諫早・轟峡のり面崩壊1年 安全管理体制構築が再開の鍵

立ち入り禁止のフェンスが設置された轟峡。再開の見通しは立っていない=諫早市高来町

 長崎県諫早市高来町の轟峡で、のり面が崩壊し、親子3人が死傷した事故から25日で1年。一帯は今も閉鎖が続く。市が設置した再発防止検討委員会(委員長・蒋宇静(ジャンイジン)長崎大大学院教授、5人)は3月、関係機関とも連携した安全管理体制の強化などを求める提言書をまとめた。事故を教訓とした市の取り組みが問われている。
 昨年7月25日の事故では、県道に面した個人所有の飲食店そばから轟の滝へ下りる遊歩道にいた親子が巻き込まれ、母子2人が死亡、子ども1人が負傷した。気象庁諫早観測所のデータによると、当日雨量は少なかったが、月間降水量1157ミリは長崎大水害時を上回り、1976年の統計開始以降、7月としては最多だった。
 検討委は、飲食店直下の石積みとコンクリートの擁壁が最初に崩壊したと分析。7月豪雨で背面にまで地下水の水位が上昇し、石積みと擁壁を滑り動かす誘因となったほか、長い年月で擁壁基礎地盤の支持力が低下したことなど「複合要因で突発的に発生した」と結論付けた。地盤防災工学が専門の蒋教授は「発生の予見は難しい」と指摘する。
 事故は市の安全管理体制に重い課題を残した。それまで、市は大雨などの警報解除後には倒木や落石などがないか点検。今回崩壊した擁壁の表面に一昨年6月、縦約2メートルの亀裂が入っているのを把握してからは月一度の定期点検を続け、亀裂拡大などの変化が見られないことを確認していた。一方で、気象状況などに応じて轟峡への行楽客の立ち入りを規制する基準などは設けていなかった。
 この点について、蒋教授は「轟峡は(脱落しやすい)浮き石が点在している。『(石積みなどから)明らかに石が出っ張ってきた』『崖にひび割れが出てきた』などの変状現象を機器も使いながらモニタリングし、基準を超えたら立ち入りを規制する対応が必要」と指摘する。
 検討委は提言で、基準の確立や周知、変状現象の早期発見のためのモニタリングに加え、▽変状などのチェックシートを作成して記録に残し、情報共有を図る▽防災・減災に関する職員の人材育成と管理能力の向上-なども求めた。
 提言を受け、復旧への動きが始まっている。崩壊箇所の大部分を占める保安林の復旧工事は、県が治山事業として実施設計に着手。年度内の完了を目指す。工事に伴い、市も飲食店の移転にかかる建物調査に入る予定だ。ただ、豪雨で土砂が流入した「自然プール」などほかにも復旧が必要な箇所もあり、現時点で轟峡は部分的な再開すら見通しが立っていない。
 市は、県道での倒木など轟峡一帯に異常があれば連絡を取り合う体制を県と整えた。大久保潔重市長は「立ち入り規制の基準を早急に作りたい。モニタリング、チェックシートも形にし、高性能カメラを搭載したドローンの活用を進めていく」と話す。復旧作業と併せ、安全管理体制の構築が再開の鍵を握っている。


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