TikTokで話題曲、シャングリラスの誕生秘話とビリー・ジョエル

Photo: Michael Ochs Archives/Getty Images

この1年間にTikTokを利用したことがある方なら誰しも、早回しした「Whatever happened to / The boy that I once knew?」という歌声の後に、愉快な珍事件が起こる動画を目にしたことがあるだろう。

ラッパーのKreepaによる「Oh No」やカポーン・アンド・ノリエガのカポーンまで、様々なアーティストたちによってサンプリングされているこの曲のオリジナル音源は、1964年に結成されたガールズ・グループ、シャングリラス(The Shangri-Las)の名曲「Remember (Walking In The Sand)」だ。それではこの楽曲の誕生秘話をご紹介しよう。

シャングリラスといえば、轟くバイクのエンジン音が印象的な全米No.1ヒット曲「Leader Of The Pack」で最も知られているが、彼女たちの楽曲は、不運なバイク乗りのボーイフレンドから煮え切らない恋人たちまで、ティーンのメロドラマを象徴するものが多く、新しい世代に受け入れられているのも納得がいく。

当時の多くのガールズ・グループがそうであったように、NYクイーン出身のベティとメアリーのウェイス姉妹、メリーアンとマージのガンザー姉妹の4人によって結成されたシャングリラスもまた、メンバー全員が高校に通う10代の若者だった。彼女たちが一夜にしてスターダムへとのし上ったのは、ソングライター兼プロデューサーのジョージ・フランシス・“シャドウ”・モートンに依るところが大きい。彼は、マンハッタンにあるかの有名なブリル・ビルディングの廊下を隠れ家としていたことから、そのニックネームが付けられた。

実はこのヒット曲「Remember (Walking In The Sand) 」は、シャドウ・モートンがソングライターのエリー・グリニッジと面会した際に、彼女の夫で共作者のジェフ・バリーに挑発されて書いた曲だったという。シャドウ・モートンは、ヴァニティ・フェア誌のインタビューの中で、当時のジェフ・バリーとの対話を次のように振り返っている。

「“あなたはどうやって生計を立てているのですか?”とジェフ・バリーに訊かれたので、“あなたと同じソングライターです”と私は答えました。“どんな曲を?”と再び尋ねられ、“ヒット曲”と答えると、“それなら僕にも仕事を持ってきてくれたらいいのに”と彼が言ったんです。そんなことから、必死で電話をかけ回った私は、ようやく一緒にレコーディングしてくれるというクイーンズ出身の女の子たちを見つけました。ただ問題は、当時は“ヒット曲”をひとつも持っていなかったので、レコーディング・セッションへ向かう道中で1曲書き終えました」

そうして出来上がったこの曲のピアノ・パートの演奏者を探していたシャドウ・モートンは、その日たまたまブリル・ビルディングに居合わた当時15歳の若者に声を掛けたのだが、その人物こそが、後にピアノマンとして知られることになるビリー・ジョエルだった。ビリーは、2005年のローリング・ストーン誌のインタビューで当時の出来事をこう語っていた。

「シャドウ・モートンとのセッションでは、‘Remember (Walkin’ in the Sand)’と‘Leader of the Pack’を演奏しました。シャングリラスの収録前にそのレコーディングをしたんです。あれは確かに私のピアノでした。エリー・グリニッジ(この曲の共同作曲者)のインタビューを読みましたが、彼女は(あの演奏が)私ではないと言っていました。まぁ、ギャラはもらっていなかったので、どうでもいいことなんですけどね」

結果、シャドウ・モートンはこの曲で全米シングル・チャート5位を記録し、一躍ヒット・メイカーとして名乗りをあげた。以降、半世紀もの間、エアロスミスによるカヴァーや無数の楽曲でサンプリングされてきたこの名曲は、シャングリラスによる不朽のアンセムとして生き続けている。

Written By Sam Armstrong

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