伝説の「上野の413球」を本人に直撃… “由岐子魂”引き継ぐ大野&千賀の覚悟

侍ジャパン・大野雄大【写真:宮脇広久】

五輪開幕戦は1失点の快投、翌日も最終盤に追いつかれるも粘投

東京五輪へ向け、仙台市の楽天生命パーク宮城で強化合宿中(一般非公開)の野球日本代表「侍ジャパン」。21日には、全競技の先頭を切って開幕したソフトボールで、日本がオーストラリアに8-1の5回コールド勝ち、さらに翌22日のメキシコ戦にも勝利して侍たちにも刺激を与えた。際立ったのは、連投したエース上野由岐子投手の姿。そのソフト界のレジェンドと一緒に自主トレを行った経験があるソフトバンク・千賀滉大投手、中日・大野雄大投手は熱い思いを受け止める。

千賀はプロ1年目の2011年オフから、最近では巨人・菅野も師事するアスリートコンサルタントの鴻江寿治氏が、福岡・久留米市で開いているトレーニング合宿に毎年欠かさず参加。大野も2011年オフと2012年オフに入門。そこに上野の姿もあった。

上野は開幕戦で1回に内野安打、四球、死球で1死満塁のピンチを背負い、押し出し死球で先制点を許したものの、空振り三振と投ゴロで後続を断ち、結局4回1/3、2安打7奪三振1失点。勝利を呼び込んだ。

千賀は「東京五輪のスタートを飾るのにふさわしい人。その中でしっかり勝ってチームに勢いをつけ、改めて存在感が凄いと思いました」と感嘆。早速祝福のメッセージを送ったと言う。自国開催のオープニングを担う役割には、大変な重圧が伴うはずだが、千賀は「上野さんはそれを予測した上で、気持ちを整理してマウンドに立たれたと思う。普段からそういうことを考えながら生活されている方なので、迷いとかはなかったのではないかと、勝手ながら推察します。それくらいプロフェッショナルな方です」と絶賛する。

伝説の「上野の413球」を本人に直撃した大野雄大

一方、大野も「満塁のピンチにも、周りは全然心配していなかったと思う。上野さんなら乗り越えてくれると、守っている人もベンチも、僕のようにテレビで見ている人も、みんな安心していたのではないか。実際、しのぎ方もさすがやなと思いました」とうなずいた。

上野といえば、2008年北京五輪での「上野の413球」が伝説となっている。8月20日に準決勝・米国戦と決勝進出決定戦・オーストラリア戦に連投し、翌21日の決勝・米国戦も完投。2日間3試合の投球数が413に上り、日本代表を悲願の金メダル獲得に導いた。

大野は自主トレで上野と顔を合わせた際、「413球」について直接質問をぶつけたことがあると言う。「『私は体が張っている状態の方が調子がいい』と話されていました。その精神力に驚き、『体は気持ちで動くんやな』と感心したことを覚えています」と振り返る。

千賀は今年4月10日の試合中に左足首靭帯損傷の大怪我を負い、一時は五輪出場を絶望視されたが、どうにか“滑り込み”で間に合わせた。大野も今季は3勝7敗、防御率3.57で、沢村賞を初受賞した昨季ほどの勢いはない。2人とも普段はもちろん先発の柱だが、今大会は「投げる場所がどこであろうと、思い切り腕を振る準備をするだけ」(千賀)、「稲葉監督にも建山投手コーチにも、『どこでもやります』と伝えてあります」(大野)と慣れないリリーフも辞さない。

22日に39歳の誕生日を迎えた上野の奮闘ぶりを見せられれば、28歳の千賀はもちろん、32歳の大野も臆するわけにいかない。上野の精神力と驚異的なタフネスを見習い、言い訳なしで金メダル獲得の原動力となる覚悟だ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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