黒崎博監督「普遍的な視点で物語を作りたいと思った」 「映画 太陽の子」トークイベント

日本の原爆開発を背景に3人の若者の青春を描く「映画 太陽の子」が、8月6日に劇場公開される。公開を前に、上智大学英語学科主催によるオンライントークイベントが7月10日と17日に開催された。7月10日のトークイベントでは、本作品を手掛けた黒崎博監督、廣田秀孝氏(歴史学者/上智大学英語学科准教授)、ジョン・ウィリアムズ氏(映画監督/上智大学英語学科教授)が参加。日本の原爆研究という、今まで知られてこなかった事実をもとにした本作品について語った。

“日本の原爆研究”という事実への理解を深めていった方法について聞かれた黒崎監督は、「当時在籍していた人たちはほとんど亡くなっていたが、一番若手の研究者を知ることができて、手紙を書いた。手紙の相手は亡くなってしまっており、未開封の手紙が残っていたのを発見して、親族が連絡をしてくれた。会いに行ったところ、実験ノートやメモ、戦後に回想して書いた文章をいくつか見せてもらうことができた。(亡くなった研究者は)戦後2年ほど高校の教師をして、その後は、晩年まで物理学者として生きたということで、そのことを参考にして主人公の姿を作っていった」と、調査の苦労の一端に触れた。

日本軍が新型爆弾のアイデアに着目し、京都帝国大学がその任務を受けることになった歴史的背景について黒崎監督は、「大事なのは、最初から原爆を作ろうと思って研究していたということではない、ということ」と語り、核分裂の発見に世界中の科学者が着目していたが、第二次世界大戦によって科学者のネットワークが遮断されてしまっていた状況を説明。そして、「核分裂の研究という純粋は物理学の研究だったものが、兵器開発の研究にすり替わってしまうというショッキングな出来事だった」と、当時の学生たち気持ちに思いを寄せながら話した。

また、「研究室の学生たちの、大量破壊兵器を作ることや、科学や戦争、政治的なことへの意見や考えが、変わっていったことはあったのか?」という問いについて黒崎監督は、「一番センシティブで、難しいことだと思う。フィクションの中での、戦争の描き方は難しい。日本の中では、特に原爆については犠牲者側に立っている物語が多いが、それだけでは戦争の実態は描き切れないだろうと、いう思いがあった。誰でも加害者にも被害者にもなる可能性がある、普遍的な視点で物語を作りたいと思っていた」と、戦争映画の描き方への挑戦でもあったことを明かした。

そして、「当時の学生や若い研究者たちが、殺戮兵器を作ることについて、どのような議論をしたかは、記録が残っていないため分からない。戦後は、『科学が加担することには反対する』と言えるけれど、当時(戦争中)は、戦争に協力することは正義だ、という考えも当然あっただろうとも思うし、判断するのは難しく、どちらの視点も持っていたと思うので、それを映画の中に織り込んだ。」と、研究者たちの思いを探りながら作っていったことを語った。

17日のイベントでは、本作品のプロデューサーを務めた森コウ氏とジョン・ウィリアムズ氏が登場し、「映画 太陽の子」や、日本の映画産業の行く末などについてトークが展開された。

「映画 太陽の子」は、太平洋戦争末期に海軍からの密命を受けた京都帝国大学・物理学研究室による、「F研究」と呼ばれる新型爆弾開発の事実を基に作られたフィクション作品。時代に翻弄され、それぞれの葛藤や思いを抱えながら、全力で生きた若者たちの、等身大の姿が描かれる。2020年にNHKで放送されたテレビドラマとは異なる視点と結末が加わっている。極秘任務に携わる科学者・修を柳楽優弥、修と弟がほのかな思いを寄せる幼なじみの世津を有村架純、修の弟で戦地で心に傷を負った軍人・裕之を三浦春馬が演じている。

【作品情報】
映画 太陽の子
2021年8月6日(金)公開
配給:イオンエンターテイメント
©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

© 合同会社シングルライン