ボルト氏、陸上男子100mで日本選手の活躍予言 「1人か2人は決勝に」次世代スター誕生も

2008年北京五輪の陸上男子100メートル決勝を世界新記録(当時)でゴールするウサイン・ボルト氏(共同)

 陸上男子短距離の元スーパースターで2017年に引退した「人類最速の男」ウサイン・ボルト氏(34)=ジャマイカ=が共同通信のインタビューに応じ、花形種目の100メートルで9秒95の日本記録を持つ山県亮太(セイコー)や多田修平(住友電工)ら日本選手の成長を高く評価した上で、東京五輪で「1人か2人は決勝に進めると希望を持っている」と期待した。実現すれば、1932年ロサンゼルス大会で6位入賞を果たし「暁の超特急」と称された吉岡隆徳以来、89年ぶりの快挙となる。

 100メートルと200メートルの世界記録を持ち、五輪3大会連続で短距離個人種目2冠を達成した「五輪の顔」は「新型コロナウイルス禍でこれまでと異なる雰囲気の大会になるが、ハイレベルな素晴らしい大会になると楽しみにしている。日本のアスリートは競技に集中し、経験を楽しむことだ」とアドバイス。「五輪は世界に選手の才能を証明し、その存在をアピールするチャンスを与えてくれる祭典。私は引退したが、2021年の次世代スターが誕生するだろう」と予想し、候補の一人に9秒77の今季世界最高をマークしているトレイボン・ブロメル(米国)を挙げた。(共同通信=田村崇仁)

記者会見で笑顔を見せるウサイン・ボルト氏=2017年8月、ロンドン(共同)

 ▽日本のリレー、バトンパスの精密さに太鼓判

 引退したボルト氏にとって初めて競技場の外から見る夏季五輪は「奇妙な感じ」があるようだ。今回はコロナ禍のため来日を見送り、テレビで観戦する予定という。

 陸上男子400メートルリレーでは2016年リオデジャネイロ五輪金メダルのジャマイカに次いで「銀」だった日本の強さの秘けつを「バトンパスの精密さにある」と太鼓判。「あの技術は簡単にまねできない。驚くほど訓練されている」と改めて称賛した。

 6月には双子の男の子が誕生したと発表し、親としての自覚もさらに増したようで、同世代のママさんスプリンター、女子100メートルのシェリーアン・フレーザープライス(ジャマイカ)や通算6個の五輪金メダルを獲得している35歳のアリソン・フェリックス(米国)らの活躍にも大きな期待を寄せている。

2009年8月、世界陸上男子100メートルで、9秒58の世界新記録を樹立し喜ぶウサイン・ボルト氏=ベルリン(ゲッティ=共同)

 ▽「見る五輪」でスケボーや体操など楽しみ

 史上最多となる33競技が実施される東京五輪は「特に開催国に人気の新競技が加わる新たな試みが良いことだ。自分にとって常に陸上が一番のスポーツだが、他の競技も楽しみたい」と語る。特に注目する競技は「今まで五輪で見る機会がなかったスポーツ」とし、追加競技で初登場するスケートボードのほか、体操、フェンシング、バスケットボール、プロ選手への転向も一時夢見たサッカーを挙げた。

米マイアミでNBAの試合を観戦するウサイン・ボルト氏(中央)(AP=共同)

 ▽「生きる伝説」、世界記録は破られない?

 「世界を射止める」という願いも込めた弓矢を射るポーズと陽気な人柄で「生きる伝説」となったボルト氏。最初に衝撃を与えたのは2008年北京五輪だった。並み居るライバルを子ども扱いし、最後は横を向きながら胸をたたいて9秒69の世界新記録を出した走りは今も語り草だ。

 12年ロンドン五輪では、大会前に先天的な脊椎側湾症の影響で不振もささやかれたが、五輪新記録の9秒63。集大成の16年リオデジャネイロ五輪でも圧倒的な勝負強さを見せた。世界陸連のセバスチャン・コー会長はボルト氏を「唯一無二の存在」とたたえた。

 異例の無観客開催でも「五輪がアスリートにとって才能を証明する最高の機会であることに変わりはない」とボルト氏は強調。東京五輪で自身の100メートルで9秒58、200メートルで19秒19の世界記録が破られる可能性を問うと「まだまだ自信がある」と笑った。

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 ウサイン・ボルト氏(ジャマイカ)陸上短距離の元スター選手。子どもの頃はクリケットに取り組み、才能を見いだされて陸上に専念。2009年世界選手権の100メートルで9秒58、200メートルで19秒19の世界記録を樹立した。五輪は200メートルで04年アテネ大会に初出場し、08年北京大会から16年リオデジャネイロ大会まで3大会連続で100メートルと200メートルの両種目制覇。世界選手権は17年大会で100メートル3連覇を逃し、400メートルリレーでは脚を痛めて途中棄権に終わり引退した。195センチ、94キロ。34歳。

国際陸連の2016年男子最優秀選手に選ばれたウサイン・ボルト氏=2016年12月、モナコ(ロイター=共同)

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