<社説>コロナ下の五輪開幕 一人一人の命を最優先に

 新型コロナウイルスが世界的に大流行し、緊急事態宣言下の東京で23日、五輪が開幕する。しかし、開会式前日に演出の統括役が解任される異常事態になっている。 東京の22日の新規感染者数は2千人に迫る。まずは世界中から集まった選手や関係者、そして国民一人一人の命を守ることを最優先に大会を運営してもらいたい。

 史上初の1年延期の末、ほとんどの競技が、ほぼ無観客となった。東京五輪には約200の国・地域から1万1千人あまりが参加する。積み重ねてきた成果を大舞台で存分に発揮し、世界中に「スポーツの力」を発信してほしい。

 日本選手は600人近くに上る。県勢は今大会初採用の空手男子形の喜友名諒選手をはじめ、過去最多の10人が出場する。親が県出身など沖縄にゆかりのある選手もいる。大いに活躍を期待したい。

 だが「安心、安全」な大会は可能なのか大いに疑問だ。新型コロナウイルスは感染力の強いデルタ株に置き換わり、感染拡大が収束していない。選手と関係者をバブル(泡)で包むような安全対策は、既にほころびが出ている。

 東京の22日の感染者数は1979人。五輪開催中に7日間平均で1日当たり約2600人に上るという試算が出ている。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は20日、報道番組で、東京都の1日の新規感染者数が8月第1週に過去最多の3千人近くまで増加するとの見通しを示した。

 五輪期間中に、都内で病床使用率がステージ4(爆発的感染拡大)の目安となる50%を超え、医療の逼(ひっ)迫(ぱく)が懸念される。

 入院すべき患者が入院できず必要な医療が受けられない状態に陥れば、国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会は大会期間中であっても重大な決断を下さなければならない。

 五輪が国民の感染拡大に拍車を掛けるようなことがあってはならないからだ。その見極めが厳しく問われる。

 政府の新型コロナ対応を巡り開催の賛否が分かれた。「復興」やコロナに「打ち勝った証し」という意義付けは空虚に響き「開催する」ことだけが目的となった感がある。

 オリンピックの精神は「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治」など、いかなる種類の差別も受けないことである。しかし、女性を蔑視するような発言で組織委員会の森喜朗会長が辞任した。さらに五輪が掲げる「平和」や「人権」に反する事態が開幕直前に噴出している。

 開閉会式の制作、演出担当の小林賢太郎氏が過去にホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)に触れたコントを発表していたことが批判され解任。楽曲を手掛けた小山田圭吾氏も過去のいじめ告白で辞任した。

 東京五輪が、五輪本来の理念や目的とは何かを見つめ直す機会になってほしい。

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