話題の韓国映画『69歳』、人間の尊厳を描いた名作がついに日本上陸!

『69歳』おうちでCinem@rtにて配信中 ©2019 KIRIN PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED

韓国映画界では今、日本でも話題を呼んだ『はちどり』のキム・ボラをはじめ、『わたしたち』のユン・ガウン、『夏時間』のユン・ダンビら、多くの女性監督の活躍が目立っています。共通点は優れた作品性で高く評価されていること。そんな系譜に連なるのが、20年間映画界で活動した後、本作でデビューしたイム・ソネ監督です。映画『69歳』は脚本も手がけた監督が、2012年に実際に起きた高齢女性への性的暴行事件の記事を読んだことから生まれました。

 リハビリに通う病院で29歳の男性看護師から性的暴行を受けた69歳のヒョジョン。警察に通報するも、容易に信じてもらえず、同居人ドンインの協力で闘うことを決意。ヒョジョンは介護の仕事をしながら、身なりに気を遣い、水泳で鍛えたしゃんとした様子は、一見裕福な家の奥様のよう。知り合いの女性看護師からは「いつもおしゃれで介護人に見えない」と言われます。褒めたつもりの言葉に、二重三重の差別と偏見が感じられないでしょうか。高齢で何の後ろ盾もない女性は、この社会では最も弱い立場の存在なのです。

 実際の事件は被害者の自殺という悲しい結末を迎えましたが、サスペンスとしての面白さもある映画は、決して暗くはありません。ヒョジョンの毅然とした佇まいが清々しく、見ているうちに痛ましい思いは消え、ドンインがヒョジョンのために奔走する姿に温かな気持ちにさせられます。演じた名優イェ・スジョンは『82年生まれキム・ジヨン』では古い時代の女性の代表であるジヨンの祖母役でしたが、Netflixで配信され現在話題を呼んでいる「Mine」をはじめ、多くのドラマで様々な役柄を演じています。

 この作品は昨夏の韓国公開時、フェミニズム映画として不当に攻撃される目にも遭いましたが、2019年の第24回釜山国際映画祭では観客賞を受賞し、最終的に非常に高く評価されました。何より映画を見れば、人間の尊厳について考えさせる普遍的な内容だということが感じ取れるはずです。

『69歳』おうちでCinem@rtにて配信中 ©2019 KIRIN PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED

Text:小田香(ライター、編集者)

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