不整脈入院が招いた負の連鎖 元開幕投手が素直に認める欠点「メンタルよえーな」

中日・笠原祥太郎【写真:荒川祐史】

プロ5年目の中日・笠原祥太郎、今季はOP戦大炎上で2軍スタート

再起するはずのシーズンは、開幕前にめいっぱい転んだ。オープン戦初戦となった3月2日のソフトバンク戦(PayPayドーム)。先発した中日の笠原祥太郎投手は、2回もたず4安打5四死球で6失点を喫した。初回、先頭の周東に1球目を中前にはじき返され「動揺した部分があって、ズルズルと……」。避けては通れない課題が、ありありと露見した瞬間でもあった。【小西亮】

強がることも、取り繕うこともなく、素直に認める。

「メンタルよえーなって。そこがコントロールを乱しているんだと思います。ボールが先行したり、ピンチを迎えると『やばい、やばい』と思ってしまう」

2月のキャンプは1軍に抜擢されたが、福岡での大炎上で早々に脱落。2軍戦でも、好投を続けた時もあれば、一転して大量失点する試合も。「自分有利にいけている時は簡単にポンポンと抑えられるんですが」。うまく心を保てない現状に、他人は「プロのくせに」と思うかもしれない。

2016年のドラフト4位で、新潟医療福祉大から入団。高校時代は“完全無印”だった左腕は、プロ2年目の2018年に台頭した。夏場以降に自身5連勝を飾るなど6勝4敗。シーズン後に日本で開催された「日米野球」で、初めて日の丸も背負った。自信は好循環を生み、初の開幕投手を任された2019年。4月まで無傷の2勝で上々な滑り出しだったが、突如として局面が変わった。

大学時代から自覚症状のあった不整脈の治療で入院。自身は軽い持病だと気に留めていなかったが、危険な症状の可能性も疑われ、球団の勧めに従った。セカンドオピニオンも踏まえ、比較的軽い「発作性上室性頻拍」だと分かって一安心したのと同時に、焦りが増幅した。

募る焦り「元気な姿を見せたら、計画を早めてくれるかな」

「復帰してからちょっとずつ投げていこうとは思ったんですが、肩肘が元気だった分、ガンガン投げていたら肘の感覚がおかしくなっちゃって。元気な姿を見せたら、トレーナーも計画を早めてくれるかなと思っていました」

状態が万全でない中、1軍に再昇格したのが7月。開幕戦と同じ横浜スタジアムでのDeNA戦に先発したが、4回8安打5失点で黒星を喫した。その年は8試合登板にとどまり、3勝2敗で防御率5.71。「どんどん自信がなくなっちゃって。いい時との差がすごい」。突入した負のスパイラルから、抜け出せない。コロナ禍の2020年は夏場に右脇腹を故障したのもあり、1軍登板なしに終わった。

気がつけば、2019年8月から2年近く1軍から遠ざかっている。大卒のプロ5年目。誰かに言われなくても、今季終了後に待っていそうな現実は想像できる。だからこそ、とことん“弱い自分”と付き合い、克服のきっかけを模索する。グラウンドにいない時は、メンタルトレーニングの本を熟読。周囲からの助言も聞き入れる。

「ダメな時は、悪い流れに吸い込まれていってるよ。リセットする時間を作ってみてもいいんじゃないか?」

そう諭してくれたのは、浅尾拓也2軍投手コーチ。極限のマウンドを重ね、中日の黄金期を支えた絶対的セットアッパーの言葉は、説得力を持って響いてくる。ほんの些細なことでも、視点は変わる。ピンチを迎えた時、一度マウンドから降りて深呼吸をしてみるのもいい。基本中の基本だとしても、できることからひとつずつ積み重ねていく。

1軍先発陣の状況を気にするよりも、まずは2軍で自信を取り戻す。「もう、ポジティブに考えていくしかないですよね」。反攻のシーズンは、まだ半分残っている。(小西亮 / Ryo Konishi)

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