東京オリパラは持続可能性の取り組みが不十分――WWFが調達結果の開示求める声明

Voyata (istock)

東京五輪開幕を直前に控え、WWFジャパンはこのほど、「未曾有のコロナ禍の中、開催にこぎつけた東京オリンピック・パラリンピック競技大会はSDGs時代の国際スポーツ大会に欠かせない『持続可能性』の取り組みが不十分だ」などとして、同大会組織委員会に対し、組織委自体が作成した、大会で使用する木材や紙、水産物、パーム油の個別の調達基準について、その調達結果を具体的な数値で開示するよう求める声明を発表した。WWFジャパンによると、それらの基準の課題について再三指摘したにもかかわらず、なんら向上されず、同大会の建築物のために調達された木材は、東南アジアの原産地において現地の人権や生物多様性が損なわれたとの訴えが相次いだほか、水産物に至っては資源管理の“計画”を策定するだけで実質的に調達が可能となるなど「大きな抜け穴が残されている」という。(廣末智子)

調達対象の全物品の生産地域と、認証製品の比率の開示を

声明の内容は、「組織委は大会後に調達結果の開示をすること。具体的には調達方針の対象となった全物品の生産地域と、各認証の内訳を含む認証製品の比率を開示すること」、「組織委の調達コードと、その運用実績に関する外部レビューを実施し、2021年12月31日までに大会後の報告書で公表すること」の二点を求めるもの。例えば認証水産物については「認証スキームごとの魚種および調達量」や、木材については「大会で調達された全物品の生産地域と、各認証の内訳を含む認証製品の比率の開示」などを求めている。

「多様性と調和」を基本理念とすることで知られる同大会は、SDGs達成への貢献の観点から、経済合理性のみならず、「持続可能性への配慮」を重視することも掲げている。この持続可能性のための基準作りは組織委において2016年から始まり、その準備や運営段階の調達プロセスにおいて、調達する物品やサービスに共通して適用する基準や運用方法を「持続可能性に配慮した調達コード」として策定。このうち木材と農産物、畜産物、水産物、紙、パーム油については個別基準が設けられ、これらの調達方針は今大会のみならず、レガシーとして、今後さまざまな国際イベントなどの環境配慮の一つの目安として活用していくことが見込まれている。

今大会に対し、WWFジャパンは2015年4月の段階で、「東京はロンドンを越えられるか〜より持続可能なオリンピックを目指して」と題したシンポジウムを開催し、環境負荷を最小限に抑えるマネジメントの仕組みと実践例を作り、再生可能エネルギーの最大限の活用や持続可能な調達方針の採用、生物多様性の保全を推進していくことなどを提言。それ以降、“地球1個分のオリンピック”を実現するよう提案するなど、同大会の持続可能性に関してさまざまなアプローチで要望を行い、策定された調達コードについても多くの課題があることを繰り返し同組織委に指摘してきた。

具体的には2019年5月に、水産物の調達コードについて、「エコラベルの認証などを取得した品でなくても『資源管理計画(漁業)』『漁場改善計画(養殖業)』が導入され、行政機関に確認されていれば良いとされており、生態系保全の視点が不十分である」点などを問題とし、漁獲対象や餌となる魚の資源状況や、製品から漁獲・養殖した生産現場まで追跡可能なトレーサビリティの有無などについて確認することなどを要望。

さらに大会の1年延期が決まった2020年5月には、同年4月30日に公表された「大会前報告書」の内容について、中でも「特に重大な欠陥が認められるもの」として、木材と紙、水産物、パーム油の個別調達基準を挙げた。木材と紙の調達コードに関しては、「第三者認証を取得していない木材や紙であっても事業者によるデューデリジェンスや外部監査が必須とされておらず、これでは自然林破壊や人権侵害のリスクを低減することは困難である」として改善の必要性を重ねて訴えていた。

施設に使用の熱帯材、先住民族の土地からも 守られなかったSDGs貢献の約束

WWFが組織委に対し、こうした調達基準の改善を要望してきた背景には、新国立競技場の屋根やひさしに国産材が使われる一方、土台のコンクリートを成形する型枠用合板などには東南アジアの熱帯雨林から伐採された木材が用いられ、その中にはボルネオ島北部マレーシア・サラワク州の先住民族の土地や、絶滅が危惧されているオランウータンの生息地も含まれることが環境NGOらの調査によって発覚したことが大きい。

2017年にはサラワクの先住民族の人々が「熱帯材の使用を直ちに中止してほしい」と声を上げ、世界中から集まった14万件以上の賛同署名がスイスとドイツの日本大使館に届けられた。2019年には国内外の環境NGO11団体が、「東京2020大会の施設建設によるインドネシアとマレーシアの熱帯林破壊が『2020年までに森林破壊ゼロ』を掲げるSDGsの目標達成を困難にしている」とする共同声明を発表。残念なことに、SDGsの達成に貢献するという東京2020大会の約束は持続可能でない熱帯林の調達によって、守られなかったという訳だ。

日本企業の国際競争力向上にも重要な「持続可能な調達」

また、WWFは、同大会の容器包装などの削減についても、本来最優先されるべき、廃棄物のリデュース(発生抑制)や、再使用(リユース)の取り組みがほとんど見られず、「再生利用(リサイクル)の推進に大きく偏っていることが問題であると再三指摘。今回の声明の中ではこれについて「海洋プラスチック汚染の根絶を目指すサーキュラーエコノミー(循環型経済)の模範事例となり得るかという点からも不十分である」と強調している。

一方、組織委は直近の7月8日に『持続可能性大会前報告書 追補版』を公表。持続可能性の取り組みについて、「一般の消費者にとって持続可能な消費活動や認証制度はまだなじみのないものです」としながらも、「少なくとも東京大会によって認知が進んだ」と報告した。

この報告書に対し、WWFは「持続可能性について認知が進んだというのであれば、どの程度各企業の取り組みが進み、またどの程度持続可能性を担保する認証取得が進んだのか」などと疑問を呈し、「持続可能性の取り組みは今や欧州を中心にビジネスの必然となっており、日本企業の国際競争力向上のためにこそ、持続可能な調達の取り組みを加速しなければならない。そのためにも東京大会が果たした役割を、大会後に数値を示して公開し、世界からの検証に応えてもらいたい」と主張。開催直前のタイミングでの今回の緊急声明につながった。

この間、同大会の持続可能な大会運営について一貫して訴えてきた、WWFジャパンの小西雅子・環境・エネルギー専門ディレクターは、「脱炭素の取り組みに関しては、省エネを旨とし、再生可能エネルギー100%の大会運営を果たすなど、過去のオリパラの中でも最も進んだ大会であると評価できる」とした上で、林産物や水産物の調達に関しては、「大きな課題を残した」と指摘。

「『これこそが持続可能な調達だ』ということを知らしめる絶好の機会であったが、国内企業にまだなじみがないという理由で、組織委は調達基準を担保する方法を緩めてしまった。この上は、東京2020大会の調達物について、生産地域や各認証の内訳など認証製品の比率のデータまで開示することが重要で、具体的にどのような施策を講じた結果、どのような成果が上がったのか、因果関係が分かるような形で報告し、それをレガシーとして次につなげるよう、締めくくっていただきたい」と話している。

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