「細かすぎる夏競馬パドック攻略法」を中村均氏が伝授 獣医学的な視点からチェック

今週から開催する新潟競馬場のパドック。中村攻略法の実践の場だ

今週から中央競馬は新潟開催がスタート。本格的な夏競馬へと突入する。しかし混沌としたメンバー、条件、天候…夏競馬はとにかく難しい。ただ、この難解な夏に儲けてこそ真の馬券巧者だ。そこで東スポ専属競馬評論家の中村均氏の出番だ。獣医学的な視点から捉えたGⅠ週の馬体評定が好評を得ている智将が、調子の良しあしが重要となるサマーシーズン・パドックでのディテールに迫るチェックポイントをズラリと並べてくれた。その対象は目、口、鼻。そしてウ〇コまで…。題して「ドクター中村の細かすぎる夏パドック攻略法」。これで今週のアイビスSD(25日)はもちろん、難解な夏重賞の大当たりをゲットだぜ!

夏競馬は「格より調子」。まさにその通りです。私も現役時代に経験しましたが、当日の装鞍所などで猛暑によって急に体調を崩すことが少なくありません。こんなとき、フアンはパドックで体調を見抜くしかありません。だからこそ、夏競馬のパドックは“ディテールにこだわって徹底的に調子を見抜け!”ということです。テレビ、ネットなどのリモート観戦でもしっかり目をこらしてチェックすれば、細かい部分の違いも見えてくるはずです。さあ、各項目に分けて重要ポイントを挙げていきましょう。

【序章・身体全体】
調子のいい馬はパドックで一歩一歩しっかり歩き、力強い。適度にハミをかみ、あまりわき目も振らず、厩務員を引き手で引っ張るように周回しています。チャカチャカしている馬はイレ込みが、だらだら歩いている馬には疲れがたまっている怖れがあり、それぞれ注意が必要です。暑いので発汗は当然ですが、水道の蛇口を開いたように腹下からしたたる汗や、泡を吹いたような汗はかなり暑さを感じている証拠。レースに悪影響が出ます。それ以上に注意が必要なのは全然汗をかいていない馬。体温調節が崩れた夏負けの兆候かもしれません。

【目編】
「目は口ほどに物を言う」とよく言われますが、それはサラブレッドも同じです。しっかりと大きく見開き、前を見据え澄んだ目をしているのがベスト。集中力のないような、キョロキョロした落ち着きのない目はイレ込み加減であることが多いです。まぶたが重そうで、トローンとして、しっかり見開いていない目は暑さに負け気味で疲れている可能性があります。そして最も怖いのは飛んでいるような目、焦点がどこに定まっているのか分からない目です。テンションが上がっていて、次にどんな行動を取るか想像できない恐ろしい場合が多いですね。また、気の悪い馬もこの目をするので注意が必要です。

【口編】
閉じていて、適度な強さでハミをかみ、泡やよだれを出していないかどうかを確認してください。だらしなく口が半開きしているのは疲れや、ヤル気のない証拠です。大きくあくびをする馬もいますが、これは眠いばかりではなく、落ち着いているとも言えます。一概に悪いアクションとは言えません。

【鼻編】
鼻口から鼻汁を多く出している馬はやや夏風邪気味のことが多いですね。鼻をぷかぷか開いたり(鼻翼開張)、呼吸が荒いのはイレ込んだり、バテ気味でしんどそうな表情と見ていいでしょう。鼻翼の動きまでになると、モニター観戦ではっきり確認することは難しいでしょうが…。こういう兆候に似たものが散見されるようならちょっと注意したほうがいいです。

【耳編】
耳にもいろいろな動きや、そこから推測できるデキというものがあります。目同様、周りの環境を馬が把握するための大事な器官ですから、その動きで、調子を読み取ることができるのです。音や気配に耳が機敏に動くことはいいのですが、異常に反応するようではイレ込みの危険も。要注意なのはどんな音や気配にも無反応な耳。疲れや夏バテの気配ありです。

【前肢&後肢編】
前肢は肩とともにしっかり前に出て一歩一歩力強く地面を踏みしめる動きが理想的です。後肢も同様、しっかり前に深く踏み込み、かつ力強く後ろに伸ばせているかどうかに注目してください。分かりやすい例が今月の「七夕賞」で1、2着したトーラスジェミニとロザムール。どちらも他馬と比べ、明確なまでに深く力強く歩いていました。

【馬糞編】
全馬がパドックで馬糞をするわけではないですが、糞をした時は注意深く見てください。1回10個前後の丸い塊を出し、地面に落ちた時にその1個が2つに割れる硬さ。これが正常なときの糞です。ただ、パドックで馬は興奮気味なことが多いですので、形のない柔らかい糞を少量出す時も多い。このケースはさほど気にすることはないのですが…。下痢のように、あまり何度も出す場合は精神的に高ぶっている時が多く、要注意です。

以上、夏パドックのチェックポイントを記しました。パドック同様、調子の良しあしを見抜くには返し馬のチェックも欠かせず、夏バテ気味の馬はジョッキーが促さなければキャンターに移りにくいなど、キーポイントはいくつかあります。返し馬診断はパドック以上に熟練の“腕”が必要。とてもここでは書き切れませんので、またの機会といたしましょう。

☆なかむら・ひとし 1948年9月13日生まれ、京都府出身。麻布大学獣医学部卒業後、71年に父親の中村覚之助厩舎の厩務員となる。77年に28歳の若さで調教師免許を取得、厩舎開業後はトウカイローマン(84年オークス)、マイネルマックス(96年朝日杯3歳S)、ビートブラック(2012年天皇賞・春)でGⅠ制覇を達成。また04年から10年まで日本調教師会の会長を務める。20年には文部科学省からプロスポーツの発展に貢献したとして「スポーツ功労者」顕彰、政府から「旭日小綬章」受章。好きな戦国武将は石田三成。

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