会話できぬうるささ、1日に260回

心臓刺す戦闘機の音、宮崎・新田原基地

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航空自衛隊新田原基地=6月、宮崎県新富町

 バリバリバリ―。心臓を刺すような戦闘機の音が空を引き裂いた。航空自衛隊新田原基地(宮崎県新富町)から約2キロ。64歳の農業浜砂金松(はますな・きんまつ)さんはビニールハウスの天井をうんざりと見上げた。会話ができないほどのうるささは1日260回を超えることも。騒音がやむ平日はない。

 基地周辺の住民178人が騒音被害を訴えた訴訟の判決で、宮崎地裁は6月28日、国に損害賠償を命じた。一方で、飛行差し止めは認めなかった。「ほんの1時間でも、30分でもいいから差し止めてほしかった」。騒音被害との共存を強いられ続ける住民の思いを追った。(共同通信=杉山麻子)

 ▽知られぬ被害

 自宅近くのビニールハウスで、浜砂さんはラジオを聞くのにいつもヘッドホンを使う。それでも、戦闘機の音にたやすくかき消されてしまう。朝7時からエンジン音が真横で鳴っているかのようだ。日中は、航空機が真上を飛ぶ音と、基地で離着陸を繰り返す音に挟まれる。30分以上会話ができないこともしょっちゅうだ。

休憩中も「爆音で心が休まらない」と話す浜砂さん

 夜間飛行がある日は食欲が湧かず、食事は飛行後の午後9時ごろから。いらいらし、頭痛薬は手放せない。これまでに3度墜落事故を目撃したという。「またいずれ落ちる。そういう危険と隣り合わせだ」

 騒音は年々ひどくなるが、県内でもあまり知られていなかった。新富町に隣接する宮崎市内の知人は「旅客機みたいな感じでしょう。うるさいはずがない」と不思議そうに話した。

 ▽爆音カレンダー

 まず、現状を一人でも多くの人に知ってもらいたい―。そのために取り組んだことの一つが「爆音カレンダー」だ。10カ月間、毎日朝から晩まで計数機を首にぶら下げ、会話ができない騒音の回数をカウントしては、カレンダーに書き込んだ。「こんなに騒音がしているとは思わなかった」と他の原告に驚かれた。

計数機を持つ浜砂さん

 全国で基地爆音訴訟に関わる弁護士は「自衛隊は米軍ほどひどいことはしないだろうと思っていたが、被害は嘉手納(米軍基地、沖縄県嘉手納町など)と遜色ない。長年、新田原のことを知らず、恥ずかしい」とわびた。カレンダーは訴訟で、原告側の重要な証拠になった。

 判決当日、浜砂さんは傍聴席で言い渡しを聞いた。「W値80は8千円」。国に対し、うるささ指数80の地域の住民に、月8千円を賠償するよう命じるという意味だ。騒音の違法性が認められるかずっと不安だっただけに、安堵した部分もあったという。

 ▽今こそ声を

 新富町の人口約1万6千人に対し、新田原基地の隊員は約1600人。町内には、基地関連の仕事で生計を立てる人も多い。基地反対の声は上げづらい雰囲気だった。1975年提訴の小松基地(石川県)を皮切りに、全国で騒音訴訟が起こされてきたが、新田原の提訴は最後発の2017年だ。

毎月開催してきた原告役員会議=6月5日

 国を相手に裁判で勝てるわけがないという冷たい声を浴びせられ、嫌がらせも受けた。それでも「今、声を上げ続けることが大事だ」と浜砂さんは思う。基地が拡大することへの不安からだ。今後、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の一部機能が新田原に移され、弾薬庫や駐機場が設けられる見通しだ。最新鋭ステルス戦闘機F35Bの有力な配備先候補地でもある。

 「基地との共存を」。地元でよく使われるフレーズに、浜砂さんは首をかしげる。「せめて私たちの声を聞いてほしい。でないと、共存とは言えないのではないか」。基地がなくなれとまでは言わない。国防目的も理解する。ただ、せめて早朝や夜間だけでも飛行をやめられないのか。

新田原基地の様子を見る浜砂さん

 浜砂さんたちが求めるのは、自宅で静かに暮らすという人として当たり前の生活。「損害賠償が認められても、騒音被害は変わらない。差し止めを目指して、体が元気なうちは闘い続ける」。そう誓う浜砂さんの声は力強い。