高校生・受験生・学生たちに向きあう大学アドミッション専門職とそのミッションを考える

入試だけでなく大学教育の変革をめざす専門家集団が誕生する

今春、実施された「大学入学共通テスト」。この新テストをめぐって、“50年に一度”とまで言われ期待を集めてきたのが大学入試改革。ところが、この改革、主要なパーツの多くが先送りになることでも注目を集めた。

もちろん改革課題のすべてが見送られたわけではない。改革議論の当初から説かれていた入試の現場で高大接続を担当する大学スタッフ「アドミッションオフィサー」の本格的な養成もその一つ。先頃、それを主な目的に「大学アドミッション専門職協会」が旗揚げした。日本にも高校から大学への「学び」を接続する本格的な大学アドミッションオフィサーが誕生することへの期待が高まる。

協会理事長の木村拓也先生と、多くの私立大学で一般化している入試改革を立命館大学で先駆けて導入・牽引した小畑力人先生が、今日の大学入試と将来展望、求められる教育改革、日本の大学のこれからを背景に「アドミッション専門職」について語り合った。

大学入試をより良くしたい

木村

:2016年にアドミッションオフィスの整備に対して、文部科学省(以下文科省)からの予算措置があり全国の国立大学に入試の専門職が配置された。文科省からの委託を受けてアドミッションオフィサー養成講座を実施したところ、国公私立の別に関係なく多くの教員・職員の方々にお集まりいただいた。

入試は各大学の重要事項でありながら、秘匿事項も含むので情報を他大学と共有することが難しい面がある。こうした中で、このような研修の場が専門家集団の関係づくりにたいへん有効であることがわかった。また国立大学からは入試担当の教員の方、私立大学からは入試課の職員の方が参加されているが、大学の設置者の違いや職階、職能を超えて大学入試をより良くしていこうという雰囲気になっている。

小畑

:大学入試の実施と改革にとって、アドミッションオフィサーという専門家集団が果たす役割に大いに期待したい。この度の入試改革の要諦は、大学と高校それぞれの教育改革と高大接続改革だと言われてきた。アドミッションオフィサーは、高校から大学の「学び」への移行について一人ひとりの受験生に直接関わって、大学とその先に拡がる未来を語り合い、親身になって相談に乗る重要な存在である。

長年、大学教育と大学入試の現場に関わってきたが、大学としての「専門職」の必要性を痛感してきた。高校や塾あるいは予備校は生徒のために大学受験に向けた進学・学習指導を熱心に行っているが、大学からの受験生に対する直接的なアプローチはまだまだ少ない。アドミッションオフィサーは、高校生と大学生双方に接して、大学の教育研究と大学生活の魅力について、パンフレットやネットを超えて「生きた」情報を語りかけて欲しい。そのための幅広い知識を得るためには日本中の大学から知恵を結集できる仕組みが必要で、今回の大学アドミッション専門職協会は重要な役割を果たす。個別大学の利益だけではなく大学教育の全体最適を目指すことができる。

木村

:文科省の担当者とも事前に連絡を取り合い、国が目指す入試改革の方向性に寄り添いながら進めている。ありがたいことにこの専門職協会のことを文科省の担当者から聞いたと入会してくださる方も増えている。4月に設立シンポジウムを実施した。今後は毎月研修会を実施し、将来は資格制度などを構築していきたい。

大学入試は評価軸が多様化していて、入試の専門家がいなければ対応が難しくなっている。例えばTOEICやIELTSなど外部試験を入試に取り入れる場合もどのような特徴を持ったテストで、高校ではどのように認知されているかなど常に最新情報を取り入れる必要がある。

最近は文科省から示されるテーマが専門化しており、例えば主体性評価(面接、調査票、志願理由書を組み合わせて評価する方法) 、C B T(Computer Based Testingの略で、コンピュータを用いた試験方式)などがある。これらをテーマにした研修を行うと大変盛り上がるし、大学が助成金に応募するときなども、トレンドを理解しなくては採択されるのが難しくなっている。これらの情報収集を、国立大学の教員は教育や研究をしながら行わなければならないので、一人で全てを行うのは難しい。そこで私大の教職員のメンバーも含めて、みんなで学び、一緒に新しい企画を考えたいという熱い思いを持っている。

入試に関わる専門家が集まるメリットは、最新の情報を共有し、学び合えることにある。コロナ禍でオンライン入試が導入されたが大学ごとに方式が違い、受験生は戸惑っただろう。今後やり方を統一することで受験生の労力を減らせるかもしれない。また、立場を超えた集まりなので多面的に入試を考えることができ、今後の入試改革に専門的な提言を社会や国に発信することも可能となる。

小畑

:ふり返ると、2008年から2012年の論議を経て学士課程答申が公表された。そこで提唱されたアクティブラーニング等の教育改革から10年が経った。この間に大学教育は大きく変わったし、コロナ禍(下)のWeb授業等によって大学教育はさらに劇的な変化の直中にある。そして、コロナ禍直前の2019年11月に答申された「2040年に向けての高等教育グランドデザイン」を見ると、2012年答申の「予測困難な時代」から「予測不可能な時代」の大学教育への転換を提起している。一方、2022年から高等学校新学習指導要領が本格実施される。

大学の教育も高校の教育も変わる、そして入試も変わるし多様化する。先ほど述べられた主体性評価もその一つだろう。入試の多様化とその評価は高校生の立場になって考えても重要な問題だ。今後、入試のペーパーテストの出題傾向も変化するが、課外活動等で力を発揮してきた高校生をどのように、それこそ「総合的」に評価するのか?これまでの入試でも問われてきた問題だ。主体性評価を取り入れることで、多様な学生を評価し大学に迎え入れることができる。この課題は大学にとって重要だが、これからの入試の多様化、複合化とその評価をめぐって入試関連業務は高度化する一方だろう。大変な課題だが、それこそ大学アドミッション専門職(の先生方)の「腕の見せ所」だ。

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これから必要なのは育成型入試

木村

:九州大学で育成型入試のシンポジウムを行った時に大きな反響があった。日本では大学生の中退が大きな問題となっているからだろう。受験生を何人集めたかよりも、入学した学生をいかに伸ばせる大学かにトレンドが明らかに移りつつある。アメリカの大学ではアドミッションオフィサーの役割は1年目までと言われている。そのあとは学部の責任とされているが、大学の卒業生が職員やクラブのコーチとして関わることで、教員以外との関わりで成長していけるようになっている。

我々はアドミッションオフィサーが1年生の授業を担当するなど関係性を継続することで、学生が必要とすれば大学内の必要な部署に繋いでいく役割も担いたい。北海道在住の高校生が、道内の進学を考えていたのにもかかわらず、私の講演を聞いて九州大学に志望を変えたと入学後に挨拶に来てくれたことがある。彼の将来を大きく変えてしまったことに責任を感じるとともに、この仕事のやりがいを感じることができた。

特に地方の国立大学では、生徒を集めるのに苦労されている。ピンチをチャンスと捉え、大学の先生方には「自分が一緒に研究したい学生を、ご自身で高校まで迎えにいきませんか?」とお誘いしている。我々は学生を一緒に育成してくださる先生を常に探している。

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九州大学伊都キャンパス[/caption]

小畑

:今の木村先生の話は「いい話」だし、本当に大事なことだと思う。確かに大学の先生からすると、入試という大学の入口から自分がかかわった学生さんなので、入学後の相談や指導に熱が入る。高校と大学のシステムとしての「高大接続」は、先生と生徒・受験生・学生との「学びの絆」を創っていくことになる。

私は予備校から大学に転職したこともあって、学生さんを送っていただく高校とともに塾や予備校との関係を重視してきた。高校以外にもたくさんの塾や予備校を訪問させてもらった。それが、立命館大学の志願者数を4万名台から10万名まで増やすことができたことにつながった。「校塾連携」も重要な教育システムの一環として関係性を強める必要があると考えてきた。それから、私学には付属校や系列校との「一貫教育」が昔からあって、中学・高校と大学のそれぞれの年数、スパンを超えた育成型教育が実施されてきた。公立学校でも中学校と高校や小学校と中学校の連携が増えている。このような学校と学校の連携システムとともにアドミッション専門職の方々の活躍は学校の枠を超える絆となって、全国津々浦々で「育成型」の教育実践を創っていくことになる。

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立命館大学衣笠キャンパス[/caption]

木村

:私が入試業務に関わり始めた15年ほど前には、国立大学で高校を訪問しているところはほとんどなかった。一方で私大の職員さんは高校の先生と信頼関係を築いておられてお手本にさせてもらっていた。高校生を引き込むプレゼンテーションに長けた方も多かった。高校と大学の連携のノウハウを持つ私大の職員の方と国公立大のアドミッション教員が混じり合うことで、お互いに持っている知識を共有することができる。

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和歌山大学[/caption]

誰もが第一志望の大学に入学できる仕組みづくりを

小畑

:近年かかわった高校に東大の推薦入試で入学を決めた生徒がいた。東大合格者3000人のうちたった60人程の超難関を突破、しかも多様な資質・能力と意欲あるトップ生だった。京大の「特色入試」などもある。この様な日本の新しいタイプのエリートを発掘し育成につなげることもアドミッション専門職のミッションと言える。勿論、アドミッション専門職の役割はもっと広く多様だと思うが・・・。

木村

:本当に学びたい学生を、最適な大学や大学教員へつなげることがアドミッションオフィサーの役割と考えている。トップエリート育成も含めて全ての学生が第一志望の大学に入学することをサポートしたい。もちろん第一志望ではない大学に入学しなければならない場合もあるだろう。それなら、入学した大学で多いに学び、成長することで第一志望にしてもらえばいい。アドミッションオフィサーとしてそのお手伝いをしたい。

小畑

:地方出身の学生が夏休みに地元に帰った際、母校を訪問して大学と自分の大学生活を伝えてもらう“しくみ”をつくった。これは、学生募集に効果的だったが、本人の大学への帰属意識、「母校愛」の醸成につながったと思う。入学前教育や入学時のオリエンテーションの時に在校生が「不安いっぱい」の新入生をサポートする役割を持ってもらうことも学生の成長につながる。この「ピアエデュケーション」でもアドミッション専門職の先生方は重要な役割を果たしておられる。優秀な学生に入学してもらいたいのは確かだが、入学してくれた学生をみんなで真の大学生へと育成していくことも大事だ。

良い入試、新しい入試とは

小畑

:今、向きあっている高校生・受験生・大学生は、「人生100年時代」を生き「22世紀を見る世代」だと言われる。しかも、予測不可能とまで表現される変化が激しい時代、受験生が一生を通じて「この学校に進学してよかった」と思える大学を選ぶことは簡単ではない。入試は一通過点ではあるが、人生の重要なターニングポイントになりうる。

大学入試には選抜機能とともに大学の「入口」としての接続機能がある。これまで、なかなか手をつけることができなかったのが、この接続であり、その専門職が生まれ、育つことで大学入試が大きく変わる。入試を生徒・受験生・学生目線で多面的に考え、大学の教育改革につなげる。それができる人材が日本中の大学で活躍するようになれば、入試のみならず大学教育の質を上げることになる。

木村

:入試という短いスパンではなく、それぞれの生徒さんに合った大学に入学してもらい、質の高い教育を受けてもらえるようにしたい。だから受験生の声を大学に伝え、反対に大学の情報をわかりやすく受験生に伝える努力も重要だ。アドミッションオフィサーと話すことで、行きたい大学のイメージがクリアになり、勉強へのモチベーションも高まるかもしれない。この大学に入ってよかった!と思ってもらえるようになるのが理想。そのための組織的・本格的な研鑽がこれから始まる。今後、大学アドミッション専門職協会の教職員を入試説明会などで見かけることがあれば、是非声をかけて積極的に活用してもらいたい。

⼤学アドミッション専⾨職協会とは

ビジョン-vision-

すべての⼤学に⼤学アドミッション専⾨職を配置する

大学アドミッションに関する職能を確立し、大学および高等学校の発展に寄する大学アドミッションの価値創造を行う大学アドミッション専門職をすべての大学に配置する。

ミッション-mission-

a. ⾼校⽣の⼤学移⾏定着を⽀援する専⾨職を養成する

大学に入学し、充実した大学生生活をおくる学生を一人でも増やすことを目的として、大学アドミッションの職務を遂行できる専門職を養成する。

一般社団法人 大学アドミッション専門職協会理事長

九州大学准教授 木村 拓也 先生

九州大学大学院 人間環境学研究院 教育社会計画学講座(教育学部) 教育学部准教授。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。博士(教育学)東北大学。京都大学助教、長崎大学助教・准教授、九州大学准教授を経て2016年8月から現職。専門は教育社会学。独立行政法人 大学入試センター客員教授。日本教育社会学会理事。岡山高等学校出身。

公益財団法人日本漢字能力検定協会普及部参与 元和歌山大学副学長

元立命館大学入試部長

小畑 力人 先生

大学アドミッション専門職協会

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