再エネ目標10%積み増し、原発は温存ーー2030年の「エネルギー基本計画」実現に多くの課題 脱炭素特集

系統増強などを通じた風力の導入拡大も計画に含まれた (北海道・宗谷丘陵:gyro)

経済産業省は21日、国のエネルギー政策の基本方針を定める「エネルギー基本計画」の改定案を発表した。先日政府が発表した2030年度の温室効果ガス排出量を13年度比46%削減する目標に対して、電源構成がどう変わるか関心を集めていた。発表では、再生可能エネルギーの割合を「36%から38%」と、3年前に策定された「22%から24%」より10%以上引き上げた。一方で原子力による発電比率は20%から22%で据え置き、CO2を大量に排出する火力については今の計画の56%から41%と大きく減らす。この目標がこれまで足踏み状態が続いていた日本の再エネ比率を拡大させる起爆剤になるのか、また現在、発電量全体の6.2%しか占めていない原発を20%に留めることは現実的なのか、さまざまな課題もまた浮上している。(環境ライター 箕輪弥生)

再エネ拡大には系統整備、地域との共生など課題解決が前提

資源エネルギー庁 2021年7月21日「エネルギー基本計画(素案)」

現在、日本は発電の約75%を化石燃料に依存している。2030年まであと9年、13年度比で46%の温室効果ガスを削減するには、8割を占めるエネルギー分野の取り組みが不可欠だ。

日本の再エネの発電割合は最新の2019年のデータによると18.1%(内訳:水力7.8%、太陽光6.7%、バイオマス2.6%、風力0.7%、地熱0.3%)だ。ドイツの35.3%、デンマークの50%など欧州に比べると大きく下回る。しかし、現状の18%から38%に再エネを増やすというのもそう簡単なことではない。

日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也代表は「単純に今のまま増やせと言っても厳しい。系統の問題を解決したり、EVの蓄電池活用の促進化、DR(デマンドレスポンス)の拡大など、調整力やいわゆる柔軟性を拡大することが重要」と話す。また、「そういった施策を動員すれば再エネ5割も可能なはずだ」と予測する。

太陽光や風力発電の急速な拡大では、適地が少なくなっていると同時に自然環境を損なうと懸念する地域住民とのトラブルも各地で起きているのも事実だ。

岡田久典・早稲田大学上級研究員(地域・環境・エネルギー論)は「私のところには毎月のように、再生可能エネルギーの“乱開発”に苦しんだり、脅威を感じている地域からの相談がくる。単なる数字あわせに終始していると必ず、地域住民の大きな反発を受けるだろう」と忠告する。

政府の計画にも「地域と共生する形での適地確保」が明記されているが、地域の理解を得て、再エネ導入に伴う利益が地域に循環するような仕組みづくりが重要だ。

エネルギーだけでなく、熱利用、交通、建物の脱炭素も

原発の「20%から22%」実現も現状から考えると大きな乖離がある。現在、多くの原発は止まったままで、発電量全体に占めるのは6.2%のみだ。目標を達成するためには、原子力規制委員会に審査を求めている27基すべてを動かし、稼働率を大きく高め、多くの原発を40年を超えて運転する必要がある。

しかし、それでも今回の発表について再エネ新電力のグリーンピープルズパワー(東京・新宿)の竹村英明代表は「電力会社や経済界などから要望が出ていた原発の新増設・リプレイス(建て替え)が基本計画に書き込まれなかったことだけでも進歩と受け止めたい」と評価する。

竹村代表は「電源構成案は30年46%削減に辻褄を合わせるように積み上げただけとも見えるが、それを実行に移すように市民側が厳しく求めていくことがこれから必要だ」と話す。

一方、電源構成について注目が集まるエネルギー基本計画だが、脱炭素化を進めるにはそれだけでは不十分だというのが岡田上級研究員だ。

「脱炭素は、電力分野だけを見ていても進まない。実は電力分野以上に削減しなければいけないのが炭素量の多い熱利用、交通の分野だ」と指摘する。

ドイツやデンマークなど欧州では、電力部門を交通部門や産業部門、熱部門など他の消費分野と連携させる「セクターカップリング」が進む。電気自動車の導入だけでなく、再エネを利用した充電ステーションの整備、あるいは熱供給の電気化、余剰電力の水素変換など、社会全体のインフラを含めた脱炭素改革である。

もちろん電力使用量そのものを削減することも必要だ。中でも北村代表は「建築物の断熱性能を大きく高める必要がある」と強調する。EUが進める気候中立政策「EUグリーンディール」でも、建築物はエネルギー消費の4割を占めているとして、建物のエネルギー効率を上げることが2030年の中間目標の達成には欠かせないとしている。

いずれにしても、エネルギー基本計画の表面的な数字だけにとらわれるのではなく、さまざまな技術を使って国内の資源を最大限に活用し、脱炭素化を図っていくにはどうしたらいいのか、さらなる議論が求められる。

経済産業省は、この素案をもとに議論を深め、10月にも閣議決定することを目指している。政府が“野心的”と表現する目標達成のためには「今後、エネルギー分野の専門家だけではなく、社会のあらゆるステークホルダーによる十分な検討が求められることになるだろう」(岡田上級研究員)。

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