)なんですけど、そのころは「自分もアイドルになりたい」と思ってはいませんでした。中学生の時にエビ中さん(私立恵比寿中学)のファンになって、そこからいろいろなグループが好きになったんです。

──王道のアイドルグループが好きだったんですね。

百鬼:そうですね、初めの頃は王道が好きでした! ただ、アイドル以外では、ちょっと変わったものだったり、まわりのみんなとは違うものが好きでした。『ゲゲゲの鬼太郎』とか(笑)。

──水木しげるからのまゆゆはだいぶ距離がありますね(笑)。

百鬼:はい、自分でもだいぶ差がすごいなと思います(笑)。今、思い返すと、実は心のなかではキラキラしたかわいいものが好きだったのかなって思います。まゆゆは前髪と声が好きになったんですよ。あのころのアイドルって、前髪ぱっつんで触覚があってっていうアイドルっぽい人はめずらしかったので、そこがすごくいいなって惹かれました。AKBさんにはすごくハマりましたね。YouTubeで動画を観ていると、関連動画にいろんなおすすめが出てくるので、そこからももクロさん(ももいろクローバーZ)に行って、エビ中さんに行って……っていう感じで好きになりました。

──アイドル側になりたいっていう気持ちのステップはいつ訪れたんですか?

百鬼:中学生の時はいわゆる地上と呼ばれるアイドルが好きだったんですけど、高校生のころに地下アイドルにハマりはじめたんです。近距離でアイドルを見るようになってから、「自分もこんな風に表現したい」っていう気持ちが芽生えたんだと思います。

──地上の大手グループのコンサートに行っていたところから、地下のライブハウスに行くのは状況として驚きませんでしたか?

百鬼:エビ中さんのライブも、大きいところから小さいところまで行っていたので大丈夫でした。でも、今思えば全然小さくないんですけど(笑)。当時はZeppでも、「めちゃくちゃ近い!」って感じていたんです。そうやってホールからライブハウスへ段階を踏んでステージとも近くなっていったので、現場に圧倒されるよりもとにかく楽しい気持ちが強くて、順番に雰囲気に馴染んでいった感じですね。

──そうやってアイドルとの距離が近くなって、いざ応募するときにどうしてsui suiだったんでしょうか。

百鬼:もともとは、入りたい事務所があって何度もオーディションを受けたんですけど、書類で落ちたり面接で落ちたり。5〜6回は受けました。でもダメで。そうなったらもうその事務所にこだわらなくても、自分のやりたいことややりたい楽曲ができるところがあるんじゃないかと思って、視野を広げて募集を見るようになったんです。そこで、たまたま見つけたのがsui suiでした。……なんか、普通のグループじゃないなって感じがしたんです。

──変わったもの好きセンサーにひっかかったんですね! 最初はどんな印象でしたか?

百鬼:ちっちゃい事務所です感も出ていたし、募集の動画もなんかちょっと変だったんですよ(笑)。それに、運営の鉄平さんのことはSNSでフォローをして知っていたので、「この人のところなら大丈夫だな」っていう信頼感もありました。(※ここで同席していたsui suiスタッフが爆笑)

──最初のライブのことは覚えていますか?

百鬼:すごく覚えています! 自分の名前を叫んでくれる人がいたり、自分の特典会に並んでくれる人がいたり、そういうのを初めて体験したので、「こんなに幸せな気持ちなんだ」って感じたのをめちゃくちゃ覚えています。

──それまでは応援する側にいたのに、逆の立場からの風景も見られるってすごいことですよね。

百鬼:自分がアイドル側になったっていう実感もまだなかったので、わたしで大丈夫かなって心配になりました。ちゃんとアイドルができているのかな、アイドルとして成立しているかなって不安で。

──いつごろから、「自分はアイドルになれたな」って実感が出ましたか?

百鬼:今も、自分がアイドルっていう実感はあんまりないかもしれないです。ただ、自分だけを好きになってくれる人がいたり、自分がきっかけで人生が変わったって言ってくれる人がいて、これまで自分がやってきたことは正解だったんだって思いました。

ファンの人の力ってこんなにすごいんだなって実感した

──百鬼さん自身がオタク側だったときも、アイドルがきっかけで変われたことはありましたか。

百鬼:ありました! もともとわたしは人前に立つのがめちゃくちゃ苦手だし、すごく人見知りなんです。だから、その部分ではすごく元気をもらいました。アイドルの存在は大きかったですね。最初のライブはMCでなにを喋ったのか全然覚えていないんですよ。もう脱退しちゃってるのですが、前のメンバーですごく喋りが上手な子がいたので任せっぱなしでした。

──今はライブでパフォーマンスをしながらもお客さんやフロア全体にしっかり目をむけていますが、MCを含めコミュニケーションには徐々に慣れていったんですか?

百鬼:経験っていう場数も大事だなって思いますけど、ファンの人の力ってこんなにすごいんだなってアイドル側に立って初めて実感しました。でも初めのころから、お客さんがどこにいてどこから観てくれているのかはなぜかすぐ認識できたんです。

──すごいですよね。アイドルの特殊能力かなって思うんですけど、みんな歌って踊りながらもお客さんをちゃんと見ていて、どこにいましたよねって気づいてくれたり、フロアを把握して見ている。

百鬼:今でも覚えるのは得意なんですけど、ステージに立つと自然にできていました。わたしは自分のことがあまり好きじゃなくて、自分自身にあまり関心を持てないからこそ、そんな自分を応援してくれるファンの立場を考えたり、ファンの人のことを考えたりするのが好きなんです。自分のことをあまり考えないからこそ、なのかもしれないです。ファンに対しても、わたしじゃなくてもっと上手なアイドルがたくさんいるし、わたしじゃないほうが幸せになれるのにって思っちゃうことがあって。

──ファン側はよく病みがちですけど、アイドル側もファンに対してそう思うことがあるんですね。

百鬼:そうですね、特にわたしは自分に自信がないのでそう思っちゃいます。ファンの人には幸せになってほしいからこそ、わたしじゃないほうが幸せになれるんじゃないかって思っちゃうんです。

──そういった不安を抱えて自問自答をしながら、学校に通って、週末はほぼライブで平日はレッスンというのはとても大変だったと思うのですが、2年間を頑張る支えはなんでしたか?

百鬼:それこそファンの人のツイートや、存在ですね。

──sui suiファンの方って、楽曲にもライブにもすごく丁寧に感想をツイートされる印象があります。ファンの方のツイートも読まれるんですね。

百鬼:めっちゃ読んでます! エゴサもします、非公開リストにいれて全部見てます(笑)。

──非公開の「オタクリスト」が存在しているとは(笑)!

百鬼:自分がオタクをしていたときに、ちょっと好きだったアイドルのことを書いたら、その子がわたしのツイッターを監視してくれていたんですけど、それが逆にプレッシャーになっちゃったんですよ。別のアイドルのことを書くと、なんで別の子のことを書くのって言われちゃったりとか。そんな経験があったので、プレッシャーに感じさせちゃわないか気になってわたしはこっそり見るようにしていました。

──どこまでもファン側の気持ちを想像しているんですね。

百鬼:わたしはそれしか取り柄がないんですよ(笑)。

いつかどこかで踏ん切りをつけなくちゃいけない

──「走馬灯に出るだろうものは自分にとってはアイドルそのもの」とツイートされているくらい思い入れがあるアイドルを卒業すると決めるのは、すごく悩まれたと思うのですが、「2周年ライブでsui suiの未来は希望しかない」と思ったことをきっかけのひとつにあげられていました。それって理想的な卒業の決意にも思えたのですが、新メンバーが入ってsui suiがさらにパワーアップしたからこそ決断ができたところもあるのでしょうか。

百鬼:sui suiをまかせたいなっていうのを新メンバーたちに感じたんです。実は、2人体制のときにも卒業しようと考えていた時期があったんですけど、もうちょっと頑張りたい、もうちょっと続けてみようという気持ちで今までやってきたんです。

──ずっと頭のどこかにはあったんですね。グループ自体を守りたい気持ちもあったんでしょうか。

百鬼:そうですね、sui suiを守りたい気持ちがすごく強かったです。それでもやっぱり自分のやりたいこともあって、年明けくらいからだんだん卒業を考えることが増えました。

──新メンバーが入ってくれたからこそ、やっと自分がやりたいことを選ぶことができたんですね。

百鬼:はい。新メンバーが入ったのはわたしのなかで重要でした。実際に今の5人体制のsui suiはすごく評価していただけて、自分でもいい5人だなって感じています。だからこそ、そのなかで自分の心にある普通の生活への憧れを押し込めてきちゃって。その気持ちを抱えながらsui suiを続けていくのは誰に対しても失礼だって思えたし、誰にとっても得をしないって思いました。新メンバーはほんとうにいい子ばかりだから、これからのsui suiを引っ張っていってほしいんです。

──百鬼さんご自身がアイドルを好きだからこそファンの気持ちもわかるだろうし、決断するまで、そして公表するまでの時間は精神的にもきつかったのではと思います。

百鬼:大変でしたね。どうしたらいいんだろうって気持ちでいっぱいで……。ファンのことが大切だからこそ、発表後の反応もこわいし、卒業までの期間のこともこわかった。だけど、それを考え始めたら自分は一生やりたいことができないって思うから、いつかどこかで踏ん切りをつけなくちゃいけないって悩み続けたなかで、sui suiが強くなったこのタイミングだなって思うことができました。すごく大きな決心です。

──自分の人生がありつつ自分が守りたいグループもあって、葛藤がすごく大きかっただろうな、と。ただ、「最後までスーパーアイドルでいる」という表明はとてもかっこよかったです。気持ちの切り替えはどうされましたか?

百鬼:正直に言うと、たくさん悩んではいたんですけど、ファンの人には暗い顔や悩んでいるところは見せたくなかったんです。最後までアイドルでいたかったし、貫きたかった。アイドルでいる限りどこで卒業をしても絶対に後悔はするだろうから、そのなかでできるだけ後悔のないように過ごしたいんです。

わたしを見つけてくれてありがとう

──卒業を発表されてからファンの方の反応はいかがでしたか。

百鬼:それが、結構想像以上に前向きな言葉をかけてくれる人が多かったんです。「幸せになってね」って言ってくれて、sui suiの2年間でファンの人と築いたものはこんなに強かったんだなと改めて実感しました。こんなに人生を応援してくれてるんだって思うと、自分が活動をしてきたことは間違いなかったなって思いました。

──その関係性って、メンバー全員がSNSで自分たちの気持ちやファンの方への感謝をちゃんと伝えているからこそだと思います。

百鬼:それはもうファンの人たちがあたたかいグループなので、メンバーみんな自然にこうなったんですよね。自分たちから発信をしないと伝わらないし。わたしたちは感情が表情にはあまり出ないタイプが多いので、だからこそちゃんと言葉にしないと伝わらないぞってみんな思ってるんだと思います。

──SNSやツイキャスだと、アー写や楽曲のかっこいいイメージとはまた違った面が見えてとても良いですよね。メンバー同士がいい関係性なんだなって感じますし、グループの活動に慣れていってもファンの存在を忘れていないんだなと思います。

百鬼:たぶんみんなガチガチに自分のキャラをつくり込むタイプじゃないので、ちょっと素を出しつつ、というかつい素が出ちゃうほうが強いですね(笑)。

──百鬼さんは歌い出しを担当されることも多かったですが、グループをこういう面で引っ張っていきたいとか、こういう面で支えたいって思っていた部分はありますか?

百鬼:自分はなににも特化できていないなって思うんですけど、まわりの人からはsui suiそのものだって言っていただくことが多かったです。自分がパフォーマンスで引っ張っていける部分は声量だったんですけど、新メンバーが入ってみんな個性があるし、ユーキちゃんはわたしよりも声量があったし歌もうまいし、葵已ちゃんはダンスが秀でていて頼りになるし、和音はオールマイティーでなんでもできるうえに周りを見ることもできる、彩凪は彩凪にしかない魅力を持っている。もうみんなに全部任せようって思えたんです。だから、すごくニュートラルな立ち位置だったのかなって自分では思います。

──sui suiの百鬼朱紀だった自分を振り返るといかがでしたか。

百鬼:……オタク目線で自分を見ると、ほんとうに不出来なアイドルだったなって思います。推してあげられないかもしれない(笑)。でも良かったです! アイドルになってめっちゃ良かったです! 濃いどころじゃない2年だったと思います。絶対走馬灯の最初に出てきますもん。

──「アイドルになって良かった」という言葉、百鬼さんを推していた方はとても幸せだなと思います。最後に、応援してくれた方へメッセージをお願いします。

百鬼:わたしを見つけてくれてありがとうって言いたいです!

© 有限会社ルーフトップ