「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」五輪開会式ディレクターの小林賢太郎氏、芸人時代にホロコーストを笑いのネタに

By Kosuke Takahashi

東京五輪の開会まであと1日と迫る中、新たな問題が起きている。東京五輪開会式・閉会式のショーディレクターを務める小林賢太郎氏(48)がお笑いコンビ「ラーメンズ」時代に、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)をお笑いコントのネタにしていたことが分かった。動画がSNSなどでも拡散され、ネット上が騒然としている。

このコントは、1998年5月に発売されたVHS「ネタde笑辞典ライブ Vol.4」に収録されている。1970年4月から1990年3月まで放映されたNHKの人気教育番組「できるかな」をパロディにし、小林氏が「ノッポさん」に、相方の片桐仁氏(47)が「ゴン太くん」に扮している。

9分ほどのコントの中盤、番組企画案を話し合うという演出の中で2人が以下のように会話を交わすシーンが出てくる。

ゴン太くん:来週、何やるか、決めちゃおうね。何やる?

ノッポさん:ああ、じゃあ、トダさんがさ、ほらプロデューサーの。「作って楽しいものも良いけど、遊んで学べるものも作れ」って言っただろ。そこで考えたんだけど、野球やろうと思うんだ。いままでだったらね、新聞紙を丸めたバット。ところが今回はここにバットっていう字を書くんだ。

いままでだったら「ただ丸めた紙の球」。ここに球っていう字を書くの。

そしてスタンドを埋め尽くす観衆。これは人の形に切った紙とかでいいと思うんだけど、ここに人って字を書くんだ。つまり文字で構成された野球場を作るっていうのはどうだろう?

ゴン太くん:いいんじゃない。ちょっとやってみようか。ちょうどこういう人の形に切った紙がいっぱいあるから。

ノッポさん:本当?ああ、あの「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」やろうって言った時のな。

ゴン太くん:そう、そう、そう、そう、そう。トダさん、怒ってたなあ。

ノッポさん:「放送できるかっ!」ってな。

ホロコーストとは、ユダヤ人抹殺を計画していたヒトラーの下、第2次世界大戦中にナチスドイツとその協力者が欧州のユダヤ人に対して行った大量虐殺だ。600万人が犠牲になったと言われ、国際社会では国家を超えた人類の一大悲劇とみなされている。(ホロコーストについて詳しく知りたいのであれば、世界的ベストセラーの文学作品『アンネの日記』を読んだり、スティーヴン・スピルバーグ監督のアカデミー受賞作『シンドラーのリスト』を観たりすることを特に若者にお薦めしたい。)

そのユダヤ民族虐殺が笑いのネタにされたのにもかかわらず、このコントの会話の後には観客から笑いが起きている。人の形に切った紙がたくさんあるという会話の流れの中、ナチスによる「ユダヤ人大量惨殺」という言葉に「ごっこ」という接尾語を付けて遊戯にたとえてしてしまっている。人類の悲劇であるホロコーストが、まるで「鬼ごっこ」や「電車ごっこ」と同じような遊戯の言葉で呼ばれるなどもっての外だろう。発想自体がおかしくないだろうか。

●五輪憲章はあらゆる差別に反対

また、五輪憲章は、人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、 国あるいは社会的な出身、 財産、 出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別に反対している。

たとえ昔の芸人時代のコントの一場面であっても、ユダヤ人大虐殺を笑いのネタにするような人権感覚の持ち主が東京五輪の開会式・閉会式のショーディレクターを務めていることに世界はいったいどう思うだろうか。

広島や長崎について同じように言われた場合、日本人はいったいどのように思うだろうか。

●ホロコースト記念館

筆者は2013年冬に、イスラエルのエルサレム市内のホロコースト記念館「ヤド・バシェム」を訪れた。ユダヤ人迫害の歴史が紹介されていた。許しがたい迫害と殺戮の実態を目にし、しばらく心が立ち直れないほどだった。

イスラエルのエルサレム市内にあるホロコースト記念館(高橋浩祐撮影)

特にホロコーストの犠牲者を偲ぶ「名前の広間」(Hall of Names)では胸が詰まった。

ホロコーストの犠牲者を偲ぶホロコースト記念館「ヤド・バシェム」の「名前の空間」(高橋浩祐撮影)

記念館のすぐそばには、ヒトラーに追われた大勢のユダヤ人にビザを発給し、自らの命の危険を顧みずに救出した日本人外交官の杉原千畝氏の名前が記された木があった。小林氏が杉原氏のことをよく知っていたならば、ホロコーストをたとえコントの一場面でも笑いのネタにするようなこともきっとなかったのではないか。

イスラエルのエルサレム市内にあるホロコースト記念館(高橋浩祐撮影)

●海外メディアは「呪われた五輪」と揶揄

それにしても、次から次へとこのように東京五輪で問題が生じている理由は何か。海外メディアの中には「呪われた五輪」(Cursed Olympics)と揶揄して報じているところもある。

あらゆる差別を禁じるという五輪憲章の精神を軽視し、人選でも運営でも商業主義や興行を重視して突っ走ってきた面はないだろうか。

五輪開会式で楽曲を担当するミュージシャンの小山田圭吾氏(52)の辞任や東京オリンピック・パラリンピックの文化プログラムに出演する予定だった絵本作家、のぶみ氏(43)の出演辞退の事態に続き、開会式直前に政府や大会組織委員会などは小林氏の対応にも慌ただしく追われるだろう。

●米ユダヤ人権団体、小林氏を非難

米カリフォルニア州ロサンゼルスに本部を置くユダヤ系の国際的な人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(SWC)は21日、「反ユダヤ主義の発言」だとして小林氏を非難する声明を出した。

SWCのエイブラハム・クーパー副所長が声明の中で、「たとえどんなにクリエーティブであったとしても、ナチスに虐殺された犠牲者をあざける権利は誰も有していない。ナチス政権はまた、障がいを持つドイツ人を毒ガスで殺害した。この人物(=小林氏)が東京オリンピックに関わることは600万人のユダヤ人の記憶を侮辱し、パラリンピックをひどく愚弄するだろう」と非難した。

(Text by Takahashi Kosuke)無断転載禁止

© 高橋浩祐