井澤詩織(声優)- 「EDENS ZERO」純粋さを大事に

感じたままに可愛く

──ピーノは作中で一番成長しているキャラクターなので、個人的に裏主人公じゃないかと思っています。

井澤(詩織):ありがとうございます。確かに、伸びしろがあります。

──アニメ第11話のB・キューバ―を助けるシーンなどは「それは非効率的です。」というアンドロイド的な効率重視の考えでしたが、物語が進んで行くなかで学んでいって感情が豊かになっていく姿は観ていて楽しいです。そういう精神面では一番変化をしていくキャラクターだと思いますが、その成長をどうとらえて演じられているのでしょうか。

井澤:『EDENS ZERO』はアンドロイドの定義が特殊で、「アンドロイドやロボットにも心はある。」とシキが何度も言っているように実際に自分で考えて行動するというのがあるので、完全に無機質ではないと感じています。でも、人間が感じるほど細かい感情は解っていない、そういう形で演じさせていただいています。現場でも基本的には私の思うようにやらせていただいて。おっしゃっていただいたシーンを最初は突然バッサリ切り捨てるみたいな「何でですか。」みたいな感じで演じたんです。

──無機質な感じという事ですね。

井澤:そうです。無機質さを強めた感じで出したんですけど、その時は珍しくディレクションで「せっかくここまで物語を積み上げて寄り添ってきたのに急に切り捨てるのもあれだから。本当に純粋に理解できない。反対しているのではなく、なぜかが解らないという方向に寄せてください。」という事を言っていただいたので、「なるほど。」と思い、本番はもう少し人間らしさを出す形で演じさせていただきました。

──アンドロイドというよりも子供みたいなイメージですね。

井澤:はい。ピーノに関しては私もスタッフのみなさんも純粋さを大事にしています。ディレクションでは「解らないという方向」でと言われましたが、“知らない”という方がより正しい表現かもしれないですね。

──確か“知らない”という表現はしっくりきますね。ピーノ自体がメモリーを消去されてしまって過去の記憶がないので、経験がないですから。

井澤:もしかしたら、昔は知っていた感情かもしれないですね。

──現場に入られるまではピーノをどのように演じようと考えられていたのでしょうか。

井澤:最初は、ロボットっぽいしゃべりにするのか、もう少しナチュラルにするのか、そこで悩みました。そういう意味では、表現方法に選択肢がある感じでしたね。

──四皇星よりアンドロイドっぽさが出ているキャラクターですから、そういう点でもどう表現するかは確かに悩む点ではありますね。

井澤:今の可愛らしさを意識する演じ方は真島(ヒロ)先生がきっかけになっています。

──そのきっかけというのは。

井澤:真島(ヒロ)先生が単行本4巻のあとがきでピーノはお気に入りのキャラクターと仰っていて。先生のTwitterでも度々ピーノをアップされているので、それを見て「ピーノは先生の大事なキャラクターだからここは可愛らしくいこう。」と思い、テクニックを駆使するより感じたままに可愛くやった方がいいと考え演じています。

──アンドロイドではなく、本当に生きている存在という事を意識されているという事ですね。放送された第12話でもあった、「ピーノはエデンズの光となる存在」。物語のキーになるキャラクターですが、これからの更なる成長も見据えていらっしゃる形で。

井澤:ピーノは早くに「人間になりたい」という夢を持っているので、そういう意味でも人間にかなり寄り添った立ち位置だと思っています。

──ピーノは記憶を失っていることもあってまだまだ謎が多いキャラクターですが、まだ表に出ていないバックボーンなどは聞かれていたりするのでしょうか。

井澤:私たちも原作以上の情報は特にいただいていないので、毎回原作を読んではなるほどと思っています。

──そこは私たちと同じ目線なんですね。最初に原作を読まれた際のイメージは如何でしたか。個人的な感想になるんですけど、SF作品ですが『オズの魔法使い』のようなお話だなと感じています。

井澤:確かに、『オズの魔法使い』のような部分もありますね。私は“すごろく”みたいだと思っています。星に行ってミッションをこなして、次の星に向かう、そうやってゴールを目指す。真島先生がゲームを好きなのもあると思うんですけど、ゲームっぽさはありますよね。

──確かに。

井澤:あと、衣装チェンジが凄く多い作品だなと思いました。何々編みたいな感じでコスチュームが変わるのがオタク心をくすぐられるので楽しいです。

──そうですね、ビジュアル面でも楽しい作品です。

井澤:髪型も変わりますもんね。そうやってキャラクターがより魅力的になるようにどんどん調整されているのは良いなと思います。ピーノもどんどん等身が低くなって(笑)。

──デフォルメの速度も速いですよね。

井澤:オーディションに受かった時に「ピーノは等身どうなるんですか」ってスタッフさんに聞いたんです。オーディション資料の時は最初の登場シーンだったので高めだったんでけど、これから低くなっていくからどうすればいいんだろうと思っていたんです。

──そんなやりとりが(笑)。ちなみにスタッフさんはどう答えられたのですか。

井澤:「中間をとります」という事でした。

──放送も進んでいますが、真島先生とお話しされたことはあったのでしょうか。

井澤:コロナの影響もあって、今のところ直接お話しをということはないです。ただ、ピーノが出てくる回が放送された後に真島先生から直接「思っていた以上にピッタリでした」とメッセージをくださって嬉しかったです。

──最高の誉め言葉ですね。

井澤:お話ししたいことは沢山あるので、早く落ち着いてお会いできるのを楽しみにしてます。

基本は任せていただいています

──『EDENS ZERO』はマスコット的なキャラも多くピーノもその1人で、ほかにはハッピー、個人的にはモスコもそうだと思っています。

井澤:わかります(笑)。

──特にピーノとハッピーは近い位置に居るのかなと思っているんですが、その点はどうバランスを取られているのでしょうか。

井澤:モスコは置いておいて絶対的なマスコットのハッピーが居て、それを今作でも釘宮(理恵)さんがやられているじゃないですか。釘宮さんのハッピーに負けないように、並べるようにと気合は入れて頑張っています。

──いまは収録も人数制限があると伺いますが、釘宮さんと現場でご一緒されている機会はあるのでしょうか。

井澤:何度かご一緒させていただいています。

──生ハッピーはいかがですか。

井澤:かわいいです。「アイッ」って聞くとドギマギしてしまいます。釘宮さんからも「ピーノ可愛いね。」と言ってもらえて感動しました。石平(信司)総監督も「ピーノ可愛い。」と言ってくださいます。

──実際に可愛いです。この先、もっと感情豊かになっていくのが、開花していくのが楽しみです。

井澤:そうですね。デジタリス編ではピーノが人間ポイ見た目に変わるんです。実際に見るのが楽しみです。

──その時は等身も変わっているので、合わせて演技を変えている部分はあったりするのでしょうか。

井澤:若干、変えています。そんなにガラッとではないですよ。

──大幅に変更してしまうとキャラクターにズレが出てしまいますからね。

井澤:ピーノを演じるときのコダワリじゃないんですけど、人間を演じるときとは呼吸を変えているんです。

──呼吸を変えているというのは。

井澤:人間だとセリフの中で吸って吐いてをするんですけど、ピーノはアンドロイドなので言葉と言葉の合間のブレスを減らして、呼吸の部分していることを感じさせないような機械的な発音をしているんです。でも、それをしているがゆえによく訛るんです。毎回苦戦しているのが「ワイズさん」という発音で、この発音方法だと「高尾山」「富士山」みたいな語尾が上がる発音になりがちらしくて度々注意されました。いまはそれでいいという感じになっています。

──発音も含めてキャラクターとして受け入れられたという事ですね。

井澤:元々、ピーノのしゃべりをそうしてくださいとディレクションされたわけではなく、自分で勝手に始めてしまった事なので、自分で自分を苦しめてしまった形です。

──そこは役者としての意識・コダワリで、素晴らしいと思います。

井澤:ありがとございます。

──先ほどの助けるシーンでは「無機質はやめて欲しい」という話があったという事ですが、ほかにもピーノはこういうキャラクターですといったことや演技のイメージでディレクションされたことなどあったのでしょうか。

井澤:石平総監督や鈴木(勇二)監督・音響監督のはた(しょう二)さんも役者の自由を尊重してくださる方なので基本は任せていただいています。

──他の方の演技を見たり聞いたりする中で、キャラクターを再構築されたという事はあったのでしょうか。

井澤:あえてバランスをという事を強く意識してはいないです。もちろん、会話が成立するようにという事は意識しますが、自分のシーンでぶれると他のキャストの方がやりづらくなってしまうので「コレはこう」と自分の中で一本芯が通っている方がバランスを取れるのかなと思います。

──完成されたアニメを観られていかがでしたか。

井澤:真島先生の漫画も凄いんですけど、シキの重力を操る能力というのはアニメーションでより輝く能力だと思いました。カメラワークの凄さもあるんだと思います。

──動くことで空間が出ますからね。

井澤:あとは、私はEDの入り方が凄い好きなんです。毎話数の最後に曲が流れ始めてEDの映像に入る。あれがアニメらしくて凄い好きです。次回どうなるんだろうと毎回ワクワクしながら観ています。

──OP・本編・EDまでが本当に1つの作品として綺麗に繋がっていて、すぐに終わってしまいますよね。作品の完成度が高くて、私もワクワクしながら観ています。

井澤:ピーノをこれからも演じていくにあたってダビングを観させていただいたんですけど、その際に絵コンテも見せていただいたんです。

──そこまで行かれたんですか。

井澤:はい、その時に資料も沢山見せていただきました。石平総監督の絵コンテはその時点で絵が綺麗で、シキのアクションシーンもドラマチックなんです。そういうコダワリ・思いが完成作品にも出ているんだと思います。

──それだけ作品に対して熱意をもっていただけるというのは、『EDENS ZERO』のファンとしても嬉しいです。

井澤:ありがとうございます。やっぱり、少年漫画のメインキャラクターって気合が入っちゃいますね。

──これからさらに冒険が続いてピーノも更に成長していくわけですが。

井澤:ピーノはとにかく過去が気になるキャラクターなので、私も皆さんと一緒に過去が解明されるのを楽しみにしています。

──デジタリス編ではピーノの夢である人間になりたいというきっかけになる部分もあって。

井澤:個人的には「人間は不老不死じゃないし不便だぞ。ピーノは今のままで十分可愛ぞ。」と思うんですけどね。結局ないものねだりですけどね。不老不死の薬を作る科学者になりたいというのが、一番初めの夢だったので(笑)。

──役者さんというのは“作品が残っていく・記憶に残っていく・忘れられない”というある意味で不老不死なので、違う形で夢を叶えられていますよ。

井澤:確かに叶っているのかもしれませんね。その夢がより実現するように『EDENS ZERO』が長く愛されるように頑張りたいと思います。

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