高まる保護意識 支援体制づくりへ官民連携カギ〈生きた化石の今 アマミノクロウサギと世界遺産⑤〉

手術を受けて療養中のアマミノクロウサギ=5月、奄美市名瀬のゆいの島どうぶつ病院

 奄美市名瀬の「ゆいの島どうぶつ病院」には、けがをしたアマミノクロウサギなどの野生動物が毎月のように運び込まれる。年に数匹だったクロウサギの搬送は今年2月だけで2匹に上った。環境省は「保護意識の高まりや個体数の回復が背景にある」と分析する。

 奄美大島でレントゲンやエコーを備える受け入れ病院は他になく、本業のペット診療の傍ら、同省の依頼により、手弁当で治療を引き受けている。それでもスペースやスタッフの数から、入院を伴うクロウサギの治療は2匹が限度だ。4月に3匹目の依頼があった際は断らざるを得なかった。

 同病院の佐藤花帆獣医師(28)は「傷ついた動物はできるだけ多く治療して元気になってもらいたいが、どうすることもできない」と話す。

 3月には預かっていたうちの1匹の手術が国内で初めて成功した。野生復帰を目指して、リハビリ機能がある平川動物公園(鹿児島市)に6月末に引き渡された。

■動物園も限界

 けがをしたクロウサギを引き受けてきた平川動物公園も限界に近い。

 受け入れ部屋は園内の動物が病気になったり、県内で鳥インフルエンザが発生したりした場合に備え、空き部屋を一定数確保していなければならない。6月末でクロウサギの受け入れは4匹に上り、余裕はほぼない状態となっている。

 福守朗園長(50)は「動物園はリハビリや生態解明のデータ蓄積の役割もあり、依頼があれば引き受けたい。しかし、今後も増え続けるなら、受け入れる施設が複数あった方が理想的」と話す。

■寄付金で運営

 保護体制が不十分な中、大和村が2024年度開設を目指すリハビリを兼ねた展示施設への期待は大きい。ただ、獣医師ら専門知識を持った人が常駐する計画はなく、島内の動物病院や平川動物公園の獣医師の協力を得て運営する方針だ。質の高いリハビリや飼育を担うには緊密な連携が欠かせない。

 「奄美・沖縄」の世界自然遺産登録後は観光客の増加が予想され、課題となっているクロウサギの交通事故も増える可能性がある。

 沖縄県うるま市では、地元獣医師らがNPO法人を立ち上げ、05年、固有種ヤンバルクイナの保護施設を開業した。運営の一部は島内外の企業や個人に募った寄付金で賄う。毎年500万円前後が集まっているという。

 理事長の長嶺隆獣医師(58)は「行政だけの支援ではなく、寄付という形で住民が希少種保護に参加できる仕組みが奄美にもあっていい。世界遺産登録を機に、保護活動に携わる人を官民で支える機運の醸成が一層必要になる」と指摘した。

(おわり)

「奄美・沖縄」の世界自然遺産候補地

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