岩手大会準決勝、花巻東は水沢工に2-0で勝ち決勝進出
「すみません、22本でお願いします」
恐縮しながら、ちょっと照れくさそうに、花巻東の佐々木麟太郎内野手は言うのだ。今夏の岩手大会を彩っている1年生スラッガーは、7月17日の3回戦(花北青雲戦)で夏の大会での初本塁打をマーク。試合後の取材で高校通算本塁打を訊ねられると「18本目」と語っていた。
だが、実はその数字は違った。
佐々木自身もすっかり数え忘れていた練習試合での本塁打があったのだ。高校生になって初めての夏を夢中で駆け抜ける今の佐々木にしてみれば、通算本塁打はそれほど重要な要素ではないのかもしれない。
どの試合でも、どの打席でも「チームに貢献するバッティングがしたい」と言い続ける。ただ、それでも、だ。ふと足もとに視線を送り、現在地を見つめる佐々木は、ここまで積み重ねてきた本塁打の数を、あどけなさが残る16歳の素顔で「22本目」と言い改めた。
その一発が放たれたのは、岩手大会準決勝。初回一死で迎えた第1打席だ。この試合でも「2番」の打順を務める佐々木は、水沢工のエース右腕・山本陸駆投手(3年)の緩急をつけた投球にも動じず、3つのボール球を見極めた。
22本目のアーチに思い知らされた打撃技術と驚異的なスイングスピード
焦らない、冷静だ。1球挟んで、カウントは3ボール1ストライク。5球目は、高めに浮いた92キロのスローボールだった。183センチ、115キロの体が反応する。振り抜かれた打球は岩手県営野球場の夏空に溶け、あっという間に右翼席に吸い込まれた。緩いボールをスタンドまで運ぶには、確かなミートポイントでの強いスイングが必要だ。大会2本目にして高校通算22本目のアーチは、佐々木の打撃技術と驚異的なスイングスピードを改めて思い知らされるものだった。
「本日の試合は厳しい戦いになると思っていたので、まずは何とか先制点を挙げたいと思う中で1本が出て、流れを持ってくることができてよかったです。(相手投手は)変化球中心でありながら、真っすぐとの緩急をうまく使っていました。その中で、まずはしっかりとボールを引きつけ、強い打球を意識しました。下半身の力を意識して、強く振り切ることを心がけました」
手応えはなかった――。
その言葉が、左打席に立つ1年生スラッガーの底知れぬ力をより際立たせるのだ。佐々木のソロアーチで先制した花巻東は、決勝進出を決めた。甲子園まで、あと1勝。
「ホームランとか、そういう記録を狙うのではなく、チームに貢献する強い打球を、チームに流れを引き寄せる打撃をしたい」
自らのバッティングに徹してこそ、道は開ける――。佐々木はそう信じている。(佐々木亨 / Toru Sasaki)