検査数少ないのに感染1387人 東京で医療逼迫が始まる! 入院患者や40〜50代の重症が急増も菅首相や政府は「大丈夫」

東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部に出席する菅首相(首相官邸Facebookより)

東京五輪の開会式まであと3日となったが、一方で開催都市である東京都では医療崩壊の足音が聞こえはじめた。本日20日、東京の新規感染者数は1週間前より557人も増加した1387人と発表されたからだ。

この数字は直近7日間移動平均で1180人、対前週比で149.3%増というもので、感染が一気に拡大していることがはっきりとしたが、その背景にあるのはデルタ株の影響だ。本日の東京都の発表によると、変異株PCR検査は791件おこなわれ、そのうち「L452R」が確認されたのは317件。感染割合は40.1%にものぼっているのである。

しかし、いま東京が置かれている状況は、これらの数字よりもっと深刻であることは間違いない。というのも、検査件数(3日間移動平均)はわずか6700件で、陽性率(検査人数は7日間移動平均で算出)は10.2%にも達しているからだ。これはあきらかに検査数が足りず、感染者を捕捉できていない状況であることを示している。

こんな状況下で東京五輪を開催しようということ自体、正気の沙汰ではないが、ところが、肝心の菅義偉首相はこの感染爆発前夜の状況をまったく気にも留めようとしない。いや、それどころか、東京新聞18日付記事によると、政府高官がこんな恐ろしい言葉を吐いている。

〈15日に開かれた都のモニタリング会議では、新規感染者の増加が今のペースで続けば、五輪閉幕直後の8月11日には直近1週間平均で約2400人に達するとの試算が示された。だが政府高官は「それくらいなら大丈夫。中止はない」と意に介さなかった。〉

言っておくが、新規感染者数が2400人に達するという状況は、1日の感染者数が2520人となった今年1月初旬と同じ状況になるということだ。この第3波で東京は、入院すべき状況なのに入院できない患者のみならず、搬送先が見つからず自宅などで待機している間に死亡するケースが続出。さらに1月〜2月に自宅で発見されたコロナ陽性の死者数は、東京都で18人にもおよんだ。

このときも菅首相は感染拡大の予兆がありながら「GoToトラベル」の続行に固執し、感染者数が2500人を超えた1月7日になって宣言を発出、その後手後手の対応のせいで医療崩壊を招いた。だが、そのときの反省などまるでなく、またも医療崩壊を起こそうというのである。

いや、実際にその医療崩壊はすでに起こりはじめている。なぜかメディアでは大きく報じられていないが、東京五輪開幕前にして、すでに東京の医療提供体制は深刻な状況に陥っているからだ。

●中等症入院施設の医師が「重症度は上がっていると思う」「変異株の影響か、肺炎の人が多い」

実際、都内の入院患者数が2600人を超えると医療逼迫が起きるとされているが、本日の入院患者数は2388人と秒読みの段階にある。こうした危機的状況に対し、東京iCDC(感染症対策センター)専門家ボードの座長である賀来満夫・東北医科薬科大学特任教授は、NHKの取材にこう語っている。

「今、東京都は、これまでで最大の危機を迎えていると思う。今回は、1日の感染者数が3000人を超える感染が起こりえる可能性があり、非常に危惧している」

強い危機感を表明している専門家は賀来教授だけではない。厚労省新型コロナ対策アドバイザリーボードのメンバーである和田耕治・国際医療福祉大学教授もまた、自身のTwitterでこんな投稿をおこなっている。

〈都心の病院から もうかなり厳しい 総理は知ってるのかな?
「オリンピック関係なく、医療体制が大丈夫なのかと心配です。コロナの受け入れは大丈夫だとしても、うちは、この状況だと近々普通の救急車の受け入れが難しくなりそうです。この週末には救急を止めることになるかもです。」〉
〈東京都では1年半で今が一番リスクが高い状況です〉(7月16日)
〈この4連休の医療体制 特に東京などは相当に厳しいだろう まずは4連休中 そして、連休開けがかなり厳しそう〉(7月19日)

つまり、東京の医療提供体制はすでにかなり厳しい状況にあり、東京五輪の開幕にあわせた4連休中も「かなり厳しい」状態に陥るだろうと見られているのである。

いや、こうした危惧はすでに現実化している。たとえば、五輪の競技会場であるカヌー・スラロームセンターの近くにあり、おもに中等症のコロナ患者を受け入れている江戸川区の東京臨海病院では、6月中旬は病床使用率が3割程度だったのが、それ以降、除々に増えはじめ、19日午前時点で病床の7割が埋まっているという(NHKニュース19日付)。

さらに、入院患者はワクチン接種が進んでいない50代以下が大半を占めており、同病院の医師は「若い世代の入院患者のうち酸素の投与が必要な人が増え、重症度は上がっていると思う」「変異株の影響かもしれないが、肺炎の人が多い印象だ」と指摘。たとえば、今月4日に入院した50代女性のケースでは、〈入院した際に肺炎の症状があり、9日には肺に血液の塊である血栓が詰まって重症化した〉という。

●東京都発表「重症者60人」は「人工呼吸器かECMO使用患者」のみ 5328人が自宅で療養・待機中

菅首相は東京などへの3回目の宣言解除を決めた6月17日の会見でも、高齢者へのワクチン接種が進んでいることを理由にして「大会中は高齢者を中心とした重症者が減少してくると思う。そのなかで医療の負荷も大幅に軽減されると考えている」と語っていた。だが、実際には40〜50代の重症患者が増加し、医療逼迫が起こってしまっているのだ。

事実、東京都は本日、重症者の数を「60人」と発表しているが、これは都が「人工呼吸器かECMOを使用」した患者しか重症者としない独自基準での数字にすぎず、これらにICU(集中治療室)やHCU(高度治療室)などでの治療をくわえた国の基準にすると619人(19日時点)にものぼる。国基準で東京の重症患者の推移を見ると、6月中旬くらいから右肩上がりに急増。この619人という数字は、東京で医療崩壊が起こった1月下旬のピーク時を超えるものだ。

さらに問題なのは、自宅で待機・療養している人の数だ。本日20日19時に更新された東京都のデータでは、自宅療養者数は3657人で、入院・療養等調整中となっているのは1671人にも膨らんでいる。つまり、すでに5328人もの患者が自宅での療養・待機中の状況に置かれているのである。

これだけでも大変な危機的状況だが、さらに最悪なのは、今後、感染者数が減る要素どころか、増える要素しかないこと。無論、その要素とは「東京五輪の開催」だ。

前述した賀来教授は、東京がいま抱える大きなリスクのひとつに“緊急事態宣言が出ているのに人出が十分に減少していないこと”を挙げているが、実際、NHKの調査では、宣言が出て初めての週末となった17日(土)の渋谷スクランブル交差点付近や東京駅付近の人出は、3回目の宣言が出ていた時期と比較すると両地点とも日中・夜間ともに40%〜15%増となった。宣言が人出の抑止につながっていないのは、「宣言下での東京五輪開催」という矛盾した状況が引き起こしていることは疑いようもないだろう。

さらに、東京五輪の大会関係者の感染者も日に日に増加しており、大会開催でクラスターが発生するようなことがあれば東京の医療提供体制にも影響を及ぼす。その上、夏本番を迎えた東京では「熱中症警戒アラート」も出はじめ、19日には「運動は原則禁止」とする暑さ指数31以上を記録。同日には127人が熱中症の疑いで病院に搬送されている。

感染爆発に拍車をかけ、医療逼迫を引き起こす東京五輪を、それでも開催しようという菅首相。いまからでも遅くはない。総理大臣として人命第一に立ち、即刻、東京五輪は中止すべきだ。そしてそれをしないで医療崩壊が起こり、医療にかかれないまま亡くなるという犠牲者が出た場合、それは菅首相による故意の殺人だと言ってもいいだろう。
(水井多賀子)

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