「レッドブル・ホンダにとって不運な週末だった」タイトル争いに向けPUのダメージも懸念/ホンダF1山本MDインタビュー

 2021年F1第10戦イギリスGPではF1史上初めて『スプリント予選』が導入された。土曜日の午後に行われた100kmの短いレースでポールポジションを獲得したマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)だったが、決勝レースの1周目にルイス・ハミルトン(メルセデス)と接触し、タイヤバリアにクラッシュ。幸いにもフェルスタッペンに大きなケガはなかったものの、ホンダF1の山本雅史マネージングディレクターはイギリスGPについて「非常に残念なレースだったなという一言に尽きる」と振り返った。

 一方、今回はホンダのパワーユニットを搭載する4台のなかで角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)が唯一入賞を果たした。山本MDは角田について「中団チームには厳しいフォーマットだったと思いますが、よく耐えた」と評価した。

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──レッドブル・ホンダとしては、残念なレースになってしまいました。

山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):全体的に非常に疲れたレースでした。マックス(・フェルスタッペン)に大きなケガがなかったのはよかったのですが、非常に残念なレースだったなという一言に尽きますね。今週のイギリスGPはレッドブル、アルファタウリともに追い風が吹いていなかったということでしょうか。昨日(土曜日)のスプリント予選ではマックスがスタートを決め、ターン1をとって、そのまま完璧なレースを見せてポールポジションを獲得したわけですが、今日のレースではポールポジションから昨日のようないいスタートは切れなかった。それでもなんとかしのいでターン9を越えれば、セクター2後半からはレッドブル・ホンダの方が速さがあったと思っていたのですが……。ターン9でルイスと接触してしまいました」

2021年F1第10戦イギリスGP スターティンググリッド

──セルジオ・ペレスも今日は見せ場がありませんでした。

山本MD:昨日のスプリント予選レースで珍しくスピンして、そこからリズムが狂った。そういう意味でレッドブル・ホンダとしては今週末は不運だったと思います。

2021年F1第10戦イギリスGP セルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)

──アルファタウリのほうはいかがですか?

山本MD:やはり今回の新しいレースフォーマットが影響したのではないでしょうか。セッティングに費やす時間が金曜日のフリー走行1回目の1セッションだけだったことが結果的にずっと尾を引いていたのかなと思います。昨日ピエール(・ガスリー)とも話したのですが、「やはりセッション1回じゃ、僕らはクルマを作りきれなかった。非常に厳しい状況だった」と言っていた。そんなことも踏まえてレース結果で言えば予選とスプリント予選の順位は変わらなかったですけど、予選16番手から10位に上がってポイントを獲った角田(裕毅)は忍耐強く我慢したレースをやったと思います。

──山本さん自身は、フェルスタッペンとルイス・ハミルトン(メルセデス)の接触に関してどのような感想ですか。

山本MD:最終的にはお互い際どいところで走っているのでレーシングアクシデントだなと自分では思っていますけど、相手は7回もチャンピオンを獲っている人ですからね……。

──レース後、クリスチャン・ホーナー代表は相当怒っていましたが、ヘルムート・マルコ(モータースポーツアドバイザー)さんはいかがでしたか?

山本MD:当たった瞬間、私はマルコの隣にいましたけど、スタートして1周目だったので、みんなショックでしたよね。1周目にレースが終わっちゃうのはやっぱりね。今まで調子がよかっただけに……。

イギリスGPのレース後、フェルスタッペンとハミルトンの接触について怒りをあらわにしたクリスチャン・ホーナー(レッドブル チーム代表)

■角田がホンダPU勢唯一の入賞「厳しいフォーマットだったがよく耐えた」

──あえて聞きますが、日曜日のレースではフェルスタッペンはスタートがあまりよくなくて、ターン1〜3、そしてターン6でも、かなり苦しい状況でした。いつ抜かれてもおかしくない状況でターン9に向かったわけですが、たとえばチャンピオンシップのリーダーとしては、あそこ無理しないで2位でチェッカーでもよかったのではないかという選択肢もあると思うのですが、山本さんはそういう考え方についてどう思いますか?

山本MD:僕はマックスの気持ちを考えたら、(ハミルトンと)当たらないで前にとどまることができたと考えていたのだと思います。そうじゃなかったらあのラインで走らない。つまり、マックスは当たってもいいなんて思って走ってはないと思います。逆にルイスの方が1周目のターン9までオンボードカメラを見ていると余裕があったように思う。それなのに、あそこでこの1周で仕掛けた。だけど、赤旗再開後のレースの終盤に(シャルル・)ルクレールを抜くときは、ちょっと引いたでしょ? マックスに仕掛けたときに比べたら、全然厳しくない。だから、ルクレールに対して、ここで無理しなくてもいつでも抜けるという感じだったけど、1周目のマックスのときは、ここしかチャンスはないとふうに見えました。でも、ルイスってすごいですよね。イモラ(第2戦エミリア・ロマーニャGP)のときもそうだけど、運を持っている。マックスと接触してフロントウイングにダメージを負ったけど、すぐに赤旗が出て修復できたわけですから」

──オーストリアの連戦ではメルセデスのトト・ウォルフ代表が山本さんを訪れて祝福していました。もし今日パドックでウォルフと会ったらなんと言いたいですか?

山本MD:ちょっと、あのターン9は厳しかったね、と言ってやりたいですね。

メディアのインタビューに応じるトト・ウォルフ(メルセデス チーム代表)

──ひと言、ちくりと言いたいなっていう気持ちですね。

山本MD:そんな感じ。ひと言『厳しいレースだよね』と嫌味のひとつでも言いたい、そんな感じです。

──今回のクラッシュによって、この先タイトル争いをしていくうえでどんなダメージをレッドブル・ホンダとしては受けたと感じていますか。

山本MD:パワーユニット(PU)が無事であることを祈るだけです。いま2基目を入れていますけど、次のハンガリーに関しては1基目か2基目でレースをしたいので、今回のクラッシュでダメージがないことをいまは祈るだけです。

クラッシュ後に回収されたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のマシン

──もし、ダメージがあった場合はタイトル争いを考えると、ポイントが獲れなかったこと以上にダメージが大きいですね。

山本MD:そんなことは考えたくないですけど、もしそうなったら1基目でレースをするか3基目を考えないといけない。そうなると年間3基の縛りがあるので、厳しくなるのは必須です。チャンピオン争いを考えれば、心配です。

──一方で、角田裕毅選手がホンダ勢で唯一入賞しました。

山本MD:中団チームには厳しいフォーマットだったと思いますが、よく耐えたと思います。ただ個人的にはスプリント予選のフォーマットは金曜日にFP1とFP2をやってあげるべきで、土曜日のお昼に予選やって、夕方にスプリント予選をやるというのがいいのではないでしょうか。カートのワールドカップとか全日本もほぼ同じフォーマットですからね。ロス・ブラウンは3日間お客さんの動員を増やそうとしているようですが、もう少しレースする側のことも考えてもいいかなと。そもそも、金曜日の予選の後、土曜日のお昼にFP2ってなんか中途半端だと思いますね、レースやる側からすると。

──もうすぐオリンピックが基本的には無観客で始まります。日本GPに関しては、現在どんな状況なのでしょうか?

山本MD:ヘルムート・マルコさんと雑談でコーヒーを飲んでいたときに、「ハンガリーGP終わってから1週間後に夏休みが始まりますが、その前に日本GPがはっきりするといいね」という話をしていました。マルコさんも「できれば鈴鹿でやりたいけど、オリンピックが無観客で始まっちゃうんだよね」と心配していました。これに関しては日本とフォーミュラ・ワンの交渉を見守るしかない。個人的には無観客でもレースはしたい。やっぱりテレビを通じてでも鈴鹿でのグランプリをみなさんに伝えたいと思ってます。いまはオリンピックがうまく開催されて、いい方向に向かうことを願っています。

ホンダF1 山本雅史マネージングディレクター

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